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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第3章 共に生き残る力

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第55話 2か月の課外授業

 最初の森探索から、2か月が経った。


 Sクラスの課外授業は、想像していたよりもずっと多かった。


 森を歩き、足跡を追い、折れた枝や草の倒れ方から魔物の行き先を探る。


 最初はザック先生に言われなければ気づけなかった痕跡も、今ではマリウスが真っ先に見つけ、俺たちも周囲を見る癖がついてきた。


 素材採取の課外授業では、エルナが火球で薬草を焦がして、ザック先生に怒られた。


「おいおい、討伐じゃなく採取だぞ!? 素材を駄目にしてどうするんだよ……全く!」


「うっ……すみません」


 護衛演習では、ジークが馬車の真横に立っていたところを注意された。


「守るなら横に張りつくな! 進行方向と逃げ道を見ろ!」


「はい!」


 撤退訓練では、俺たちは何度も失敗した。


 勝てる相手を倒すのは簡単だ。


 だが、負傷者役を抱えながら陣形を維持して下がるのは、思った以上に難しかった。


 アイリスは負傷者役を助けようとして何度も前へ出て、そのたびにザック先生に止められた。


「治癒役が倒れたら終わりだ。助けたいなら、まず自分が残れ」


「……分かっています」


 雨の中で行動した日もあった。


 泥に足を取られ、マリウスの弓の弦は湿り、エルナの火球も普段より扱いづらくなった。


 夜間の見張りでは、眠気に耐えながら、遠くで草が揺れる音に全員で反応した。


 歩くこと。


 食べること。


 眠ること。


 見張ること。


 撤退すること。


 魔物を倒すだけが課外授業じゃない。


 全部が、生き残るための授業だった。


 そして、課外授業を重ねるたびに、俺たちの戦い方も変わっていった。


◇◇◇◇


「止まるべ」


 森を進んでいたマリウスが、片手を上げた。


 全員が足を止める。


 マリウスは地面に膝をつき、土に残った足跡へ指を当てた。


「コボルトだべ。新しい足跡が重なってる。1体や2体じゃねえ」


「数は分かるか?」


 ザック先生に聞かれ、マリウスが周囲を見回す。


「10体以上はいると思うべ。あっちに向かってる」


 足跡を追うと、木々の向こうから獣の唸り声が聞こえてきた。


 俺とジークが前に出る。


 マリウスは短剣を抜いて左側に立ち、その後ろにアイリス、最後尾にエルナ。


 エルナの周囲に、6つの火球が浮かぶ。


 茂みが大きく揺れ、棍棒や錆びた剣を持ったコボルトが一斉に飛び出してきた。


 全部で15体!?


「来るぞ!!」


 俺は剣を構えたまま、2本の氷槍を作り出した。


 まだ剣を振りながら制御することはできない。


 だが、接近される前なら使える!


 氷槍を放ち、先頭の2体を貫く。


 残ったコボルトが左右に分かれ、俺たちへ襲いかかってきた。


 俺が3体を引きつけ、ジークが盾で敵の進路を塞ぐ。


 ジークは受け止めるだけではなく、盾を叩きつけて体勢を崩したコボルトを剣で仕留めた。


「右から来るで!!」


 エルナの火球が俺たちの横を抜け、回り込もうとしたコボルトの足元へ着弾する。


 炎が逃げ道を塞ぎ、足を止めた敵へアイリスが飛び込んだ。


「ハアッ!!」


 一撃で首を斬り、そのまま深追いせずに戻ってくる。


 俺たちは確実に強くなっていた。


 数は多いが、これなら押し切れる!


 そう思った時、左側でマリウスが一歩下がった。


 傷を負って逃げるコボルトを、短剣で追うか、弓に持ち替えて仕留めるか迷ったのか?


 その一瞬で、陣形に隙間ができた。


 別のコボルトが身体を低くし、マリウスの横を抜ける。


 まずい!


 その先にはエルナがいる!


「マリウス!!」


 俺が叫ぶより早く、アイリスがコボルトの前へ割り込んだ。


 振り下ろされた剣を受け止め、腹を蹴り飛ばす。


「何してるのよ!!」


「マリウス!! その一歩でエルナが死ぬぞ!!」


 ザック先生の怒声が森に響いた。


 マリウスの顔色が変わる。


「す、すまねえ!!」


 すぐに前へ戻り、アイリスが蹴り飛ばしたコボルトの喉へ短剣を突き刺した。


 俺たちはそのまま押しきり、残るコボルトを次々に倒していった。


 最後の1体が逃げようとしたが、エルナの火球が目の前へ着弾して足を止める。


 そこへマリウスが駆け込み、短剣で仕留めた。


 辺りに静けさが戻った。


 誰も怪我をしていない。


「15体もおったで!?」


 エルナが興奮した声を上げる。


 俺も荒い呼吸を整えながら笑った。


 だが、ザック先生だけは笑っていなかった。


「全員、集まれ!!」


 俺たちはすぐに先生の前へ並んだ。


 ザック先生はマリウスを見る。


「マリウス、なぜ下がった?」


「短剣で追うより、弓で仕留めた方が早いと思ったんだべ。でも、持ち替えるか迷って……」


「判断するのは悪くない。だが、中途半端に動くな! 下がるなら仲間に伝えろ! 踏みとどまるなら、最後まで踏みとどまれ!」


「はい……」


「あの一歩でエルナまでの道ができた。今回はアイリスが間に合ったが、次も同じとは限らない。それを忘れるな!」


「はい!」


 ザック先生は、俺たち全員を見回した。


「正直に言えば、途中で俺も介入するつもりだった。15体は1年生に任せる数じゃない。上級生のパーティーでも危うい数だ」


 俺たちの表情が明るくなる。


「それを自分たちだけで殲滅した。お前ら5人の戦闘能力は、はっきり言って異常だ」


「うちら、そんなに強いん!?」


 エルナが目を輝かせた。


 俺も胸の奥が熱くなる。


「ただし、個々の力は強くても、パーティーとしてはまだまだ未完成だ! 今のお前らは、連携の失敗を個人の力で押し潰して勝っているだけだからな!」


 ザック先生の言葉に、誰も言い返せなかった。


「1つの判断ミスで全員が死ぬ! それがパーティー戦だ! 覚えておけ!!」


「はい!!」


 俺たちは声を揃えて返事をした。


 先生の言葉は理解したつもりだった。


 それでも、15体のコボルトを自分たちだけで倒し、誰も怪我をしていない。


 その事実に、俺の胸はまだ高鳴っていた。


◇◇◇◇


 コボルト討伐から学園へ戻った俺たちは、夕食までのわずかな時間、リリアと一緒に寮の談話室へ集まった。


 アイリスは、まだマリウスの行動に怒っていた。


「マリウス、あんた何であそこで下がったのよ!?」


「横にアイリスがいたから、弓で仕留めた方が早いと思ったんだべ……」


「あんたが下がったら、私が穴を埋めるしかないでしょ! あのまま抜かれていたら、エルナが襲われていたのよ!」


「本当に面目ないべ……」


 マリウスが肩を落とす。


「俺の短剣は、みんなと比べたら何段階も下だべ」


「だから、そういうことじゃないわよ!! 本気で殴るわよ!!」


 アイリスが机を叩いた。


「あんたの短剣が弱いんじゃなくて、気持ちが弱すぎるのよ! ロウエン爺も言っていたじゃない!? 迷って中途半端に動いたら、あんた自身も怪我するわよ!」


「まあまあ、アイリス。落ち着いてください」


 リリアが苦笑しながら宥める。


「マリウスさんは、私のクラスの生徒と比べたら物凄く強いですよ」


 アイリスが首を傾げた。


「私たちと、そんなに違うの?」


「ええ。私は皆さんの鍛練しか見たことがなかったので、Aクラスの課外授業へ行った時は違和感しかありませんでした」


 リリアは俺たちを順番に見る。


「セインもアイリスもジークさんも、エルナさんも、短剣を持ったマリウスさんも、全員異常に強いんですよ」


「やっぱり、うちら強いんや!」


 エルナが嬉しそうに胸を張った。


 ザック先生からも、上級生のパーティーでも危うい数のコボルトを殲滅したと言われたばかりだ。


 俺だって、嬉しくないわけがない。


 すると、リリアが頬を膨らませた。


「でも、最近は皆さんが課外授業でいなさすぎです。学園祭も1人で回ることになって、つまらないからすぐ寮へ戻りました」


「ああ、学園祭あったんやな! リリアが1人で歩いとったら、男子から声をかけられまくったんやない?」


「ええ。煩わしくて、ほとんど歩けませんでした」


「どれだけ声をかけられたんだ……」


 ジークが少し青ざめる。


 すると、アイリスがなぜか自慢げに胸を反らした。


「当然よ! リリアはすごいのよ!! うちの領内でもちょっとした有名人なんだから!」


「アイリスが自慢することやないやろ」


「私の親友なんだから、いいのよ!」


 アイリスはリリアへ抱きついた。


「変な虫がつかないように、私が学園にいる時は完全に守るからね!」


 談話室に笑い声が広がった。


 課外授業では、まだ失敗することも多い。


 それでも俺たちは、確実に強くなっている。


 この5人なら、もっと強い魔物が相手でも戦える。


 俺はそう思い始めていた。


◇◇◇◇


 数日後。


 ザック先生が、Sクラスの教室で宣言した。


「明日から1週間、ダンジョン探索訓練を行う」


「ダンジョン!?」


 エルナが勢いよく立ち上がった。


「ああ。森探索より難易度が跳ね上がるから、通常は上級生同伴でしか行かない。だが、俺はお前らならやれると判断した」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。


 上級生と同じ扱いを受けたことが、素直に嬉しかった。


「ただし、調子に乗るなよ」


 ザック先生の鋭い声で、全員が先生へ向き直った。


「王都周辺の森は、予期せぬ出来事が起こりにくい。教師も危険を把握しやすく、お前らの実力なら勝てる場所だ」


 ザック先生が、俺たちを1人ずつ見る。


「だが、ダンジョンは違う。中で何が起きるか分からない」


 教室から笑顔が消えた。


「お前らは戦闘能力こそ高いが、パーティー戦術はまだ甘い。これまでのように、失敗を個人の力で押し潰せるとは限らない。それを肝に銘じて、ダンジョンに挑むぞ!!」


「はい!!」


 俺たちは力強く返事をした。


 ザック先生の忠告は、真面目に受け止めた。


 それでも、怖さより楽しみの方が大きかった。


 この2か月で、俺たちは何度も失敗し、そのたびに強くなってきた。


 15体のコボルトだって、自分たちだけで倒せた。


 ダンジョンでも、この5人ならきっと大丈夫だ。


 その時の俺は、本気でそう思っていた。


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