第29話 東雲朔夜①
(うーん……?)
年も明け、冬休みも終わり、大学の日常が戻った頃。猫柳は部室でスマホを見ながら首を傾げていた。スマホの画面はLINEのトーク画面で、相手は武藤なのだが。
『今どこ?』
この文面に対して返事が来ないのだ。既読にはなっているので、メッセージは見ているはずなのに。確かに即レスはされないことの方が多い。しかしそういう時は既読もつかないので、納得はできた。
今までこんなことはなかった。見たなら返事をくれる、律儀な奴だから。
「うーん……」
しかも、これが初めてではない。冬休み明け直後ぐらいからこの状態が続いている。
「冬休みの間に何かあったわけじゃないと思うんだけどなぁ……。一緒に初詣も行ったしなぁ……俺、なんかしたっけ……」
悩んでいても仕方がない。猫柳は持ち前の前向きさで、どこかにいるはずの武藤を探してみようと決めた。
【すまん、遅くなった。今家だ】
学生棟や学内のカフェ、食堂、法学部の教室も、場違い感を味わいながら探したが、そのどこにも武藤はいない。まだ時間は17時だが、1月の空はもう真っ暗だ。
そんな中、猫柳のスマホが通知音を鳴らし、見てみると武藤だった。こっちのメッセージは確認してたくせに、今頃になって返事が来た。しかも自宅ときたか。
『探してたのに!』
【何か用があったのか?】
『用がなきゃ探しちゃダメなの?』
【普通は探さないんじゃないか?】
武藤のメッセージに、猫柳が数度瞬きをする。確かにそうだ。そういえばそうだ。
『今日は武藤くんちで夕飯食べていい?』
【いいぞ】
『じゃあ総菜買っていく』
【了解】
そうしてスマホの画面を落とすと、猫柳はさっきの武藤とのやり取りを思い出し、もう一度「確かに……」と呟いた。
自分はあの時、武藤に居場所を聞いて、教えてもらってたらどうしていたのだろうか。たぶん、その場所に行くはずだ。行ってどうする?別に何もしない。武藤が何かしていたら、それを邪魔するつもりもない。ただ目の見えるところに、手が届くところに、いてほしかっただけ。
「うわぁ……俺、重症じゃん……」
思わずしゃがみ込んで呟く猫柳のすぐ傍を、数人の学生が不思議そうに見ながら通り過ぎて行った。
武藤は『それ』を見た時、しなしなに萎れたほうれん草か?と思った。インターホンが鳴ったので開けてやれば、よく分からないがそんな感じの猫柳がいたのだ。
「やっほー武藤くん、来たよー」
「……どうした、猫。腹でも壊したのか?……もしかして俺に居場所を聞いてきてたのは、ヘルプ要請だったのか?」
「違う!違います!!そんなカッコ悪いことで武藤くん呼んだりしないよ!!」
「もう格好悪い部分なんて、十二分に見てきてると思うんだが……」
訝しげに眉を顰めて言う武藤に、だいじょぶだいじょぶ、と言いながら武藤の横をすり抜けて、当たり前のように中へと上がっていく。
「総菜買ってきたよ~。今日はアジフライ」
「おっ、いいな」
ガサガサとレジ袋の中身を出しながら言う猫柳に、武藤は少し表情を明るくして室内に戻る。猫柳の到着を待っていたから腹ペコなのだ。
また総菜を温めようとレンジを開けて、そうだ、と思い出した猫柳は武藤に告げた。
「武藤くん、レンチンが終わるまで冷蔵庫に近づかないでね」
そうしたらリビングの方からクッションが飛んできた。うまくキャッチして猫柳は笑う。
――――今の自分はちゃんと笑えているだろうか?
「あのさ、武藤くん」
「なんだ?」
二人で夕飯をつつきながら、何気なく猫柳は聞いてみた。
「今日さ、大学来てた?」
「? 普通に来てたが?」
「忙しかった?」
「いや、別に……いつも通りだったが……」
「ふぅん……?」
武藤の答えに猫柳が首を傾げる。だったらやっぱり武藤のLINEの件が引っかかる。あまりにも、武藤らしくない。
「あのさぁ」
「ん?」
「ねー武藤くん、いい加減、合鍵くんない?」
「……いいぞ」
「は、ぇえ!?ちょ、ちょっと待って武藤くん!冗談!いつもの冗談だよ!?」
「ああ、冗談か。それならそれでいいんだ」
合鍵を取りに行こうと立ち上がりかけた武藤を、猫柳は慌てて押さえる。ここは普段なら「断る。」一択のはずなのに。
(……武藤くんがおかしい……!!)
猫柳には何が何だか分からないが、少なくともそれだけは理解した。
翌日、大したことではないが用があって、猫柳は武藤にLINEを送った。
『武藤くん、ちょっと相談あるんだけど、どこにいるかな』
正直に言えば、今すぐでなくても良い。必修科目で分からなかった部分を、教えてもらおうと思っただけだった。用事があると返事があれば、別日でも構わないような、その程度のことである。
だが、何となく待つだけというのも落ち着かないので、返事を待ちながら、猫柳は大学内をあちこち探し歩いてみた。しかしやっぱり見つからない。
確かに大学は広い。だからこそ、ある程度行動範囲は絞れると思って、いそうなところを見て回ったのだが。
「いないなぁ……」
そう呟きながら、そういえばLINEはどうなったかなと確認する。通知音は鳴ってなかったので返事は来ていないだろうと思い、画面を開いて猫柳は絶句した。
既読になっている。しかし返信がない。『相談がある』と書いたにもかかわらず、だ。また既読無視かよ、と少し苛ついたが、だからといって『返事くれ』なんて追撃で送るのは格好がつかない。
そうしてまた日が暮れて、帰ろうかなと思った頃にLINEの通知音が鳴った。
【バイト中だ】
武藤だ。今頃返事が来た。しかもバイト中などと書いているが、この時間帯なら夜番だろう。一体、昼間はどこにいたというのか。
【すまん、相談は急ぎか?】
『いや、明日でもいいよ。バイトがんばれ』
【ありがとう】
昨日のように武藤の家に行くことも考えたが、猫柳は今日は自分の家へとまっすぐ帰ることにした。
次回へ続く!!
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