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記憶を失くした転生王女は竜騎士陛下に溺愛される  作者: 五条葵


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13/18

13 王国の年越し

「エマさん、準備は良いですか?」

「はい、陛下! コニーさん、よろしくお願いしますね」

「クリュー!」


 もうすぐ1年も終わろうかというある日。私はモコモコのコートにフワフワの帽子、さらには防寒魔法重ねがけという厳寒仕様で、城の演習場へきていた。


 私の前で元気な声を上げるのは、ハインツ様の青い愛竜コニーさん。

 そして奥では、赤と緑の竜がそれぞれ出発の準備を進めていた。


 暦の中身こそ違うものの、1年が冬に始まり終わるのはこの世界でも同じだそうだ。

 寒さは一段と厳しくなっているけれど、もうすぐ新年を迎える王国はどことなく明るさに満ちている。


 そして、この時期に故郷へ帰る人が多いのも元の世界と同じらしい。

 地方に領地を持つ貴族達は、社交が一段落する冬の始め頃から領地に戻るし、一般の人々も新年は地元に帰る人が多いそう。


 雪の中の帰省、というのは想像するだに大変そう。

 けれども国の人達は慣れっこらしく、王都の中央広場からはこの時期、ひっきりなしに乗り合い馬ぞり、なるものが出発するそう。凍った川には魔法を使って氷の上を滑る船が現れるのだとか。


 そして今日からは、ハインツ様と私も短いながら里帰りをする。

 目指すのは、前王陛下と前王妃殿下――つまり、ハインツ様のご両親が隠居なさっている、南の王領にある離宮だ。


 普段は、年越しの儀式もあるから、とハインツ様はこの時期でも里帰りなどはしないらしい。

 ただ、今年は私がまだ前王陛下にご挨拶出来ていないこともあり、年越し前の数日間をご両親の元で過ごすことを決められたのだった。


 ハインツ様はご多忙ということもあり、離宮への交通手段は魔竜。以前遠乗りに行った際は2人だけで飛んだけれど、今回はさすがにそういう訳にはいかない。


 護衛と荷運びを兼ねて、それぞれ陛下の側近の竜騎士が操る魔竜が2匹同行する。ということで、演習場はなかなか物々しい雰囲気に包まれていた。


 やがてそれぞれの魔竜達の準備が終わると、ハインツ様が私に向かって両手を差し出してくださる。

 座っていても私の肩程の高さにある竜の背中に、私を乗せてくださる、という合図だ。

 みんなの前で抱え上がられるのはちょっぴり恥ずかしいけど、自力ではコニーさんの背中に乗れないのも事実。


 ちょっぴりはにかみつつ、「お願いします、陛下」と言えば、ハインツ様はヒョイと私の腰を抱えあげてコニーさんの上に乗せてくださった。

 続くハインツ様は身軽に地面を蹴り、私の後ろに座る。

 万が一コニーさんが揺れても落っこちないよう、魔法をかけてもらったら出発準備完了だ。


 城の尖塔に掲げられた旗で風向きを読んでいたハインツ様が1つ項き、「よしっ! 行くぞ、コニー」と言うと、コニーさんは「クリュッ!」と鳴いて、冬の大空へと地面を蹴った。






 前回乗せてもらった時よりも風は強い気がするけれど、コニーさんにとってはなんの問題もないらしい。

 彼の翼は力強く羽ばたき、ぐんぐんと地上が遠くなっていく。


 一方の私はというと、前回よりも随分賑わっている街の光景に釘付けになっていた。


「すごいですね! ハインツ様。前に見せていただいたときよりも人の数も明かりの数も多い気がします!」

「そろそろ冬の休暇に入っている人も多いですから――見て下さい、あれが氷の上を滑る船です」

「まあっ! 本当ですわッ、船が浮いているみたいです」


 興奮を隠しきれない私に、ハインツ様は王都で一番広い河の方を指し示す。

 するとそこには、まさしく凍った水面を滑るように進む大きな船が見えた。


「あれは魔法石の力を使用しているのですよね」

「ええ。さすがにあれだけ大きな船は人の魔力ではどうしようもありませんから。この時期のために特別に改造した船です」


 そんな話をしているとふいにコニーさんが、


「クリュッ、クリュッ」


 と何かを訴えるようにこちらを降り返り、そして何度か翼を左に振る。

 何かを訴えているのかな? と思っていたら、後ろでハインツ様が苦笑いを浮かべていた。


「コニー。気持ちは嬉しいけど、あんまり河に近づいたらみんなが驚く。それにあんまり勝手な動きをすると護衛達に怒られるから、また今度にしよう」

「ク、クリュ〜」


 と、今度はちょっぴり残念なそうな鳴き声。それを聞いて、ハインツ様はクスリと笑った。


「コニーはあなたにもっと近くで船を見せてあげたいそうです。……ただ、今日は彼に行った通り単騎ではありませんからね、また今度にしましょう」

「まあっ! ……でも嬉しいですわ! ありがとうございます、コニーさん」

「クリュッ!」


 確かにいきなり進路を変えたら、護衛の方たちは泡を吹くだろうし、船の人たちも驚かせる。

 それはそれとして、コニーさんの気持ちは嬉しくて、ポンポンッと彼の背中をなでれば、彼も嬉しそうな鳴き声を返してくれた。


「エマさんもコニーさんとかなり仲良くなりましたね」

「はいっ! ハインツ様のおかげですわ」


 コニーさんに乗せてもらって遠乗りへ行った日以来、私は時折、ハインツ様と一緒に竜舎を訪れている。


 ハインツ様がコニーさんと訓練をされるのを見学したり、時にはコニーさんの鱗をブラッシングさせていただいたり……


 私も授業や社交があるから、頻繁にというわけにはいかないけれど、それでもコニーさんは私が竜舎に行くと、翼を振って合図をしてくれるようになった。


 そういえば、前世ではどうにも動物に懐いてもらえない性質だったのだが、まさか最初に仲良くなる動物? が竜なんて――あらためてこの世界が以前とは全く違う場所なんだと実感していると、不意にまたコニーさんが「クリューっ!」と鳴き声を上げた。


「見て下さい、エマさん。南の山脈が近づいてきましたよ」

「本当ですねっ! 北の方とは随分違った景色ですわ」


 今回目指す離宮は、南側の国境を隔てる山脈の麓にある。

 徐々に見えてきた山並みは、真っ白な雪に覆われた北の山々とは違い、深い緑色に覆われている。


 冬でも葉を落とさない、ということは針葉樹なのだろう。

 深緑の稜線が視界の先を埋め尽くす景色は圧巻だ。


 王国の南側は、国内随一の穀倉地帯――とはいえ平野部はそう多くないらしいが――それでも山と森が多いこの国ではとても重要な土地だ。


 そのうちの一部が王領となっていて、南の離宮もそこにある。

 段々と地面が近づいてきたかな? と思っていたら土色の畑がまず目に飛び込み、そしてその奥に小さな街、そして石造りのお城が見えてくる。


 王都の王城よりかは小さいそこへ向けて、コニーさんは迷うことなく翼を進めていった。


 最初は積み木のように小さく見えていたお城も、コニーさんが高度を下げるにつれて、どんどんと大きくなり、そしてお城の周りには人影も見え始める。


 と、その中に遠目でも明らかに雰囲気の違うお二人を発見して、私は思わずコニーさんの上で飛び上がりそうになった。


「ハインツ様っ? あの……中庭にいらっしゃるおふたりは……?」

「中庭……? あぁ、父上と母上ですね……寒いから迎えは結構と伝えていたのですが……」


 ハインツ様のお父上、つまり前王陛下は以前大病をなされて、それが元で譲位なさったと聞いている。

 それに、おふたりともそれなりなお歳。

 なので、お迎えは建物の中でという手筈となっていたら。

 しかしそのおふたりはまさに今、中庭から私達に手を降って下さっていて、ハインツ様は少し頭を抱えていた。






 石の建物に囲まれた中庭は、王城の演習場よりずっと狭いけれど、それでもコニーさんは危なげもなく芝の上に降り立つ。

 それも、前王陛下夫妻の目の前にピタリ、と降り立つのは、もはやさすがとしか言いようがない。


 まずはハインツ様と2人でねぎらいを込めて、コニーさんの背中を撫でてあげる。


 それから私は、先にコニーさんの背中から飛び降りたハインツ様に、地面へと下ろしていただいた。


 同行してくれた護衛や侍女たちが後ろについたことを確認したら、ハインツ様と目配せし合って、前王陛下の前へもう一歩進み出る。


 まずはハインツ様が


「父上、母上、お迎えいただき感謝いたします。ただ今戻りました。そしてこちらが、私の妻となるエマ・ティエアル王女です」


 と、よく通る声で前王陛下に挨拶をする。私はそれに合わせてゆっくりと跪き、頭を垂れた。


「おかえり、ハインツ。そしてエマ王女殿下、よくぞおいで下さった。前国王のバークだ。どうぞよろしく」

「妃のエリーよ。よろしくね」


 威厳は称えつつも、穏やかな声でお話くださるおふたり。私はハインツ様の目線の合図を受けて、そぉっと頭を上げた。


「ご挨拶申し遅れ申し訳ございません。ティエアル王国が第二王女エマと申します。歓迎いただき心より感謝いたします」

「いえいえ――こちらこそご挨拶出来なくごめんなさい。さ、2人ともこちらへおいでなさいな」


 お妃様にそう促され、私とハインツ様はまた目配せし合いながらお二人のところまでいき、前王陛下、妃殿下の順に抱擁し合う。


 そのままの流れで、お妃様が


「さっ! 外は寒いですしあとは中でお話しましょうか。皆さんもありがとうございますね」


 と口になさり、私は妃殿下と一緒にお城の方へ向かう。


 そっと後ろを振り返って見れば、中庭ではようやく緊張感が溶け、護衛達の一部はコニーさん達と一緒に竜舎へ、侍女たちは荷解きへと走り始めていた。


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