↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第1章 間に合う身体

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/60

第7話 木剣を握る日

 父さんとギルベルトさんたちが魔物討伐に出掛けた後、俺とアイリスと母さんは早めの夕飯を食べた。


 アイリスが心配そうな表情を浮かべる。


「パパたち、大丈夫かな……?」


 母さんが優しく答える。


「大丈夫だよ。フィオナがいるのは大きい。今でも優秀な治癒士だから」


「そうなの?」


「昔はフィオナの治療を受けるために、教会の前に行列ができたくらいよ」


 アイリスが嬉しそうに胸を張る。


「あっ! それはパパに聞いたことある! すごく人が並んだとか言ってた!!」


 確かにフィオナさんは優秀な治癒士なのだろう。


 しかし、あの美貌だ。

 人が並んだ理由は別にあるんじゃないか?

 単純に治療目的だけではないような気がするが……黙っておこう。


 アイリスは得意げに鼻を高くした。


「ふっふ~ん! セイン、あなた気軽にママの治療を受けているけど、本当はママの治療は高いのよ!」


「そ、そうか……今度からはありがたく治療を受けるよ……てか、今までもありがたい気持ちで受けていたよ!」


「本当に~? 本当にありがたいと思っているの?」


「本当だよ! あの手の光は本当に不思議だよね。何度見てもすごいと思う」


 母さんも同意しながら答える。


「セイン、あれが魔法なんだよ。私も少しは使えるのよ?」


「えっ!? 母さんが!?」


 アイリスも目を丸くする。


「クレアさんもヒール使えるの!?」


 母さんは笑いながら答える。


「私は攻撃魔法の方だよ」


「でも、母さんが魔法を使っている所は見たことないよ……?」


「当たり前だよ。この辺で使ったら危ないもの。セインの前でなんて使えないよ」


 アイリスは感心しながら言う。


「へえ~……クレアさんもすごいんだ!」


 母さんは手を叩いた。


「さあ! 早くご飯を食べて寝なさい!」


 アイリスは不満そうに頬を膨らませる。


「え~!? 嫌だよ! パパたちが帰ってくるまで寝ない!」


「ダメよ。アイリスちゃんが起きている間には帰ってこないわよ。今夜はセインと一緒に寝なさいね」


「……むぅ、はあーい……わかりました」


 アイリスはこういう素直な所が本当にかわいいよな。


 夕飯の後、俺たちは同じベッドに潜った。


 外はもう暗い。

 父さんたちはまだ戻ってこない。


 アイリスは布団の中で、そっと俺の手を握った。


「ねえ、セイン……パパたち、心配で眠れなくない?」


「うん。でも、今は休むのも大事なんだ。俺もいつか、父さんの助けになれるくらい強くなりたい」


「私も……強くなって、パパとママを助けたい」


 アイリスの手に、少し力が入った。


 その声はいつもより小さかった。

 普段ならすぐ勝負を挑んでくるアイリスも、今夜だけは不安そうだった。


 だから、俺はわざと意地悪そうに笑う。


「フッフッフ……足の速さや素早い動きで俺に負けているアイリスは、本当に強くなれるのかな?」


「もう!! セインの意地悪!! 今度は絶対に負けないんだから!!」


 アイリスは頬を膨らませながら、ぎゅっと抱きついてきた。


 怒っているのに、離れようとはしない。


 俺も小さな背中に腕を回した。


 お互いに不安だった。

 けれど、こうしていると少しだけ落ち着いた。


 アイリスの温かさを感じながら、俺は思う。


 守れるようになりたい。


 そう思いながら、俺たちはいつの間にか眠りについた。


 翌朝。


 俺たちは父さんたちの話し声で目が覚めた。


 俺とアイリスは弾かれたように居間へ向かった。


 アイリスは目に涙を浮かべたまま、ギルベルトさんとフィオナさんに駆け寄った。


「パパ!! ママ!! 良かった!! 無事だったんだね!!」


 俺も父さんの無事な姿を見つけて、安堵して胸が熱くなった。


 ギルベルトさんは、駆け寄ってきたアイリスを抱きかかえた。


「何だ、アイリス! 心配してくれたのか?」


 母さんが笑いながら話した。


「昨夜からずっと心配していたからね!」


 ギルベルトさんはアイリスに笑いかけた。


「大丈夫だ! パパはアイリスの予想以上に強いからな。アイリスもパパくらい強くなってくれたら、嬉しいな!!」


「うん!! 私、パパより強くなって助けてあげる!!」


 コンコン……。


 玄関の扉を叩く音がした。


「旦那様、失礼致します」


 俺とアイリスはすぐに玄関ホールへ向かった。


 ロウエン爺だ。


 アイリスが首を傾げた。


「ねえ、セイン、あの人はだあれ?」


「あの人はうちで古くから仕えてくれている人だよ。父さんの剣の師匠でもあるらしいんだ。いつもは村で村長をしているんだよ」


「へえ~……アノルドさんに剣を教えたなら、すごく強いんだね」


「うん、すごく強いみたいだよ」


 ロウエン爺は微笑みながら声をかけてきた。


「若様、おはようございます。そちらの姫君は若様のお嫁さんですな」


「おはよう、ロウエン爺」


 アイリスはかしこまりながら丁寧に頭を下げる。


「は、はじめまして、アイリスと申します」


「フッ……はい、はじめまして。かわいらしい姫君ですな」


 ロウエン爺が居間に入り、続いて俺たちも居間へ戻った。


 ギルベルトさんが軽く礼を言う。


「ロウエン殿、昨夜は助かった。ありがとう」


「いえいえ、私は私のできることをしたまでです」


 ギルベルトさんは笑いながら言う。


「相変わらず、謙遜するな」


 父さんは、ロウエン爺にだけは少し背筋を伸ばして向き直った。


「ロウエン、昨夜の被害を聞かせてくれ」


「人への被害は最小限です。畑が荒らされ、家畜の牛が1頭やられましたが、村人に死者は出ておりません」


 父さんは頷きながら言う。


「村人の怪我人は?」


「怪我人が3名。ですが、フィオナ様の治療が早く、重傷者も死者も出ておりません」


「……そうか。死者が出なかったなら、まだよかった」


 父さんは深く息を吐いた。


「フィオナ、本当にありがとう」


 フィオナさんは首を横に振る。


「いえいえ、そんなこと。私は治療しただけだわ。ゴブリンを退けてくれた皆さんのおかげですよ」


 ロウエン爺が眉間に皺を寄せる。


「しかし、昨夜のゴブリンは様子が違いましたな……」


 父さんが低い声で言う。


「ああ……ロウエンの言う通りだ。ホブゴブリンが逃げるゴブリンに吠えて、引き戻したように見えた」


 ギルベルトさんが唸る。


「そうだな。明らかに統率されていた。他領でも統率された魔物の集団の報告は上がっていたな。最近、明らかに魔物が活性化している」


 父さんも表情を険しくした。


「ああ。王都からも、統率型魔物に関する報告書が何通も届いていたな」


 ロウエン爺が現実を告げる。


「ゴブリンでも統率されたら、その集団の戦闘力は跳ね上がります。ゴブリン以外の魔物まで統率されている可能性は、あまり考えたくないですな」


 父さんは頷いた。


「その通りだ。昨夜は何とか退けたが……」


「我が領は明らかに戦力不足です。王宮騎士団の派遣を願い出てはいかがですか?」


 ギルベルトさんは顎に手を当てて言う。


「背に腹は変えられんな。我が領でも早急に検討しないとな」


 父さんは額に手を当てながら言う。


「騎士団を我が領に入れたら、監視対象になりかねんから嫌なんだが、現状では限界なのも分かる。ロウエン、誰かが死ぬ前に王都へ向かう手配をしてくれ」


 アイリスは青ざめた表情で話を聞いていた。


 魔物の活性化。


 俺が3歳でゴブリンに襲われた時も、父さんは魔物の活性化とか言っていたな。


 魔物がレベルアップしているのか?


 早く俺も戦える身体を作りたい。


 それが、みんなを守るためでもあるし、自分が死なないためでもある。


 父さんたちの話が終わり、ロウエン爺を交えて朝ご飯を食べ終わった頃には、先ほどの雰囲気は少しだけ和らいでいた。


 父さんは何かを思い出したように、ロウエン爺へ尋ねる。


「そうだ! ロウエン、例のあれは持ってきてくれたか?」


「はい。武器屋に作らせました。持った時の重心も重要ですからな。職人でなければ、なかなか作れません。玄関先に置いてあります」


 父さんは真剣な顔で立ち上がる。


「セイン、アイリス嬢、庭に出ろ」


 父さん、ギルベルトさん、ロウエン爺に続いて、俺とアイリスもきょとんとしながら庭に出た。


 父さんとギルベルトさんは、それぞれ小さな木剣を握っていた。


 父さんは俺たちに言う。


「お前たちも5歳になった。そろそろ剣術の鍛練を始めても良い頃合いだと思う」


 ギルベルトさんが引き継いで話した。


「お前たちが5歳になった記念に、木剣を贈ると決めていたんだ。2人とも受け取れ。2人の背丈に合わせた特注品だぞ?」


 俺とアイリスは、それぞれ木剣を受け取った。


 持ってみると、意外に手に馴染んだ。

 少し重たく感じるが、普通に振れる程度の重さだ。


 アイリスも口を半開きにして木剣を見つめている。


 ロウエン爺が話し始めた。


「2人とも、剣は人を傷つけるものです。ですが、守りたいものを守るための武器にもなります」


 ロウエン爺は、俺とアイリスを順に見た。


「どちらになるかは、持つ者の心次第です」


 アイリスは、手の中の木剣をじっと見つめた。


 俺も木剣を見る。


 昨日の鐘の音を聞いた後では、ただの遊び道具には見えなかった。


「若様、アイリス様」


 ロウエン爺の声が、少しだけ低くなる。


「剣を持つ者は、振るう理由を間違えてはなりません」


 振るう理由。


 強くなるため。

 動けるようになるため。

 そして、いつか誰かを守れるようになるため。


 俺は木剣を強く握り締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。