STEP1 Frozen Flare 50
殺し屋と人殺しは違う。
プライド云々や、良心を感じない云々ではない。人を殺して良心を感じない人殺しなど、腐るほどいる。犯罪大国であるアメリカを、長門は見てきているのだ。
人殺しと殺し屋の違い。殺し屋は、決して誰の仕業か特定できるような手がかりは残さない。
警察の捜査線上に現れることはもちろん、誰かに不信の念を持たれることさえ許されない。
その点でも、長門は完璧な殺し屋だ。
だからこそ、ボディガードと殺し屋という二重生活ができる。
ボディガードの依頼を受けたことのある人間を、別の依頼で殺すことだってままあるのだ。ただ、こちらとしては誰のボディガードをやったかなんてすぐに忘れてしまうが。
「マフィアか何か?」
目を輝かせて聞いてきたザキに、愛美は長門の代わりに素っ気なく答えた。
「蛇の道は蛇ってことでしょ」
愛美は眠いに違いない。
眠くなると、機嫌が悪くなるところなど、本当に子供と一緒だ。
行き場所がないので、長門は仕方なく先ほどと同じ愛美の隣に割り込んだ。
「ボディガードって誰のやったことあるの。有名な奴とか多いんだろ?」
ザキは冷蔵庫から、ペットボトルをとり出して口を付けて水を飲んだ。
欠伸を噛み殺している愛美を、長門は窺うように見る。眠ってもらっても一向に構わないが、こんな所で寝て風邪を――引く訳ないか。
「政治家と芸能人ばかりだが、全部忘れた。一々覚えてないさ」
殺した人間の顔だって、長門は覚えていない。
愛美は思った通り、船を漕ぎ出した。右に倒れると、本を崩すことになる。
ザキも黙って愛美を見ていた。ガクッと頭が垂れて長門の肩に当たったが、愛美はハッと気付いたように目を開ける。
ザキは、無言で部屋の中央のテーブルの前に座ると、置いてあったパソコンの電源を入れた。
暫く愛美はコクリとしては目を覚ますことを繰り返していたが、そのうち本格的に寝入ってしまった。
長門の胸にもたれながら、何も知らないような顔をしている。
壁の時計は、もうすぐ一時をさすところだ。ザキはパソコンの画面を睨んでいたが、やがて諦めたように顔を上げて長門を見た。
「間抜けな面。ベッドに運んでやれよ、どうせ俺寝ないし。そんなんでも一応、あんたの女なんだろ? 何か馬鹿過ぎて、もう何も言う気も起きねぇよ」
長門は軽く肩を竦めて、ザキには聞こえないように小さく呟いた。
「お守も仕事のうちってな」
物の隙間に埋まるようにして愛美は、微かな寝息を立てて、夢も見ずに眠っている。夜中中パソコンに向かうザキの姿と、壁にもたれてぼんやりしている長門の姿があった。




