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記憶を失くした転生王女は竜騎士陛下に溺愛される  作者: 五条葵


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7 魔竜との対面

「これは可愛く、いえ失礼、美しくしてもらいましたね」

「あ、ありがとうございます……その……どちらも嬉しいです」


 ハインツ様の政務と私の妃教育。その両方の都合が奇跡的についたある日の午後。

 私は馬や竜に乗るために仕立てられたという、この世界では珍しいパンツスタイルの服で、城の裏庭まで来ていた。


 今日はあの日約束した、ハインツ様の愛竜に乗せてもらう日。あの後、侍女たちにこの話をしたら上へ下への大騒ぎになった。


 ……なんでも、ハインツ様の愛竜はその強さ故に王国でも有名らしく、彼に乗せてもらえるのはとんでもなく栄誉なことだそう。


 そして、竜に乗るには専用の衣装が必要で、その準備も必要らしかった。


 とはいえそこは優秀な侍女たち。1週間もすれば、愛らしくも凛とした騎竜服が出来上がっていたのだった。


「前世ではスカートとズボン、半々くらいだったのですが……なんだか久しぶりに履くと違和感がありますね」

「そういえば……そんなことをおっしゃってましたね。大丈夫ですよ、とってもお似合いです」


 そして、相変わらずハインツ様の褒め殺しは止まらない。

 私は思わず頬を染めつつ、彼に手を取ってもらいながら、城の裏手にあるという竜舎を目指した。


 城で飼われている魔竜達が住む竜舎はパッと見、厩舎のようだ。違うのはそのサイズ感。さすが空飛ぶ生き物だけあって、ちょっとした屋敷くらいのサイズはある。


 その建物の大きさにまずおののいていると、隣のハインツ様が「大丈夫ですか?」と声をかけてくださった。


「今さらですが、魔竜のこと……まだ恐ろしいようでしたら引き返しても構わないのですよ」


 私はこの国までやってくる道中で、魔竜に襲われている。この世界での記憶を失ったのもそのせい。

 だから、ハインツ様も気を使ってくださっているのだけど……


「いえ、大丈夫です。本来魔竜は温厚で友好的な生き物だと学びました。あの時はなにかが変だったのですよね」

「えぇ、普通はたとえ野生でも魔竜が人を襲うなんてことはありません。危険度でいえば、他の魔物の方がずっと高いですし、だからこそ魔竜は我が国で崇拝されているのです」


 魔竜、というのは王国のシンボルだ。王室の紋章も竜。

 王国軍には魔竜に乗って戦う、竜騎士の部隊があり、王国民の尊敬を集めている。


 そして、何と言ってもハインツ様自身が当代一の竜騎士だ。


 そんな国に嫁ごうという人が、魔竜が怖いなんて言っていられない。

 ハインツ様が魔竜での遠乗りに誘ってくださったのは、そんな理由もあるのだろう。


 ハインツ様の言葉に力強く頷いて見せる私――これは決して強がりではない。

 この気持ちはハインツ様にも通じたのか、彼は再び前を向いて、ゆっくりと私の手を引いてくださった。


 竜舎の入口まで来ると、警備に立っている王国軍人が、私達に折り目正しい敬礼をする。

 彼らに軽く会釈して中に入ると、その中にいたのは、まさしく子供の頃に絵本で見たような、立派な竜達だった。


「す、すごい……彼らが魔竜」

「えぇ、我が国の誇りです。さぁ、こちらへ。コニーを紹介しましょう」


 竜、と聞くと獰猛な印象を持つけど、少なくともここにいる竜達はみなリラックスした様子で翼を休めている。


 中には鱗を気持ちよさそうにブラッシングしてもらっている竜もいたり……

 そんな彼らの間を通り竜舎の奥まで進むと、そこにいたのは、ひときわ目をひく深い青色の竜だった。


「彼がコニー。私が子供の頃から相棒の魔竜です」

「コニーさん。初めまして……エマと申します」


 魔竜と相対する時は何より礼儀正しくすることが大切。そう聞いていた私は青い竜の前で胸に手を当て、腰を深くおるお辞儀をする。


 すると、光沢のある青い鱗が美しい竜は、チラリとこちらを一瞥する。

 それから「クリュッ」と短い鳴き声を上げた。


「ハインツ様? これは……?」


 私は隣のハインツ様に思わず問いかける。するとハインツ様は少し苦笑しながら、コニーさんの方へ向かい、彼の翼をトントンと優しく撫でた。


「初めて見る人だからびっくりしてるんだろう。コニー、彼女はエマ。私の妻になる人だ。今日は彼女にこの国を見せてあげたいんだが……どうだろうか?」


 そしてハインツ様がコニーさんに語りかけると、彼はまた「グリュリュー」と鳴き声を上げ、私の方を見る。


 一瞬足がすくんだ私だけど、なんとか彼に笑いかけてみる。


 すると、なんとなくだけど、コニーさんの表情が緩んだ気がした。


 そのまま彼とコニーさんと対峙すること1分くらい。不意にコニーさんが「クリューッ」と雄叫びを上げて、のっそりと立ち上がった。


「ハインツ様……?」

「あれは伸びみたいなものですよ。コニー! よし、じゃあ外に行こうか」


 ハインツ様がコニーさんに声をかけると、彼はまた短く鳴いて、竜舎の外のほうへ向かってのノソッ、ノソッと歩き出す。


 そのなんとものんびりした歩き方が可愛らしく、私は最初の恐怖も忘れて、ハインツ様とともにコニーさんを追いかけたのだった。


 コニーとハインツ様、そして私が向かったのは、竜舎を出て少し歩いたところにある、広い原っぱのような場所。

 ここは、王城に詰める騎竜騎士達の演習場となっているらしい。


 王城の魔竜とはいえ、緊急事態でもない限りは飛び立てる場所は決められている。

 故に、かしこいコニーは「飛びに行こう」と言われただけでこの場所を目指したようだった。


「コニーさんってかしこいんですね」

「えぇ、魔竜は魔物の中でもずば抜けて知能が高いのです。人間とこれほどまで意思疎通を出来る魔物は彼ら以外にはいないと言われてますね」

「そうなんですね……コニーさん、すごいです」


 私がコニーさんの方に羨望の眼差しを向けると、コニーさんは「エッヘン」とばかりに「クリュ」と鳴く。

 心持ち表情も誇らしげだ。


 そんな話をしつつ歩いていると、程なく少しばかり雪の残った野原にたどり着く。竜騎士の演習場だ。


 コニーさんは伸びをするように一度羽を大きく震わせてから、その羽根を畳んで待機姿勢に入る。

 竜というとどうしても大きくて怖いイメージだけど、さっきまでのやりとりと、どことなく鳥っぽい仕草のおかげで彼に対する恐怖心はほとんどなくなっていた。


「では、行きましょうか? エマさん?」

「はい、ハインツ様」


 私がしっかり頷いたのを確認してから、ハインツ様は私を縦抱きにして、コニーさんの背にのせてくださる。

 それから自分も私の後ろに乗り、そしてコニーさんの背に手を当てて、魔法をかける。


 と、不意に腰から下がグッと安定したのを感じた。


「私とエマさんをコニーの背に固定する魔法をかけました。これでコニーが背面飛行したって落ちませんからご安心ください」

「ありがとうございますっ! ……つてコニーさん、背面飛行することも……?」

「ハハッ、冗談ですよ。訓練ではそういうこともありますが、今日は遊覧飛行ですからそんなことはしません。な? コニー」


 ハインツさんがそう笑いながら、ポンポンっとコニーさんの背を叩くと、コニーさんは「もちろんっ」とばかりに軽く背を振り、鳴き声をあげる。


 確かに、またがっている背中は多少揺れたけど、全く振り落とされるような感覚はなかった。


「さて、では行きましょうかエマさん。めくるめく王国の空の旅へ! コニー、頼んだよ」

「クリュー!」


 ハインツ様がやや芝居がかって言うと、それにコニーさんが答え、そして彼の翼がゆっくりと羽ばたき始める。

 そして、コニーさんは私達をのせたまま、ゆっくりと大空は飛び立ったのだった。


 さっきは鳥みたい……なって思ったコニーさんだけど、翼も体も大きいだけあって、その飛ぶスピードは鳥の比ではない。


 何度も旋回を繰り返しながら、ぐんぐん上がる高度と遠くなっていく青い屋根のお城。

 ちょっぴりその早さに怖さを感じつつも、空からの景色をみてみたくもある私は恐る恐る薄目を開ける。


 と、不意にギュッと後ろから抱きすくめられて、体がさっきまでより1段と安定した。


「失礼、エマさん。コニーがどんな飛び方をしたって落っこちることはありませんが、とはいえ揺れますからね。こうして少し支えさせていただきます」

「あ、ありがとうございます……ハインツ様」


 確かに彼の言う通り、冬風の吹く上空はなかなかに揺れる。ハインツ様の腕に支えられて、安定感はグッと増したけど、同時に今までにない距離で彼と密着したことで、私の体温が急速に上がっていったのだった。

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