第一章 妄想爆発
こんにちは、くじょーです。読んでいただければ幸いです。
妄想は、人ならば誰でも一度はするもの。
それはスーパーヒーローになって世界を救う。白馬に乗った王子様が迎えに来る。突如、異能力に目覚めて学校に侵入してきたテロリストたちと戦うなど。
……あとで思い出してみると恥ずかしくて、穴があったらその中に爆弾を持って入りたい。
しかし、それでも妄想をやめることはできない。
答えは単純、人という生き物は、退屈な日常にある種の嫌悪を抱き、非日常に強い憧れを抱いているからだ。
俺、榎宮徹もそのうちの一人であり、いつも同じようなことを繰り返すだけの退屈な日常に嫌気がさし、非日常に憧れ、妄想に埋もれた。
学校で、家で、果てはトイレの中まで。
あらゆるところにテロリストを侵入させたし、あらゆるところで世界を救った。
しかし、それは決して現実にならない。
まして、だれかの役に立つわけでもなく、一人でニヤニヤしているところを見られ、気味悪がられるだけだ。
何度頭の中でテロリストを殲滅しても、現実ではテロリストはいなくならないし、何度頭の中で世界を救っても戦争は終わらなければ飢餓もなくならない。
結局、妄想は妄想だ。
それは耳にたこができるくらい、何度も何度も自分に言い聞かせた。
それでも俺が妄想をやめなかったのは、きっと俺がそれほどまでに退屈な日常を嫌っていたからだろう。
しかし、俺がどれだけ日常を拒んでも、嫌っても、毎日毎日その日常はやってくる。
太陽が東の空から昇ってくるたびに始まり、西に沈んでゆくたびに終わる。その繰り返しだ。
いつまでも、死ぬまでずっとそんな退屈な日常が続いていくのかと思った。
――――今日、この日までは。
さわやかな風が、仰向けになって寝ている俺の前髪を揺らした。
暖かい気候の中で吹くその風は、とても気持ちがいい。
後頭部には何やらやわらかい感触。
俺は目をうっすらあけながらその感覚を感じ取り、心地よい微睡の中にいた。
(ん……もう朝か……まだ寝ていたいけど、たぶん今日もまた遅刻ギリギリの時間なんだろうし起きるとするか。)
昨日は遅くまで〝妄想〟をしていたため、それに伴い就寝時間が遅くなってしまっていた。
俺は頭をやわらかいものに預けたまま、目元を、両手の人指し指でこする。
(それにしても、さっきから吹いてくるこのさわやかな風は心地いいな。この部屋少し暖かすぎるからちょうどいい……って、あれ?)
そこまで思い、はたと気づく。同時に、目元をこする指がをぴたりと止める。
(確か今は冬のはず、それに風?俺の部屋にエアコンはないはずだし。窓を閉め忘れたか?それで風が入ってきているとか、いや、冬だぞ、それなら寒いはずだ。なぜ今暖かいと感じているんだ?)
急速に頭が覚醒していき、さまざまな矛盾点が見つかってゆく。
とりあえず、指を目元から離し、辺りを確認してみることにする。
「ん?起きたのかな?」
瞬時に首を右に倒し、まず目に付くのは広大な平原。
もしかしたらこの先にはずっと平らな道しかないのではないか、そう思わせるほどに果ての見えない平原だった。
「ちょっと、君?お~い、聞こえてる?」
今度は左に首を倒すと、薄い水色の壁があった。俺の顔が接している面は肌色で、多少俺の頭の形に合わせてへこんでいる。
あとものすごくやわらかかった。
「言葉通じてるよね?どこの国の人?」
少し待ってくれ、俺はどうかしてしまったのだろうか。
昨日はベッドで寝たのに朝起きたら変なところにいた、冬なのに暖かい、そして。
「ねえってば!私が話しかけていることくらいはわかるでしょう?」
一番ありえないのは、さっきから極力見ないようにしていたが上から覗き込むようにして俺に話しかけている少女らしき人物。
しかも、今俺は。
(女の子に膝枕されてね!?)
いや待ってほしい、俺は非モテ童貞、生まれてこの方まともに女子と話したことすらない純情ボーイなんだぞ?なのになんでいきなり膝枕されているの?もしかしてこれは妄想か?ついに五感全てを妄想の中にいざなうことに成功したというのか!なにそれ凄い!
「えい」
ぎゅうううううううう。俺が心の中で騒いでいると、まったく話さない俺に業を煮やしたのか、俺を膝枕している少女は俺の頬を抓りあげた。
「いだだだだだだだ!」
俺は思わず叫んでしまう。
すると、そんな俺を見て少女は、俺を抓っている方と反対の手を、自身の口元にもってきて上品にクスリと笑う。
「自業自得、無視し続けた罰だよ」
少女がそういって、ようやく俺の頬を抓っている手を離してくれた。
俺はまだジンジンする頬を抑えながら少女の膝から転がり落ちる。
ファサッ。頭が着地したのは芝だろうか、二ミリくらいの草が肌に刺さってちくちくする。
「痛いじゃないか!」
俺は立ち上がると、非難の視線を込めた目で少女を見つめるが、それも一瞬、俺は目を見開き、呆然とその少女を眺めていた。
「ふふっ、言ったでしょ、自業自得だよっ」
そういっていたずらが成功した子供のように無邪気に笑う少女。
金髪碧眼。その美しい金色の髪を頭の左右で二つに結び、やや整った顔立ち、特に、ガラス細工の様に丸く大きな瞳は光が入り込み、宝石のように青く輝いていて、見ている俺はその瞳に引き込まれそうになってしまう。
しばらく俺が呆然と少女を眺めていると少女は怪訝な顔をして俺を見てくる。
「ねえ、君、大丈夫?」
「え、ああ。大丈夫だ、問題ない」
(大問題だ、心臓がバクバク言っているぞ、イー○ック。)
意味の分からないことを内心で言いつつ、俺はできるだけ平常心を保ちながら、少女に聞いた。
「えっと、その、いったいここはどこなんだ?」
「ここはグランヘント王国、その隅っこのほうにあるフレイという町よ」
少女はそう答える。もう一度聞こう。
「ここはどこなんだ?」
「いや、だから、グランヘント王国の隅っこにあるフレイって町だよ」
真顔で答える少女。
ふむ……。
「お前も中二病か」
自然と口をついて出てきたのはそんな言葉だった。
「ちゅうにびょう?」
少女は何それ、おいしいの?といったように小首を傾げる。
「自覚症状はなしか、重症だな。」
自覚していない中二病ほどかわいそうな生き物はいない、俺も昔はそうだった。所構わず妄想の中の、中二的な言動をして周りからドン引かれていたっけ。あれは確か中三の夏、クラスで自分が一番カッコいいと思っていた態度と話し方で周りと接していたら、クラス全員に一時期ガン無視されたっけな。
「いいか、自覚しなければきっといつか後悔する時がくる。みんなから口調をまねされて馬鹿にされ、揚句にボッチで便所飯。これは実体験談だ。」
「何を言っているのかはわからないけど君がかわいそうな人っていうのはなんとなくわかった気がするよ。」
ざっくり言われてしまった。
「それよりもさ、君はどこから来たの?その黒の髪の色と瞳の色から推測するにノールの町出身かな?」
「い、いや、日本というところだ。」
「ニホン?」
聞いたことがない、と頭の上に?マークを浮かべる少女。
「……本当に知らないのか?」
「うん、私はこの王国の隅々の町や村の名前まで覚えているけどニホンなんてところは初耳だよ。」
「そうか……」
どうやら本当に知らないらしい。
…………。
ありえないが、もしこの世界が俺の知っている世界とは違うところだとしたら……。
そうだ、ありえないと思うがこれを聞いてみるか。
そんなことはないだろうと思いつつ少女に聞くことにする。
「なあ、この世界には〝魔法〟ってあるのか」
異世界なんかだと定番中の定番〝魔法〟もちろん現実には使えない。もしこれが使えるならば、ここを異世界として認めなければいけない。
対して、少女の言葉は。
「何言っているのさ、魔法がないと私たちの生活は成り立たないでしょ?」
当然でしょう?と言わんばかりに言ってきた。
「私たち人に限らず犬や猫、草木だって。この世のあらゆる動植物が魔法を使える。常識だよ?」
そういうと俺から少し距離を取り、少女は手をパーにして、自分の前にやや離して出すと、何かを呟き始める。
「偉大なる炎の女神フレイよ、我、人の子であるアリスの祈りを聴き入れ、此処にその強大な力の片鱗を示せ、ファイア!」
すると、言い終わるのと同時、ゴウッ!と少女の頭と同じくらいの火球が少女の手の上に出現する。
炎の輝きが少女の金色の髪に反射して、まぶしい。
俺はそのまぶしさに目を細める。
「……魔法、じゃあ本当にここは?」
俺は驚きつつも事態を把握する。
(本当に、俺は異世界に来ちまったのか?)
俺が戸惑いながら少女を見ていると少女もこちらを向き直る。
「?君って本当に不思議だよね、ファイアなんかで驚くなんて。魔法の初歩の初歩だよ?」
言いながら手にした火球を空に向かって掲げる。
「パージ」
少女がそういうと火球は空に向かって飛んでゆく、やがて、肉眼で確認できるぎりぎりの距離のはるか上空でポンと音を立てて消えてしまった。まるで水素を入れた試験管の中に火のついた線香を入れた時に出るような音だった。
「す、すげえ!」
俺は興奮気味に叫ぶと少女に近付きその細い肩をつかんでガクガクとゆする。
「俺にもできるのか?なあ、おい!」
「うううううんんんん、でええええきいいるうううかああらああああ、おおおちいいつうういいいてえええええ」(うん、できるから落ち着いて。)
「よっしゃあ!俺にも魔法が使えるんだな!俺魔法にすっごい憧れてたんだよ!」
パッと少女の肩から手を放す、少女はフラフラしていた。
頭をツーテールごとぶんぶん振って気を取り直したのか、少女が聞いてくる。
「詠唱するときに自分の名前を入れないといけないんだけど、自分の名前は覚えてる?」
「おう、俺は榎宮徹。そういえば、お前の名前も聞いていなかったな嫌じゃなければ教えてくれよ。」
「うん、私の名前はアリス。よろしくねトール君」
「おう、よろしくアリス」
この時、俺は少し疑問に思ったことがあったのだが、なんとなく聞くのが憚れて、結局聞くのはやめておいた。
「じゃあ、まずこんな風に構えて……」
さっそくアリスは俺に魔法の出し方を教えてくれる。
俺は教わった通り、手を前に出し、詠唱を開始する。
「い、偉大なる炎の女神フレイよ、我、人の子である榎宮徹の祈りを聴き入れ、此処にその強大な力の片鱗を示せ、ファイア!」
…………。
………………。
「あれ?」
何も起こらない、もう一度呪文を唱えてみる
「偉大なる炎の女神フレイよ!我、人の子である榎宮徹の祈りを聴き入れ、此処にその強大な力の片鱗を示せ!ファイア!」
しかし、先ほどと同じように何も起こらない。
俺はアリスのほうを見るとアリスはあきれたように俺を見ていた。
「トール君、もしかして何も考えずに詠唱だけやってない?ちゃんとイメージしないと。」
「イメージ?」
俺はアリスに聞き返す。
「そう、魔法は術者の精神と思考に干渉して発動するんだから。何も考えずに詠唱だけをしても効果がないのは当り前だよ。今度は頭の中で炎を思い浮かべながら詠唱してみて。」
「ふむ、炎、か。」
精神、思考そこに干渉して読み取り、魔法は初めて形になる。つまりは魔法使いたかったら妄想しろってことか?
「……炎、燃え盛る、漆黒の、すべてを飲み込むような混沌の……。」
妄想なら俺の得意分野だ。どうせなら小さいのじゃなくて漫画やアニメで見るような大きくてかっこいい炎を出そう。
大きく、黒く、すべてを燃やし尽くすようなやつを。
俺は全力で妄想する。大きさ、色、威力。
「いくぜ!」
俺は叫ぶように詠唱する。
「偉大なる炎の女神フレイよ、我、人の子である榎宮徹の祈りを聴き入れ、此処にその強大な力の片鱗を示せ、ファイア!」
「トール君、いくら大きな声でやってもファイアは大きさが大体決まっているから大きくならな――――」
アリスの苦笑気味の言葉が途中で止まる。
「どうしたんだ、アリス?」
俺はアリスに振り返り聞くが、アリスは口を開けて俺の〝頭上〟を見ている。
つられて俺も上を見る、そこには俺が妄想した通りの火球があった。
大きさは優に直径10メートルを超えていて、色は光がまったく感じられない漆黒。温度は、なぜか熱くない。妄想した時に温度のことをイメージし忘れたからだろう。威力はわからないが、妄想通りならば、アリスが出した火球の軽く10倍くらいはあると考えられる。
全て妄想通り、別に変なところはないはずだが。
「なあ、アリス何か変なところでもあるのか?」
しばらく何も言わないでいるアリスに、不安になって声をかける。
すると、やっとアリスが口を開いた。
「変というか、規格外……。これなんて魔法なの?」
「ファイアだけど、アリスが教えてくれたんじゃないか」
しかし、アリスは俺の言葉に首を振る。
「私が教えたのはファイアだよ?これはどこからどう見ても神格魔法、混沌の黒炎並みの威力を持ってる……」
神格魔法?カオスフレイム?なんだそりゃ?
「なあアリス、コレ消すのってどうすればいいんだ?」
俺は左手で漆黒の火球をさす。正直挙げている手が疲れてきた。
「空に炎を向けてパージって言いながら、その炎を飛ばす感じをイメージして。」
俺はまた妄想する。飛んでいく、漆黒の火球を。そして。
「パージ!」
一瞬にして漆黒の火球ははるか上空に打ちあがり。
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
大気を震わせ、激しい閃光をあげ、爆発した。
爆風が上空から俺たちのいるところまで届き、凄まじい風が吹き荒れる。
アリスは吹き飛ばされそうになり、手じかにいた俺にしがみついて何とかこらえる。
「おお、これが俺の魔法か、かっこいいな!」
目を輝かせて喜ぶ俺、すると、突然服の袖をクイクイと引っ張られる。
横を見れば、アリスが俺のことを真剣な顔で見ていた。
「どうしたんだアリス?」
アリスは俺の目をまっすぐ見ながら言う。
「私の、復讐を手伝って――――」
次回もよろしくお願いします。




