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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第3章 共に生き残る力

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第57話 崩れたパーティー

「撤退したいが、無理だ!! もう完全に挟まれてる!!」


 ザック先生の声が、今まで聞いたことがないほど鋭くなった。


「退路の魔物へ向き直った瞬間、前方のゴーストに背中を晒す!! 一斉に霊気弾を撃ち込まれるぞ!! ここで陣形を崩したら、全滅するぞ!!」


 その時、鋭い風切り音が俺の横を通り抜けた。


 マリウスの放った矢が、一直線にワイトの顔面へ向かう。


 だが、ワイトはわずかに剣を動かしただけで、その矢を弾き落とした。


「ワイトほどの魔物に、正面から弓を放っても無駄だ!!」


 ザック先生がすぐに指示を飛ばす。


「セイン、ジーク、マリウスは前へ出ろ!! アイリスは中衛から一撃離脱で前衛を援護しろ!! エルナは後方のゴーストを火球で消してから、前方のゴーストへ集中しろ!!」


 ザック先生は背後の通路へ向き直り、剣を構えた。


「俺は後ろに現れた魔物を殲滅する!! それまで時間を稼げ!! いいか、お前ら!! 魔法士のエルナと中衛のアイリスを守れ!! 一歩も引くな!!」


「はい!!」


 俺たちは声を揃え、前方の魔物へ向き直る。


 大空間には、30〜40体のスケルトンとゾンビがひしめいていた。


 その割合は半々くらい。


 スケルトンは盾と片手剣を構え、その後ろからゾンビが押し寄せてくる。


 さらにワイトの周囲には、7、8体のゴーストが漂っていた。


 俺は氷槍を2本生み出した。


 1本ずつ狙いを定め、ワイトの周囲にいるゴーストへ射出する。


 青白い身体を氷槍が貫き、2体のゴーストが煙のように消えた。


 直後、残ったゴーストたちが一斉に口を開いた。


 耳を突き刺すような金切り声が、大空間に響き渡る。


 怨嗟の囁きだ。


 背筋を冷たいものが這い上がり、手足が震えた。


 目の前へ迫ってくるゾンビとスケルトンが、急に恐ろしく見える。


 こいつらに囲まれたら、身体を引き裂かれる。


 ここで死ぬかもしれない……。


「セイン! 助けて! やられちゃう!」


 背後からアイリスの悲鳴が聞こえた。


 俺は反射的に振り返る。


 次の瞬間、目の前に迫っていたゾンビの腕が斬り飛ばされた。


 アイリスが俺の横を駆け抜け、回転しながらゾンビの首を斬り落とす。


 俺と目を合わせたアイリスが叫んだ。


「セイン!! 何を振り返ってるのよ!! しっかりしなさいよ!!」


 今の声は幻聴だったのか……!


 そうだ。


 アイリスは弱くない。


 簡単にやられたりしない!


 仲間を信じるんだ!!


 前へ向き直ると、スケルトンの剣が振り下ろされていた。


 剣で受け止め、力任せに弾き返す。


 横から迫ったゾンビの膝を斬り、倒れたところへ剣を突き立てた。


 ここで俺が崩れたら、本当にアイリスまで敵が届く。


 アイリスが傷つく姿を想像する方が、死ぬことよりも怖かった。


「うおおおおおーー!!」


 俺は恐怖を振り払うように叫び、押し寄せるスケルトンとゾンビへ剣を振るった。


 隣では、ジークが盾で敵の攻撃を受け止めている。


 スケルトンを盾ごと押し返し、体勢を崩したところへ剣を叩き込んだ。


 マリウスも長弓を背負い、両手の短剣でゾンビの攻撃を捌いている。


 俺たち3人は横一列に並び、必死に敵の進行を食い止めた。


 背後から放たれたエルナの火球が、俺たちの頭上を越えていく。


 火球がゴーストを捉え、青白い身体を1体、また1体と焼き尽くした。


 その時、マリウスが霊気弾を避けて一歩だけ後ろへ下がった。


 大きく陣形を崩したわけじゃない。


 短剣で受けやすい間合いを取ろうとしただけに見えた。


 だが、横一列だった前衛に、わずかな窪みが生まれた。


 大空間の奥にいるワイトの赤黒い目が、マリウスへ向く。


 ワイトが剣を掲げ、その切っ先をマリウスへ向けた。


 周囲を漂っていたゴーストたちが、一斉に向きを変える。


「マリウス!!」


 俺が叫んだ時には、何発もの霊気弾がマリウスへ殺到していた。


 マリウスは短剣を振り、迫る霊気弾を次々に弾く。


 だが、全ては防ぎきれない。


 霊気弾が腕、腹、足へ立て続けに直撃した。


「ぐはぁ……!!」


 マリウスの身体がくの字に折れる。


 前衛にできた窪みへ、スケルトンとゾンビが一気に押し寄せた。


 たった一歩。


 それだけで、流れが変わった。


 体勢を崩したマリウスへ、スケルトンの剣が振り下ろされる。


 アイリスが即座に飛び込み、その剣を横から弾いた。


 だが、わずかに遅かった。


 剣先はすでに、マリウスの肩口へ深く食い込んでいた。


「がっ……!」


 マリウスが口から血を吐き、石床へ倒れる。


「マリウス!!」


 アイリスが悲鳴に近い声を上げた。


「エルナ!! マリウスを引きずってでも後ろへ運んで!!」


 エルナが駆け寄り、マリウスの腕を掴む。


 アイリスはその前へ立ち、剣を強く握り締めた。


「この骨ども……ぶち殺す!! ハアアアアアーー!!」


 アイリスが回転しながら敵の群れへ飛び込んだ。


 剣と身体が一つになったような連撃。


 スケルトンの腕が飛び、ゾンビの頭が砕け、骨と腐肉が次々に石床へ転がる。


 しかし、アイリスは周囲も見ずに敵の群れへ入り込みすぎている。


「アイリス!! 前へ出すぎだ!!」


 俺の声も届かない。


 その時、背後からザック先生が駆けてきた。


 後方の魔物を殲滅したらしく、剣には黒ずんだ血が付着している。


「アイリス!! 後ろに下がってマリウスを見ろ!! ここは俺に任せろ!!」


 ザック先生がアイリスの横を抜け、スケルトンを盾ごと斬り伏せた。


「うおおおおおーー!!」


 その姿を見た瞬間、アイリスは我に返ったように足を止めた。


 すぐにマリウスのもとへ走っていく。


 俺とジークも、倒れたマリウスを横目で見た。


 口元を血で濡らし、力なく横たわっている。


 視界が赤く染まったような感覚だった。


「こいつら……!!」


 ジークが盾をスケルトンの顔面へ叩きつける。


 俺も剣を両手で握り、ゾンビの胴を斜めに斬り裂いた。


「うおおおおおおおーー!!」


 怒りのままに剣を振るう俺たちを、ザック先生の怒声が止める。


「頭に血を上らせるな!! 陣形を維持しろ!! ジークは盾で止めろ!! セインはジークが崩した敵を仕留めろ!!」


 その指示で、俺はようやく自分の役割を思い出した。


 ジークが盾で受け止め、押し返す。


 ザック先生が敵の数を減らし、俺が隙を見せた魔物へ剣を突き立てる。


 崩れかけていた前衛が、少しずつ形を取り戻していった。


 後方では、アイリスがマリウスの傍らに膝をつき、傷口へ手を伸ばしていた。


◇◇◇◇


 マリウスの出血が酷すぎる。


 私の目の前で、肩口からまだ温かい血が溢れ続けている。


 傷は鎖骨の下まで深く達している。


 口から血を吐いていた。


 肺まで傷ついているかもしれない。


 このままじゃ、マリウスは確実に死ぬ!


 涙で視界が滲んだ。


 震える手で傷口へ触れると、ぬるりとした血が指の間からこぼれ落ちていく。


 怖い。


 マリウスの身体から、命が流れ出していく。


 でも、絶対に死なせない。


 私が助ける。


 手のひらから白い光が溢れ出す。


 流し込む魔力を増やし、強まった白い光を必死に維持した。


 ハイヒール。


 今の私が安定して維持できるのは、4分まで。


 だけど、この傷を治すには足りないかもしれない。


 剣がぶつかる音。


 セインたちの叫び声。


 何かが燃える臭い。


 すぐ近くで戦いが続いているのに、傷口から目を離すことができない。


 流れ出していた血が、少しずつ減っていく。


 まだよ。


 まだ止まっていない。


 魔力が身体から急速に抜けていく。


 手足の感覚が薄れ、身体が重くなっていった。


「アイリス!! 右から来るで!!」


 エルナの声が聞こえた。


 直後、背後で炎が弾ける。


 熱風が髪を揺らした。


 それでも、私は白い光を途切れさせなかった。


 3分を越えた。


 息が苦しい。


 視界の端が暗くなっていく。


 でも、傷の奥では、まだ出血が続いている。


 もう少し。


 もう少しだけ……。


 4分。


 限界まで維持できるようになった時間を越えた。


 頭の中が真っ白になり、身体から力が抜けていく。


 それでも、残っている魔力を無理やり絞り出した。


 お願い。


 止まって……。


 マリウスを死なせないで……!


 傷口から溢れていた血が、ようやく止まった。


 よかった……。


 そう思った瞬間、白い光が消えた。


◇◇◇◇


「アイリス!! しっかりしいや!!」


 エルナの叫び声が響いた。


 振り返ると、アイリスがマリウスへ覆い被さるように倒れていた。


「アイリス!!」


 駆け寄りたくなった。


 だが、俺の目の前には、まだスケルトンがいる。


 ここで持ち場を離れたら、倒れている2人まで敵が届く。


 俺は奥歯を噛み締め、目の前の敵へ剣を振り下ろした。


 エルナが涙を拭い、残ったゴーストを睨みつける。


「絶対に許さへん……。全部、消し炭にしてやる!!」


 6つの火球が、エルナの周囲へ現れた。


 火球が次々に飛び、残っていたゴーストを焼き尽くす。


 さらにエルナは6つの火球を2度生み出し、スケルトンとゾンビの群れへ叩き込んだ。


 炎が石床を走り、大空間が火の海に変わる。


 ゾンビの身体が燃え上がり、スケルトンの骨が黒く焼け焦げていった。


「エルナ!! もう十分だ!! 魔力を残しておけ!!」


 ザック先生の声で、エルナが火球を止める。


 俺とジーク、ザック先生は、炎の中から出てきた残りの魔物を1体ずつ仕留めていった。


 最後のスケルトンが崩れ落ちる。


 残ったのは、大空間の奥に立つワイトだけだ。


 ワイトが剣を横に構え、俺たちへ向かってくる。


「3人で囲むぞ!! 正面から打ち合うな!!」


 ザック先生の指示で、俺たちは3方向へ分かれた。


 俺が右。


 ジークが左。


 ザック先生が正面。


 ワイトは迷わずザック先生へ斬りかかる。


 剣と剣が激突し、甲高い音が響いた。


 ワイトが力任せにザック先生を押し込もうとする。


 そこへジークが踏み込み、盾をワイトの脇腹へ叩きつけた。


 ワイトの身体がわずかに傾く。


 俺は背後から斬りかかったが、ワイトは手甲で剣を受け止めた。


 そのまま腕を振り、俺の身体を弾き飛ばす。


「ぐっ……!」


 なんて力だ!


 ワイトはすぐに向きを変え、ジークへ剣を振り下ろす。


 ジークは盾で受け止めたが、衝撃に耐えきれず膝をついた。


「ジークから離れろ!!」


 ザック先生が横薙ぎに剣を振るう。


 ワイトは剣で受け止めた。


 その隙にジークが低い姿勢から足払いを仕掛ける。


 ワイトがそれを避け、上へ跳び上がった。


 空中では逃げられない!


 俺は少し後ろへ下がり、残った魔力で氷槍を2本生み出す。


「いけええええーー!!」


 放った氷槍が、ワイトの脇腹と太腿へ突き刺さった。


 ワイトの身体が空中で大きく揺れる。


 着地と同時に、ザック先生が間合いへ踏み込んだ。


「終わりだ!!」


 振り下ろされた剣が、ワイトの肩口から胴を一刀両断する。


 赤黒い光が消え、2つに分かれた身体が石床へ崩れ落ちた。


 俺たちはすぐにアイリスとマリウスのもとへ駆け寄った。


 エルナが泣きながら、2人の手を握っている。


 ザック先生はマリウスの傷を確認してから、アイリスの呼吸を確かめた。


「マリウスの出血は止まっている。すぐに死ぬ状態ではない。だが、助かったとはまだ言えん。一刻も早く地上へ運び、治癒士に診せる必要がある!」


 ジークが階段室へ続く通路を見た。


「予備日の1日を使って、そこの階段室に避難するのは駄目ですか!?」


「駄目だ!」


 ザック先生は迷わず答えた。


「このダンジョンでアンデッド系の魔物が確認されたのは初めてだ。しかも、統率型のワイトまでいた。外部から入り込んだ魔物である可能性が高い」


 ザック先生が、先ほどまでワイトの立っていた場所へ目を向ける。


「他にもアンデッド系の魔物が潜んでいるかもしれん。階段室はダンジョン内に発生する魔物からは守られているが、外部から来た魔物には関係ない。今の俺たちに、これ以上の戦闘はできん」


 マリウスは重傷。


 アイリスは魔力枯渇で意識を失っている。


 エルナも大量の火球を使った。


 俺とジークにも、ほとんど余力は残っていない。


「なら、魔物も罠もなかった来た道を戻る方が安全だ」


 この状態で2人を担いで撤退する。


 考えただけで、足が震えそうになった。


 けれど、迷っている間にも時間は過ぎていく。


 俺は背負っていた荷物を石床へ下ろし、中から水と最低限の食料だけを取り出した。


 残りの荷物を捨て、意識のないアイリスを背負う。


 腕から伝わる体温に、少しだけ安堵した。


 ザック先生はマリウスを担ぎ上げる。


「普通に歩けば、1階層を2時間で突破できる!! 来た道に罠はなかった! 敵もいなかった! 休憩は最低限にして、最短で地上へ戻るぞ!!」


「はい!!」


 ジークが先頭に立ち、エルナがその後ろへ続く。


 俺は背中のアイリスを落とさないよう、両腕に力を込めた。


 行きには何もいなかった暗い通路。


 その何もいないことだけを信じて、俺たちの撤退戦が始まった。

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