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確信と不安

 職場から外に出ると、目の前には希ちゃんの旦那さんが立っていた。


 「どうしたの?」

 

 「いや、今日定時で上がれたから、そういえば希は残業って言ってたし、久しぶりに外に飯でも行くかと思ってさ」


 「え? 行く! 今日残業だから、ご飯作るのめんどくさいなって思ってたから、すっごい嬉しいんだけど」



 (いいな、なんか。安定した愛があって。希ちゃんも素直に気持ちを伝えれるタイプだし、旦那さんも、きっとその気持ちを悟ってここで待ってたんだよね)


 「じゃ、希ちゃんお疲れ様〜。また明日ね」


 「うんっ! お疲れ〜また明日!」



 旦那さんに、ペコペコ頭を下げながら、家の方角へ向き、自転車に乗りペダルに足を乗せた私… なんだけど…



 (なんで…)



 「お疲れ様。刹那さん」


 

 (なんで石田さんがここに!?)



 「ビックリするよね。まぁ、ビックリさせるつもりで来たんだけど」


 「ま、ままま、まず、なんで私の職場を知ってるんですか?」


 「いや、初めて会った時に話してたよ?」


 (…ほんとだ。プライバシー緩すぎるだろ私。初対面の人に、職場の場所まで伝えるなんて…)


 私と石田さんが会話している後ろで、希ちゃんがチラッと後ろを振り向き、驚いた顔をしながら前を向き、背中の後ろでは、親指をあげ、グッドラックのポーズをしながら、離れていった。



 「えっと… なんでここに…」


 「仕事終わりだから、お腹空いてるでしょ? 何か食べに行こう。何か食べたい気分とかある?」


 (ビックリしすぎて、食欲があまりない…)


 「軽くお酒がつまめる所がいいです…」


 「あ、あまりお腹空いてない感じかな? 悪いことしちゃったな。僕、帰ろうか?」


 「いや!! …お腹は空いてるはずなんですが、お酒が飲みたくて…」


 (仕事終わりのお酒も欲しいけど、こうなったら酔わないとやってられない!!)


 「分かった。じゃ、僕に着いてきてくれる?」


 何も言わずに、自転車を押しながら歩こうとする私から、代わりに石田さんが自転車を押しながら、歩いてくれた。


 こういうちょっとした気遣いが、私の胸をゆっくりと締め付けていく。



 「ここなんだけど、いいかな?」


 しばらく歩いていると、希ちゃんと飲みにいったことがある、イタリアン居酒屋に着いた。


 「はい。ここ、美味しいし、お酒の種類多くて良いですよね」


 「行ったことあるんだ」


 「あ、あの、さっきまで一緒だった、友達と来たことがあって…」


 (なんで私、必死に説明してるんだ? 誰と来だことがあっても、石田さんからすれば、どうだっていいはずなのに)


 「フフッ。そっか。ならよかった」


 (ならよかった? もし男の人と言っていたら、よくなかったのか? いやいや、考えすぎ。この人は腹黒、腹黒…)



 店に入り、とりあえずビールを注文し、一気に流し込む。


 「お酒好きなんだね。この前のカフェじゃ物足りなかったんじゃない?」


 「いえ、あの時は私もカフェの気分だったので。しかも、私、本当はそんなに強くないんです。でもお酒が好きっておかしいですよね? へへっ」


 「おかしくないんじゃない? これ凄く美味しいけど、沢山はいらないって物あるしね。例えばウニとかさ」


 「確かに。ウニ、すっごく美味しいのに、もったりしてるから、沢山は食べれない。分かってもらえて良かったです」


 それから、どんどん話が弾み、楽しんでしまっている私。俯瞰してみると、何してんだって思っちゃうけど、優しい石田さんとの会話は楽しいし、居心地が良い。


 「顔、赤くなってきたね。お水もらう?」


 「私、すぐ赤くなるんです。でも、これでお酒は終わりにして、お水にしようかな」


 すぐにお水を注文してくれて、話していくうちに、だんだん、酔いが覚めてくるのが分かる。


 「そろそろ、出ようか。明日も仕事でしょ?」


 「あっ… はい…」


 (え、なに? なんでこんなに寂しい気持ちになってんの、私)

 

 じっと私を見つめる石田さんから目を逸らし、とりあえず、お金を置いてお手洗いに逃げる。


 鏡の前で、自分自身に語りかけた。


 (この後、帰りたくないとか言ってみちゃう? だめだめ、明日も仕事だし、軽い女に見られる。でも、この人と付き合いたいとかは無いし、軽い女と思われてもいいんじゃない? いや、無理。遊ばれている私を想像したら、虚しさしか残らない。よしっ。スパッと解散しよう)


 お手洗いから出ると、私の置いたお金はそのままだった。


 「すみません。もしかして、払ってくれたんですか?」


 「あぁ、ごめんね。せっかく出してもらったんだけど、ここは僕が払わないとね。僕から誘ったし」


 「いやいや、私も賛同したので、同罪です!」


 「ふはははっ。同罪って。なんか悪いことしてるみたいだね、僕達」

 

 (あぁ… こんな顔もするんだ…)


 初めて会った時の爽やかな笑顔と違って、気取らない笑顔。ゆっくりと締め付けられた私の胸の中は、じんわり熱くなった。



 「まだ家知られるのが嫌だろうから、近くまで送るよ」


 石田さんはそう言って、当たり前のように私の自転車を押してくれた。


 (ありがたいけど、歩くとちょっと距離あるんだよね… 断ったら角が立つし、手前の方で解散しよう)


 「そういえば、ご飯食べる前に、僕に質問してたよね? なんで来たのかって」


 「はっ! はい…」


 (楽しくて忘れてたなんて言えない…)


 でも、あの時は流されたと思っていたし、大した意味はなさそうだけど…。



 「君の事、好きになった」


 「へっ?」


 「…って思った?」


 「んー?? 思ってないですよ。まだ会ってから間もないですし。初めて会った時なんか、私、醜態を晒したみたいなものですから…あははは…」


 (え? 笑ってよ。あの時、結構刺さってたんだから私)


 さっきまで優しい表情だった石田さんから、笑顔が消えた。また鋭い事を言われるんじゃないかと、少し怖い。


 「あー、私の家、この辺りなんで。今日はありがとうございました。サプラ〜イズみたいな感じで、嬉しかったです。そんな深い意味は無いかも知れないけど… じゃ、ここからは自転車乗って帰るので」


 「じゃあ、また、迎えにくるよ」


 自転車を受け取りながら、体が近くなったその一瞬で、石田さんは私に甘い餌を落とした。



 別れた後、風を感じながら、私の気持ちに確信した。それと同時に、もし上手く行って、付き合えたとしても、私達は合わないという事も。私がして欲しい事をマニュアル通りに完璧にこなされても嫌だし、かと言って、私の気持ちを分かってくれず、私が我慢しないと行けないのも嫌。結局、自分が一番大事なんだ。ダサい女だな、私…。



 また次の日、希ちゃんとの昼休憩で、今日の事を話した。


 「そんなの、付き合ってから考えればいいじゃない。案外、大人になると、付き合うまでも難しいから。将来を見据えて付き合う人もいれば、今を大事にして付き合う人もいる。どちらかといえば、刹那は、今じゃん? 将来行くまでの過程で悩んでるなら、サッと行動に移して、ダメなら次行こう〜で、いいと思うよ。結婚の価値観も人によって違うし、全く合わない人と、一生一緒にいるなんか無理だしね。合うと思ってても、長く一緒にいたら歯車が狂って、別れる人も、最近は多いんだから」

 


 「そっか… 確かに、私、まだ付き合うまでの段階も行ってないのに、先の事ばかり心配しても仕方ないよね」


 「そうそう、刹那には取説がいるんだったら、まずはそれを受け入れてくれる寛大な心を持っている人じゃないと。そんなの、相手の事を知らないと誰も受け取ってくれないし、この人に任せていいとも思えないよ」


 ブブッ…



 「おっと、話をしていたら、まさか石田さん??」


 「そのまさかでした」


 「なんて?なんて? きゃー、久しぶりの、ウキウキ感。ありがとう…」


 「なんで、希ちゃんがお礼言ってるの。お礼を言わないといけないのは私だよ」


 希ちゃんと話しながら、レンラクンを開くと、石田さんから2件届き、すぐに既読をつけるのは嫌だから、未読のまま先に内容を覗いた。

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