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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第1章 間に合う身体

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第5話 ママー!! あしがいたいよお~

 翌朝、アイリスが泣いていた。


「ママー!! あしがいたいよお~!!」


 居間に響いた声に、俺は思わず顔を上げた。


 アイリスはフィオナさんに抱きつき、涙で目を潤ませている。

 昨日は何度も歩いて、最後にはスクワットまでした。

 そして今、足を押さえて泣いている。


 ああ。

 完全に筋肉痛だ。


 フィオナさんが困ったように微笑む。


「あらあら……やっぱり足が痛くなったのね。ママが治してあげるから」


「うええええ~~~ん!!」


 フィオナさんはアイリスの足に手をかざした。


 次の瞬間、手のひらが白く光る。


 俺はその光景に目を見開いた。


 な、何だ……?

 あれは……?


 手のひらが白く光っている。


 ま、まさか……魔法……なのか?


 魔物がいる世界だ。

 魔法があってもおかしくない……か……?


 いやいや、おかしいだろ!?

 手が光っているんだぞ!?


 フィオナさんの手から溢れた白い光は、アイリスの足を包み込むように広がった。


 強い光ではない。

 暖炉の火よりも柔らかい、温かい光だった。


 アイリスの泣き声が、少しずつ小さくなっていく。


「……あれ? いたくない」


「うん。もう大丈夫よ」


 フィオナさんが優しく頭を撫でると、アイリスは涙を拭きながらこくりと頷いた。


 俺はその光景から目を離せなかった。


 痛みが消えた?


 本当に治したのか?


 まるで奇跡ではないか……。


 これはすごい。


 この世界、魔物だけじゃなくて魔法まであるのか。


 フィオナさんが俺に向かって微笑む。


「セインくんは足は痛くないかな? 痛いなら治してあげるよ」


 マジか……!?


 これはヤバい!?

 ガチでテンションが上がる。


 俺の太ももも、昨日から少し重い。

 痛いと言えば痛い。


「ちょっと、いたい、かも」


 フィオナさんが手を伸ばす。


「うんうん。こっちにおいで」


 俺は素直に近づいた。


 フィオナさんの手のひらから、また白い光が溢れる。


 光が足に触れた瞬間、うっすらと温かいものが染み込んできた。


 冷えた身体を湯に浸けた時のような、じんわりとした感覚。


 重かった太ももが、少しずつ軽くなる。

 痛みが薄れていく。

 筋肉の奥に残っていた張りが、ほどけるように消えていく。


「す、すごい……」


 フィオナさんが微笑みながら答える。


「フフッ……すごいかな? これはね、ヒールっていう魔法だよ」


 ヒール……。


 前世でゲーム系に疎かった俺でも聞いたことがある。

 いわゆる治療魔法か……。


 痛みが消えるのはすごい。


 でも、ここで勘違いしてはいけない。


 父さんが言っていた。


 壊したら鍛練ではない。

 休むのも鍛練だ。


 ヒールがあるから無茶をしていいわけじゃない。


 昨日より少しだけ。

 できることを少しだけ増やす。


 それでいい。


 フィオナさんの手のひらから白い光が消えた。


「これで痛みはなくなったよね?」


「うん、ありがとう」


「フフッ……いえいえ、どういたしまして」


 フィオナさん、やっぱりかわいい……。


 アイリスが母親似なのも納得だ。


 その様子を見ていたアイリスが、頬を軽く膨らませながら俺とフィオナさんの間に入ってくる。


「セイン、ダメ!! ママはわたしのなの!!」


 俺は目を丸くした。


 あれ……?

 俺の心の声がバレた……?


 思わず声に出ていたかな?


 いやいや、そんなわけない。

 俺はまだスラスラ話せない。


 フィオナさんが困ったようにアイリスの頭を撫でる。


「あらあら……困った子ね。こらっ、アイリス。治療の邪魔をしちゃいけないんだよ」


 怒り方まで優しい。


 アイリスはフィオナさんを振り返り、悲しそうな顔をした。


「だって……ママ……」


 母さんが間に入り、アイリスを抱き締める。


「まあまあ、アイリスちゃんはお母さんを取られたくないんだもんね」


 アイリスは母さんに抱き締められながらも、まだフィオナさんの服の裾を握っていた。


 昨日は礼儀正しく挨拶していたけれど、こうして見ると、やっぱり3歳の女の子だ。


 俺は母さんに素朴な疑問をぶつけた。


「母さん、ヒール、できる?」


 その瞬間、父さんとギルベルトさんは顔を見合わせた。


 母さんは一瞬だけ戸惑った表情を浮かべたが、すぐに笑いながら俺を抱き上げた。


「ハハッ! お母さんは回復魔法は使えないんだよ。セインは、お母さんが回復魔法を使える方が良かった?」


「うーん、うん」


 だって筋肉痛が消えるのは画期的じゃないか!


 母さんはイタズラっぽく笑った。


「セインがそう言うなら、お母さんがんばっちゃおっかな?」


 フィオナさんがため息交じりに話した。


「コラコラ、クレア。あなたならできそうな雰囲気はあるけど、あなたが回復魔法を使ったら大ニュースになるわよ。全く……!」


 どういう意味だ?


 母さんは魔法自体は使えるのか?


 全く見たことがないぞ?


 その様子を見ていたギルベルトさんが、明るい声でアイリスに言う。


「アイリス! 足が痛くなくなったのなら、セイン殿と遊んできなさい!」


「えっ」


 俺もすぐに頷く。


「アイリス、あそぶ」


「……また、あしがいたくなる?」


「いたい、また、なおす。でも、きょうは、すこしだけ」


「すこしだけ?」


「うん。こわしたら、だめ」


 アイリスは少し考えたあと、フィオナさんを見る。


 フィオナさんが優しく微笑んだ。


「無理をしないなら、遊んでいらっしゃい」


「うん! あそぼう!」


 俺たちは手を繋いで庭に出た。


 庭には、昨日と同じ2本の木が立っている。

 その間の土には、昨日何度も往復した足跡が少し残っていた。


 アイリスはその足跡を見て、小さく首を傾げる。


「また木のあいだをあるくの?」


「うん。きのうより、できるから」


「うん、わかった! やろう!」


 昨日は何も知らずに歩いた。


 今日は足が痛くなることを知っている。


 それでも、アイリスは逃げなかった。


 1往復。

 3往復。

 5往復。


 アイリスはうっすらと汗を滲ませた。

 昨日より少し慎重に歩いている。


 向きを変える時に足がもつれかけた。


 でも、今度は自分で体勢を立て直した。


「アイリス、すごい。ころぶ、なかった」


「えへへ……! みててくれたんだ!」


「うん、ちゃんと、みてる」


 昨日はすぐに転びそうになった。


 今日はまだ転んでいない。


 たったそれだけだ。


 でも、3歳の身体には大きな違いだった。


 往復が終わり、インターバルに入ると、アイリスが俺の隣に座った。


「アイリス、きのうより、ころぶ、なかった。いい」


「ハア……ハア……すごいでしょ!?」


「うん。すごい」


「えへへっ……セイン、たのしいね!!」


「うん!」


 アイリスは昨日ほど息を切らしていない。


 それでも頬は赤くなり、額には汗が浮かんでいる。

 楽しそうに笑っているが、足は少し震えていた。


 俺はその足を見た。


 無理は駄目だ。

 父さんも言っていた。


 壊したら鍛練ではない。


 今日は少しだけ。


 そう思ったところで、アイリスが立ち上がった。


「じゃあ、つぎは、あれだよね!? やろう!」


 アイリスは昨日の俺を思い出すように、後頭部に両手を当てた。

 背筋を伸ばし、両足を肩幅くらいまで広げる。


 俺は少し驚いた。


 昨日は最後にやっただけだ。


 しかも、そのせいで朝から泣くほど足が痛くなった。


 それなのに、アイリスは自分からやろうとしている。


「アイリス、すこしだけ」


「うん! すこしだけ!」


 アイリスが膝を曲げる。


 少しふらつく。

 でも、倒れずにしゃがむ。


 膝をプルプルと震わせながら立ち上がった。


 1回。

 2回。


 アイリスの顔が苦しそうに歪む。


 3回目。


 膝が震える。

 足が内側に入りそうになる。


「アイリス、ゆっくり。ひざ、まっすぐ」


「う、うん……!」


 アイリスは苦しそうな顔をしながらも、3回やり切った。


 そして倒れそうになったところで、俺は全身でアイリスを抱き止めた。


「アイリス、ゆっくり、すわる」


 俺はアイリスをゆっくりと座らせ、休ませる。


「ハア……ハア……できた!!」


「うん、できた。つよい」


「つよい……?」


「アイリス、きのうより、つよい」


「うん! セイン、ありがとう!」


 アイリスは汗を浮かべながら、満面の笑みを見せた。


 その顔を見て、俺は素直にかわいいと思った。


 昨日より少しだけできるようになって、嬉しそうに笑っている。


 それだけなのに、なぜか胸の奥が少し温かくなった。


「セイン」


「なに?」


「これ、つかれるけど……できるようになると、うれしいね」


「うん。できること、ふえる、から」


 アイリスは、まだよく分かっていないような顔をしていた。


 それでも、昨日より転ばずに歩けたことが嬉しいのか、満足そうに笑っている。


 アイリスは息を整えながら、もう一度俺を見た。


「セイン」


「なに?」


「婚約者とあそぶって、つかれるんだね」


 俺は少し考えた。


 昨日も今日も、確かにかなり疲れている。


 でも、疲れるのは悪いことじゃない。

 ちゃんと動いて、ちゃんと休んで、昨日より少しできるようになるなら、それは良い疲れだ。


「うん。いい、つかれ」


「いい、つかれ?」


「うん。つよくなる」


 アイリスは不思議そうに首を傾げた。


 それから、ふにゃっと笑った。


「そっか。じゃあ、いいつかれだね」


 その時、居間の方からフィオナさんの声が聞こえた。


「アイリス、セインくん。そろそろお水を飲みなさい」


「はーい!」


 アイリスは元気よく返事をした。


 立ち上がろうとして、少しだけ足がふらつく。


 けれど、今度は転ばなかった。


 アイリスは自分の足を見て、ぱっと顔を明るくする。


「セイン! いま、ころばなかった!」


「うん。ころばなかった」


「えへへ!」


 アイリスは笑いながら、俺の手を取った。


 俺はその小さな手を握り返す。


 同い年の相手がいると、できることが増える。


 昨日よりも今日。

 今日よりも明日。


 少しずつでも動けるようになる。


 それは、俺が前世で欲しかったものだった。


「アイリス、また、あそぶ」


「うん! また、あそぼう!」

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― 新着の感想 ―
なんだこれ。 ここまで赤ちゃんが筋トレしてるだけなのに、面白い。 設定を言葉ではなくストーリーで見せてくれるので、とても読みやすくて面白いです。 お母さんが気味悪がるのもポイント高いっすね。 読ん…
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