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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第1章 間に合う身体

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第6話 カン、カン、カン

 それからの1か月間、俺とアイリスは何度もセイン流の遊びをして、時にはフィオナさんに治療されることもあった。


 父さんも、俺たちの遊びには積極的に口を出した。


「よし! 2人とも今日はそこまでだ!! 休むのも遊びの一つだ!!」


 さすが、父さん!

 鍛練を遊びというのはうまい!


 アイリスの前では完璧に遊びとして成立している。

 アイリスも嬉しそうだ……かわいい。


 ギルベルトさんも満足そうに腕を組みながらうなずいている。


 この2人は、アイリスの前ではあくまで遊びとして扱うつもりだな?


 母さんは少し眉間に皺を寄せた。


「本当にこれでいいのかしら……ねえ、フィオナはどう思う?」


「うーん……騎士爵家に生まれた子どもの宿命かしらね……。遊びと言っていいのか、鍛練と言うべきなのか、何とも言えないけど……」


「ハア……まだ早いと思うのよ。今は普通に遊ばせた方が、婚約者である2人のためだと思うけどな」


「そうね……私もクレアと同じ意見よ……でも主人たちは、このチャンスを逃したくないのね……」


 2人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。


「ハア……」


 エーレンフェルト家が帰る時、ギルベルトさんは満面の笑みでアイリスを抱っこしていた。


「よし! アイリス! 帰ったらセイン殿との遊びを毎日パパともやるぞ!!」


「ほんと!? パパも毎日あそんでくれるの!?」


「ああ! もちろんだとも! すごく素晴らしいことだからな!!」


「やったー!! すばらしい!!」


 フィオナさんは苦笑しながら、母さんに向き直る。


「ではまた。今度はそちらがいらしてくださいね」


 父さんはすぐに頷いた。


「ああ、近いうちに必ず行く」


 母さんも穏やかに頭を下げる。


「皆さん、気を付けてお帰りくださいね」


「じゃあ、アノルド、またな!」


 ギルベルトさんはアイリスを抱っこしたまま馬車に乗り込む。


 アイリスも満面の笑みで、俺に手を振った。


「セイン! またあそぼうね! すごくたのしかったよ!!」


「うん! また、あそぼう!」


 馬車が動き始めても、アイリスは窓から顔を出して、何度も嬉しそうに手を振っていた。


◇◇◇◇


 あれから2年、エーレンフェルト家とグランベル家は何度も交流を重ねた。


 俺たちは歩く、走る、しゃがむことから始まり、時が経つにつれて、追いかけっこや競争、木登りもするようになった。

 時には2家族で川辺に泊まり、泳げるようにもなった。


「プハー! セイン! 泳ぐのは私の勝ちね!!」


「ああ、アイリスは泳ぎの上達が早いな……」


「えへへっ! 初めてセインに勝った!!」


 クソッ!!


 泳ぐのは前世でも得意じゃなかった。

 しかも、同じ時期に教わったから、時間的なアドバンテージもない。


 けれど、それ以外は俺の方が上だ!


 ま、まあ……いい。

 子どもの言うことだ。


 俺は自分のペースでやる。


 川辺では、父さんが俺たちに声をかけた。


「2人とも! そろそろ暗くなるから上がってこいよ!」


 母さんも焼けた魚を取りながら、俺たちに手を振る。


「お魚が焼けたよ! 早くこちらに来なさい」


「はーい! セイン、最後にどちらがパパたちの所に早く行けるか、競争よ!」


 言い終わる前に、アイリスが泳ぎ始めた。


「あっ! アイリス、ずるいぞ!」


「あはははは!! また私の勝ちかもね!」


 この2年間で、かなりできることが増えた。


 走る。

 止まる。

 泳ぐ。

 登る。


 少しずつ、身体が思い通りに動くようになってきた。


 同年代の子どもはアイリス以外にほとんど見たことがない。

 けれど、俺とアイリスは順調に運動神経が良くなっているのではないか?


◇◇◇◇


 そんな交流の日々が続いていたが、ある日、アイリスはふと疑問に思った。


「ねえ、ママ……」


「なあに? アイリス」


「婚約者との遊びって、何でこんなに疲れるのかな? セインと遊んだら、明日には必ず全身痛くなるし……」


「うーん……それは……人によるかもね」


 フィオナは困ったように言う。


 アイリスはさらに首を傾げた。


「他の人は違うの? みんなはどんな遊びをしているの?」


 フィオナは答えに困って考え込んだ。


 そこへ、すかさずギルベルトが答える。


「アイリス、子どもはみんなこんなもんだよ。子どもの遊びは身体を動かすことが一番健康的なんだ」


「そうか……みんなこんなに走り回っているのね」


 ギルベルトはフィオナに目配せする。


 フィオナは呆れたような表情を浮かべた。


◇◇◇◇


 その日も、エーレンフェルト家の3人がグランベル家を訪れていた。


 俺とアイリスは、広い庭でいつものように遊んでいた。


「セイン! あの遠くに見える木まで5往復、競争よ!」


 そう言った途端、アイリスは走り始めた。


「フッ……アイリス、走りなら負けない! むしろ、その程度のハンデでいいのかな?」


 アイリスは後ろを振り返らずに叫ぶ。


「今日は絶対に負けない!!」


 俺は笑いながら、すぐにアイリスの後ろへついた。


「アイリス、もう息を切らしているのか? ほらほら、抜かしちゃうぞ?」


「セインのバカあああー!!」


「ハッハッハ! アイリスはまだまだだな!!」


 そのまま俺が、ぶっちぎりで先にゴールした。


 少し遅れて、アイリスが顔を真っ赤にして走ってくる。


 アイリス、ますますかわいくなったなあ……。

 本当にお人形さんを人間にしたようだ。


「ハア……ハア……ハア……何で走りでセインに勝てないのよ!! 悔しい!!」


「まあ、俺も頑張ってるからね」


 その時だった。


 村の高台から鐘が鳴った。


 カン、カン、カン――。


 乾いた金属音が、庭に響いた。


 アイリスの笑い声が止まる。

 母さんが皿を取ろうとしていた手を止める。

 フィオナさんの表情から、柔らかな笑みが消える。


 俺も、すぐに意味が分かった。


 魔物だ。


 この鐘を聞くのは初めてではない。

 グランベル領でも、エーレンフェルト領でも、1年に何度かは魔物が出る。


 そのたびに大人たちは顔を変え、父さんは剣を持って出ていった。


 だから、今さら驚きはしない。


 けれど、胸の奥が重くなる。


 さっきまで庭を走っていた。

 アイリスと競争して、勝って、笑っていた。


 でも、鐘が鳴った瞬間、自分はただの5歳児に戻される。


 走れるようになった。

 止まれるようになった。

 泳げるようになった。

 木にも登れるようになった。


 それでも、魔物が出た時、自分はまだ家の中で待つことしかできない。


 父さんとギルベルトさんは、すぐにそれぞれの馬へ向かった。


 ギルベルトさんがフィオナさんに手を伸ばす。


「フィオナも一緒に来るんだ! 俺の後ろに乗れ!!」


 父さんが俺とアイリスに向かって声を張り上げる。


「お前たち!! すぐに家に入れ!! 魔物が出たぞ!! 俺たちが戻るまで外に出るな!!」


 俺は唇を噛んだ。


 分かっている。

 外に出てはいけない。


 今の自分では邪魔になる。


 それでも、悔しかった。


 母さんが父さんに駆け寄る。


「あんた! 無理をするんじゃないよ! ギルベルトも気を付けて!」


 ギルベルトさんがすぐに答える。


「ああ! 心配するな! フィオナがいるからな!」


 フィオナさんもギルベルトさんの腰にしがみつきながら言う。


「クレア! 子どもたちをお願いね!」


 父さんが叫ぶ。


「ギルベルト! 準備はいいか! 行くぞ!!」


「ああ!!」


 馬の蹄が土を蹴った。


 父さんを乗せた馬と、ギルベルトさんとフィオナさんを乗せた馬が、鐘の鳴る方へ走っていく。


 魔物。


 俺は、まだ震えている自分の手を見下ろした。


 さっきまでアイリスと競争していた足は、今は一歩も前に出せなかった。

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