同時進行
「えっ、あっ、そうなんですか…」
(来たーーーーー!! けど、なんで?)
「びっくりさせたよね。ごめんね。でも嘘はつきたくないから。後、交際を申し込む事もしないから安心して」
(は、い?)
「えーっと、じゃあ、どうして、私を誘ってくれるんですか? 好きになられた理由も全く分からなくて…」
「好きだから誘う。それだけだよ。好きになった理由は、可愛いからとだけでも言っておくよ。まだ会ってからまもないのに、何を言っても薄く感じちゃうからね」
赤面する私。そして、さらに勇気を振り絞る。
「私… 今言っても信じてくれるか分からないですが、石田さんの事好きになっちゃったんです」
「うん、知ってる」
(はいーー!? さっきまで優しかったのに、何この冷たい感じ…)
「でしたら、これを」
私は取扱説明書を石田さんに差し出した。マニュアル通りにされるのは嫌だが、これから付き合うなら、先に自分を知ってもらいたい。
「いらないよ。これがなくても、心配いらない男だと思われないと、交際はしたくない」
「え…」
「初めて会った時、即席だけど理想的なプランで楽しかったと思う。でもね、人間誰しも慣れがくるんだよ。そこからは、理想を崩さず、さらに新しい刺激を求めるようになる。どんどんハードルが上がっていって、結局、刹那さんが苦しむことになるから」
本当にそうだ。石田さんは間違ってない。けど…
「分かってます。でも、私の全てを知ってもらった上でお付き合いしたいんです」
「うん。僕達、最終地点は一緒なんだけど、方法が違うね。だから、刹那さんはそれを受け取って貰える人を探せばいい」
(また、冷たい事…)
「その間に、僕達がそれを要らない関係になれたら交際を始めるでどうかな? これだとお互いのやりたい事を叶えながらも、前に進めると思うんだけど」
「…わかりました」
それからは、話が変わり、食事を終えて解散した。あの話以降、私の心のモヤつきは、ねっとりとまとわりついたままだ。
ブブー… ブブー…
家に着いてからすぐにお風呂に入り、お風呂上がりに、着信があった。相手は希ちゃん。今日会った事を、レンラクンで送ったから、それについての電話だろう。
「もしもし…」
「大丈夫? 石田さんと会ったにしては、また落ち込んでるみたいだけど…」
私は会ってきたと連絡しただけなのに、レンラクンの雰囲気で汲み取ってくれていた。そんな希ちゃんに私は、少し話を聞いてもらう事に。
「うーん… 刹那の気持ちは分かるんだけど、過去の人は過去の人だよ。次も同じとは限らない。しかも、刹那の気持ちもすでに知っている相手なんだし、取説からは一度離れてみたら? …って思うけど、それが出来ないから悩んでるんだよねぇ」
「そうなの…」
「ごめんね、新しい解決策、思い浮かばなくて…。でも、今の歳だからこそ、取説を渡して自分の事を分かってもらえる人を探す時間があるし、石田さんの言う通り、同時進行もアリだと思うよ。まぁ、どう話が転んだとしても、私は刹那の味方でありたいと思ってるから、いつでも電話してきな?」
「ありがとう… ごめんね、ウジウジしちゃって」
「大丈夫。旦那とは長いし、恋?みたいな話出来ないから、逆にありがとうだよ」
「電話、誰?」
希ちゃんの電話から、小声で話す声が聞こえた。
「刹那だよ」
「え! なんか悩んでるの?」
「あんたには関係無いよ!」
「いや、それがさ、会社の同僚もちょうど悩んでてよ。彼女が出来ないって」
「えっ!!」
「希の職場まで迎えに行ったとき、せっちゃん見て、可愛いし、紹介できねぇかなって思ってたんだよ」
「勝手にあだ名で呼ぶな! ごめんね、刹那。旦那が勝手に言ってるだけだから、気にしないで」
電話の向こうで夫婦の会話をひたすら聞いていた私は、
「んーん、全然いいよ。お相手の人も了承してくれるなら、紹介してほしいな」
と、答えた。
「えぇ!!」
「ちょ、希、なんて? せっちゃんなんて言ったの?」
希ちゃんは少しの間、沈黙になり、
「刹那、無理したらダメだよ。本当に良いなら紹介してもらうけど…」
「うん、大丈夫。希ちゃんの言葉も聞いて、石田さんの言われた通り、やってみる。何もしないで考えていても、なんにも進まないしね」
そこから話はトントンと進み、希ちゃんの旦那さんの同僚さんと会う事になった。
お読み頂きありがとうございます。
次回も読んで頂けると幸いです。




