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第34話 黒縁眼鏡③

以前はこの回で【完】としていましたが、この後もお話は続きます!!

 ひとしきり笑いが収まってくると、ぜえはあと、全力疾走した後のように息を切らし、二人ともソファに座ったまま項垂れている。その呼吸も落ち着いてきた頃に、ふ、とお互い顔を見合わせて視線を交わした。距離が近い。

 だが、今まではこんな感情を持っていなかった。お互いが想いを寄せている状態で、この距離感は初めてかもしれない。

 不意に猫柳が武藤に顔を寄せてくる。唇が触れ合う。武藤は黙ってそれを受け入れる。これが、お互いの想いの答え。

 唇が離れ、距離を開けようとした猫柳の両頬を手で包んで捕まえると、武藤はこつんと額を合わせた。

「これは……そういうことで、いいのか」

「……うん。武藤くんこそ、これでいいの?」

「愚問だな」

「そっか」

 ふふ、と猫柳が穏やかに笑う。武藤の身体をソファに寝かせるようにそっと倒すと、その上に乗った猫柳が、武藤の黒縁眼鏡をそっとはずした。

「おや、……意外と童顔?」

「うるさい。あんまり見るな。気にしてるんだ、これでも」

「あは、どんな武藤くんでも大好きなのに」

 ことり、と眼鏡をテーブルに置くと、猫柳は顔を寄せる。

「このぐらい?」

「もう少し遠くても大丈夫だが、……いいな」

「何が」

「眼鏡がなくても、この距離ならお前の顔がよく見える」

「イケメン?」

「そんなこと一言も言ってないが」

「じゃあ、もう少しもらってもいいってことかな?」

「それも言ってないが……まぁ、それなら」

「うん」

 すっと顔を近づけて、猫柳は武藤にキスをする。角度を変えて何度も。舌先で武藤の唇を撫でるように舐めると、うっすらと開いたその口腔に舌を滑り込ませる。

「ん……ぅ」

 今まで感じたことのない感触に、武藤の肌がぞわりと粟立つ。だが手は猫柳の首に回されたまま、徐々に猫柳の動きに応えるように、舌が動く。絡めて、吸い合って、お互いにこれ以上続けたら止まれない、というタイミングで猫柳は武藤を解放した。

「初めてだった?」

「こんなの……何度もあってたまるか」

「やったぁ、武藤くんのハジメテをいただきましたー」

「くッ殺《ころ》……」

「どこで覚えたの、それ」

「ライトノベルだったか、漫画だったか」

「だいぶ古いよ?」

「知ってる」

 抱き合って、くすくすと笑い合う。ソファの下では、放り出された文芸誌が、寄り添うように落ちていた。







俺は今、恋をしている。

以前、俺は『小説』に恋をしたと話したと思う。

しかし本当の相手は小説じゃなく、『化け猫』だった。

まるで『妖怪』に惚れた変人のようだろう?

だけど、どうやらそれも間違いだったみたいなんだ。

物語には作家の感情や思想が入る。

しかし、それらを持つのは妖怪じゃない。『人間』だ。


だから――――この気持ちは、恋と呼んでいい。

しかも、恥ずかしながら、これは最初からただ一人に向けたものだった、らしい。


【“恋”を理解した、ある読者のはなし】







次回へ続く!!

☆面白かったときは評価や感想、レビューなどお待ちしています☆

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