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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第1章 間に合う身体

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第4話 婚約者と遊ぶ

 トントン……。


 父さんが勢いよく扉を開けると、目の前には1組の親子が立っていた。


 父さんは満面の笑みで迎えた。


「久しぶりだな! ギルベルト!!」


 ギルベルトさんも嬉しそうに笑う。


「お前は相変わらずだな! アノルド!」


 そう言いながら、2人は力強く抱擁した。

 まるで昨日も会っていたような距離の近さだ。


 ギルベルトさんの後ろから、見知らぬ女性と小さな女の子が続いた。


 女性は父さんに微笑みかけたあと、俺へ視線を向けた。


「久しぶりね、アノルド。あなたがセインくんね? 私はフィオナよ。こちらは娘のアイリス」


「は、はじめまして。わたしはアイリスといいます」


 アイリスは母親の後ろに少し隠れながら、丁寧に頭を下げた。

 金色に近い柔らかな髪。大きな目。白い頬。

 まだ3歳なのに、礼儀正しくしようと必死なのが分かる。


 父さんは大げさに跪き、アイリスの手の甲に軽く口づけた。


「はじめまして、アイリス嬢。私はアノルド・グランベルと申します。以後お見知りおきを」


 アイリスは戸惑うように手を引いた。


「あんた、アイリスちゃんが困ってるよ! 全く、調子良いんだから……」


 ギルベルトさんは笑いながら言う。


「いやいや、クレアよ。貴族の女性に対する正式な礼儀作法だ。アイリスにも覚えてもらわないとな!」


 フィオナさんは困ったように微笑んでいる。


「フフッ……アノルドは相変わらずね」


 俺はその光景を母さんの後ろで見ていた。


 フィオナさん、かわいすぎだろ!!

 二度見したわ!!


 母さんもかなりの美人だけど、フィオナさんはさらにその上をいく。


 茶色の長い髪を綺麗に後ろにまとめて、印象はかなり清楚だ。


 目も大きくて、顔立ちも整いすぎている。

 人形をそのまま人間にしたような雰囲気だ。


 アイリスが俺の婚約者なのか……?

 アイリスはフィオナさんに似ているんだな……。

 フィオナさんを小さくした感じだ。


 かわいい。

 これは間違いなくかわいい。

 さすが、フィオナさんの子どもだ。


 でも、足が細い。

 腕も細い。

 立ち方も少しふらついている。


 これは転びそうだ。


 母さんが俺の頭を撫でながら言う。


「ほら、セインも挨拶なさい。アイリスはあなたの婚約者よ」


 困った!!

 貴族の挨拶のやり方は教わってないぞ!?


 あっ……でも、アイリスは普通に挨拶をしていたな。


「はじめまして、セイン、です」


 フィオナさんは顔を明るくする。


「まあまあ、セインくん、かわいらしいわね。まだ言葉がうまく出てこないのね」


 母さんは少し心配そうに話す。


「そうなのよ。アイリスちゃんの方が言葉が流暢ね。セインは遅いのかしら」


 フィオナさんは笑いながら言う。


「大丈夫よ。女の子の方が言葉は早いんだから、心配する必要はないわ」


 父さんは笑みを浮かべながら俺に言う。


「セイン、アイリス嬢と庭で遊んでこい!」


「わかった。アイリス、あそぼう」


 アイリスがニッコリと笑う。


「うん! わたし、こどもとあそぶの、はじめて!」


 俺たちは手を繋ぎながら庭に出た。

 その光景を、居間の大人たちは話しながら見守っていた。


 俺はいつも通り、庭の木と木の間に立った。


 午前中は鍛練だからな。

 この習慣を崩すわけにはいかない。


「アイリス、これ、やる」


 俺は木と木の間を指差した。


「あそこまで、あるく」

「もどる」

「ころばないように」


 アイリスはきょとんとしながら言う。


「……歩くの?」


「うん。ころばないように」


「かんたんよ。わたし、できるわ」


 アイリスは胸を張った。

 けれど、俺から見ると、立っている足が少し揺れている。


「じゃあ、ぼくについてきて」


 俺は歩き出した。

 アイリスも慌てて後を追う。


 1往復。

 2往復。

 3往復。


 アイリスはすぐに足をもつれさせた。


「あっ」


 小さな身体が傾く。

 俺は慌てて手を伸ばした。


「アイリス、さいしょ、ゆっくり、ね」


「う、うん……わかった。ありがとう」


 アイリスは少し恥ずかしそうに頬を赤くした。

 簡単だと言ったばかりなのに、うまく歩けなかったのが悔しいらしい。


 それでも、すぐに顔を上げる。


 アイリスは額に汗を滲ませながら、転ばないようにゆっくり歩く。

 俺は何度もアイリスを抜かした。


「セイン、はやいね!」


「ぼく、まいにち、やってる。アイリスも、できるよ」


「うん! がんばる!」


 5往復。

 6往復。

 7往復。


 アイリスは向きを変える時にまたふらついた。

 でも、今度は転ばなかった。


「アイリス、さっきより、いい」


「そ、そう?」


「うん。とまるの、うまい」


 アイリスの顔が少し明るくなった。


「じゃあ、もういっかい、やる!」


 できないのが悔しい。

 でも、少しできると嬉しい。


 アイリスの目に、さっきまでなかった負けん気が浮かんでいた。


◇◇◇◇


 ギルベルトが2人の様子を居間から凝視している。

 自分の口が半開きになっていることにも気付いていない。


「お、おい……アノルド……あれは、ただ歩いているだけではないな……」


 アノルドは満面の笑みで答える。


「気付いたか、ギルベルト!! そうだ! あれは鍛練だ!!」


「ハア……、あんた……」


 クレアは額に手を当てた。


 ギルベルトは目を丸くしてアノルドを見た。


「う、嘘だろ!! まだ3歳児だぞ!? どうやって教育したんだ!?」


 フィオナも釣られて2人の子どもを見て息をのむ。


 アノルドは嬉しさを隠しきれない表情で言う。


「俺たちは何も教えていない。信じられないが、セインがゴブリンに襲われてから、突然やり始めたんだ! なあ、クレア!」


 クレアは呆れるように言う。


「ああ、その通りだよ。私たちは何も言っていない。ねえ、フィオナはどう思う?」


 フィオナは驚いてクレアに聞いた。


「セインくんがゴブリンに襲われたのは本当なの!?」


 クレアは苦虫を噛み潰したような顔をして、拳が白くなるほど強く握った。


「私がご飯の支度をしていて、少し目を離したら、セインが外に出ていってしまって……」


 アノルドが引き継いで話した。


「俺が庭で鍛練をしていたから、すぐに見つけてゴブリンを斬ったから良かったが、間一髪のタイミングだった。危なかった!」


 ギルベルトがセインとアイリスを見ながら話した。


「それで、自ら鍛練するようになったのか……相当怖かったんだろうが、どうやったら鍛練する発想になるんだ?」


 アノルドが腕を組んだ。


「多分、俺がいつも鍛練しているから、それを見ていたんだろうな」


 アノルドはさらに自慢げに鼻を鳴らす。


「最近は毎日、午前中がセインの鍛練時間になっている。あれだけじゃない。脚を鍛える動きも毎日やっている」


 ギルベルトは目を見開いて机を叩いた。


「脚を鍛えるのも!? 本当なのか!? ……本当ならなんて素晴らしい。3歳で努力を知っているなら、将来どれほど伸びるか分からんぞ!?」


 アノルドは笑いを抑えきれないまま話した。


「ハッハッハッ!! その通りだ! ギルベルト!! 分かっているな!」


 クレアは困ったように言う。


「ギルベルト、少しは止めなさいよ……ねえ、フィオナもそう思うでしょ?」


 フィオナは唖然とした表情をしていた。


「ごめん、クレア……ちょっと衝撃的すぎて、私は分からないわ」


 ギルベルトはクレアを見て抗議する。


「クレアよ、何を止める必要がある。セイン殿も騎士爵家の跡取り! 将来は有望すぎるではないか!」


 クレアは額に手をついてため息を吐く。


「ハア……アノルドもそうだけど、ギルベルトもギルベルトだね……わかったよ。危ないことをしない限り、私は見守るよ!」


 フィオナが微笑みながらクレアの手を握る。


「まあまあ、クレア……落ち着いて。アイリスも泣いていないみたいだし」


 庭では、2人の子どもが往復を繰り返している。


◇◇◇◇


 よし!

 今日の往復はこれで終わりだ。


 少しインターバルだ。


 俺は地面に座った。

 アイリスも俺の隣にゆっくり歩いてくる。


「ハア……ハア……セイン、すごくつかれたね!」


「うん。アイリス、さっきより、ころばない」


「ほんと?」


「うん。いい」


 アイリスは疲れた顔のまま、少し嬉しそうに笑った。


「えへへ……なら、よかった」


 足は疲れている。

 息も苦しい。


 けれど、さっきより転ばなくなった。

 それが嬉しいのか、アイリスは膝に手を置いたまま、ニコニコしている。


 アイリスはこれで遊びが終わったと思っているようだった。

 安心したように息を吐く。


「いや……アイリス、まだ」


「えっ?」


「これ、やるよ」


 俺は立ち上がり、後頭部に両手をつけた。

 背筋を伸ばし、足を少し開く。


 そして、その場でゆっくり膝を曲げた。


 腰を落とす。

 立ち上がる。

 また膝を曲げる。


「ふっ……ふっ……ふっ……」

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