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第4話 少女と神様

今回は一話としては少し短めかもしれません。

 手入れされた腰まである銀髪を揺らし、サファイアブルーの瞳を持った少女は歩を進めた。歩く度に地面を薄くおおう水が波紋を立て、パシャパシャと水が跳ねる音がその場所に静かに響いていた。その場所には緑色に発光した苔や、神聖な光を帯びた大樹などが生え、神々しく重々しい雰囲気に包まれていた。地面はどこまでも水で薄くおおわれ、まるでその水は自然の鏡のように透き通り、青い空の色をも写していた。

 サファイアブルーの瞳を持つ少女は、身に染み着いたようにその場所にある神殿の中へと入っていった。その神殿には所々に苔が生えており、見るものに古い印象を与える。少女は慣れた動きでその神殿の中を歩き、目当ての部屋へと入った。そこには、銀髪と黒髪が混じった髪を大きな三つ編みにした美女が一人、一輪のネモフィラを持って佇んでいた。その美女の瞳はサファイアブルーとエメラルドグリーンのグラデーションになっていて、少女よりもずっと、特別な佇まいをしていた。

「翠様。ただいま戻りました。」

サファイアブルーの瞳を持つ少女がそう言うと、翠様、と呼ばれたその美女はゆっくりと視線を少女に移した。

「ご苦労様です。それで、あの者の様子はどうでしたか?」

「前回よりも緊張が解け、反応が良くなりました。」

サファイアブルーの瞳の少女はハキハキと淀みなくそう答えた。

「そうですか。緊張が解けたのなら、なによりです。」

ゆっくりと落ち着いた口調で、翠はそう言い、持っていたネモフィラを椅子近くの花瓶に差し入れてからゆっくりと椅子に腰をかけた。

「あれ?もう帰ってきてたんだね。」

サファイアブルーの瞳の少女とは対照的にのんびりとした喋り方で、もう一人の少女が柱の影から出てきた。その少女はよく手入れされた腰まである黒髪と、エメラルドグリーンの瞳を持っていた。

「あの子、今回も緊張でカチコチだったの?」

エメラルドグリーンの瞳の少女はいたずらっ子のような笑みを浮かべてサファイアブルーの瞳の少女にそう聞いた。サファイアブルーの瞳の少女は一度言ったことをもう一度繰り返さなければならないからか、うんざりと面倒くさそうな声音で話した。

「いいや、今回は緊張が解けてむしろうるさいくらいだった。私が言ったことへの反応が良くなったから。」

「ふーん。まぁそれくらいがちょうどいいのか。」

エメラルドグリーンの瞳の少女は納得したような顔をしながらそう言った。サファイアブルーの瞳の少女はエメラルドグリーンの瞳の少女の反応など意に介さず、翠の方を向き、前髪の合間からその特徴的な瞳を覗かせた。

「翠様。本当に、あの計画を行うんですか?」

翠は、ゆっくりと目を伏せ、やがてサファイアブルーの瞳の少女の姿をしっかりと瞳に映して、意志のこもった声音で言った。

「ええ。あ(・)の(・)方(・)の許可も取れました。あの者が社にいる今こそ、行うべきことなのです。」

翠の言葉に反応したのは、サファイアブルーの瞳の少女ではなくエメラルドグリーンの瞳の少女だった。

「私は良いと思います。何もしないと、何も起きない。昔、翠様が仰っていたことです。」

のんびりと、しかしはっきりと言った少女を愛おしげに見つめた後、翠はゆっくりと口を開いた。

「そうですね。たしかに、この計画は上手くいかなかった場合、危険かもしれません。でも、だからこそ……。」

一度言葉を区切り、翠は少し考えてからまた口を開いた。

「この計画は、必要な事だと思います。だって、このままではさすがにうかばれない。そうでしょう?」

翠は、そう二人の少女に穏やかに尋ねた。少女達はこくりと首を縦に振り、サファイアブルーの瞳の少女が真剣な声音で言った。

「……慎重に事を運びましょう。まずは、あの方からの正式な許可を得るべきでございます。」

そのとき、エメラルドグリーンの瞳の少女が小さな声を零した。

「どうしたのです?」

翠がそう尋ねると、エメラルドグリーンの瞳の少女は嬉しそうな顔をして言った。

「今、あの方から今回の計画の正式な許可が降りました。これで心置きなく計画を進めることが出来ます。」

これを聞いた翠は顔に微笑みを浮かべた。

「丁度良いタイミングですね。……あの者か、あの者の周りの者も、そろそろ気づく頃合いでしょう。……自分達が置かれている状況の異常さに。」

一度言葉を区切ると、翠は二人の少女の瞳を見つめながら穏やかな表情で言った。

「あの者はきっと、貴方達と今回の計画に、何らかの繋がりがあると考えるでしょう。も(・)う(・)一(・)度(・)、あの者をここに導いてくださいね。」

翠がそう言い終わると、エメラルドグリーンの瞳の少女が勢いよく手を挙げた。その表情は、いたずらっ子が今からいたずらを仕掛ける時のそれであった。

「翠様。私もその者に会ってみとうございます。」

翠はパチパチと目を二、三度瞬かせたあと、また元の穏やかな微笑みを浮かべてサファイアブルーの瞳の少女を見た。

「と、言っていますが……貴方はそれで良いのですか?」

サファイアブルーの瞳の少女は表情一つ動かさず、平坦な声で言った。

「別に良いです。どうせ、この人はあの者に会ってみたいだけですから。」

そう翠に言うと、サファイアブルーの瞳の少女はエメラルドグリーンの瞳の少女の方を向いた。

「貴方が行くのは勝手だが、くれぐれも自分の責務を思い出して行動するのだぞ。」

エメラルドグリーンの瞳の少女は当たり前だという顔をして頷いた。

「もちろん。私たちはあくまであの者を導くコンパス。立場は弁える。」

そう言うとニカッと歯を見せて笑い、瞬きひとつの間にそこから姿を消したのだった。


【人物紹介】

翠様

少女達の主で神殿の主。


謎の少女

分体の片割れ。

表情がくるくると変わる。

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