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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第3章 共に生き残る力

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第54話 勝てる場所

「陣形を組め!! 俺は最後衛にいる! お前らの力を見せてみろ!! 来るぞ!!」


 俺は右、ジークは左へ前に出た。


 半歩後ろの中央にアイリスが立ち、その後ろでマリウスが弓を構えた。


 後衛のエルナが魔力を練る。


 赤い光が集まり、人の頭ほどの火球が6つ、エルナの周りに浮かんだ。


 昨日、教室で決めた通りの布陣だ。


 揺れていた茂みが、急に静かになる。


 来る!!


 そう思った瞬間、正面と左側の茂みから、短剣を持ったゴブリンが2体ずつ飛び出した。


「正面に2体、左に2体だべ!」


 マリウスの声が飛ぶ。


 正面の1体が、俺に短剣を振り下ろす。


 剣で受け流し、がら空きになった胴を斬り裂いた。


 もう1体は、俺の横を抜けようとする。


 だが、俺が振り返るより先に、マリウスの矢がゴブリンの眉間を射抜いた。


 正面の2体が倒れる。


 左側では、ジークがゴブリンの短剣を盾で受け止めていた。


「ふっ!」


 盾を押し返して体勢を崩し、その首を斬り裂く。


 もう1体がジークの脇を抜け、後衛のエルナへ向かう。


「行け!」


 エルナの横に浮かんでいた火球が3つ、射出された。


 火球は迫っていたゴブリンの胸に直撃し、一気に燃え上がった。


 ボォー!!


「ギィィーー!!」


 ゴブリンがたまらず悲鳴を上げ、そのまま地面に倒れた。


 これで4体。


 だが、地面に残っていた足跡は5、6体分あった。


「まだいるぞ!」


 周囲を見回した直後、左手の茂みから5体目が姿を現した。


 こちらの様子を窺っていたゴブリンが、森の奥へ逃げようとする。


「逃がすな!」


 俺とジークが同時に駆け出した。


「待つべ! 2人とも前に出るな!」


 マリウスの声が聞こえたが、俺はすでにゴブリンへ追いついていた。


 振り返って突き出された短剣を弾き、そのまま胸へ剣を突き立てる。


 5体目が地面へ崩れ落ちた。


 その瞬間、背後で枝が折れた。


 振り返る。


 木の陰に潜んでいた6体目が、エルナの背中へ飛びかかっていた。


 マリウスは次の矢をつがえている途中で、ジークも俺の隣にいる。


 間に合わない!!


「エルナ!!」


 俺が叫んだ。


 だが、アイリスはすでに動いていた。


 エルナとの間へ滑り込み、振り下ろされた短剣を剣で受け流す。


 そのまま身体を回転させ、ゴブリンの首を一閃した。


 6体目が、エルナのすぐ横へ倒れる。


「た、助かった……気付かんかった……」


「だから、2人揃って前に出たら駄目でしょ!」


 アイリスが俺とジークを睨む。


 言い返せない。


 俺たちが5体目を追ったせいで、後衛を守る前衛が誰もいなくなった。


 マリウスが周囲を見回し、静かに弓を下ろす。


「足跡通り、全部で6体。今度こそ終わりだべ」


 しばらく待っても、茂みは動かなかった。


 俺はようやく息を吐き、剣についた血を払う。


 ほとんど時間はかかっていないのに、背中には冷たい汗が滲んでいた。


 ザック先生が、ゆっくり拍手をする。


「個々の戦いは悪くない。それぞれの役割も果たせていた。初回にしては上出来だ」


 褒められたのに、素直には喜べなかった。


「だが、セインとジーク。逃げる1体を、2人揃って追ったな」


「はい……」


「前へ出ることしか考えていなかったら、後衛を失うぞ。マリウスが止めようとし、アイリスが残っていたから間に合った。倒した数と敵の数を、戦いながら考えろ」


 ザック先生の言葉が、さっきより重く聞こえた。


 昨日決めた陣形は組めた。


 それでも、戦いが始まった途端、俺は目の前の敵を倒すことへ意識を奪われた。


「悪かった、エルナ」


「怪我してへんから大丈夫や。それに、アイリスが守ってくれたしな。うちも気付かんかったのが悪いで……」


「治療役に守られてたら意味ないでしょ。次はちゃんとしなさいよ」


 アイリスはそう言いながらも、少し得意そうだった。


 張り詰めていた空気が、わずかに緩む。


 しかし、ザック先生はすぐに森の奥を指した。


「魔物を斬れたら終わりじゃない。ここからも課外授業だ。探索を続けるぞ」


 俺たちは、再び森を進んだ。


 分かれた獣道のどちらへ進むか。折れた枝は魔物の痕跡なのか。そのたびに5人で考え、間違えればザック先生に理由を問われた。


 昼を過ぎる頃には、戦っていないのに頭が重くなっていた。


 夕方、ザック先生が立ち止まる。


「そろそろ野営地を決めろ。この周辺で泊まるなら、どこにする?」


 近くには小川があり、その少し先に開けた場所が見えた。


 ジークが、その場所を指さす。


「見通しのいい場所がいいと思います」


「でも、水場に近すぎるべ。獣も魔物も水を飲みに来る。足跡も多い」


 マリウスが首を振った。


 エルナは濡らした指を立て、風向きを確かめる。


「火を使うなら、煙と明かりも考えなあかんな」


「そうだ。戦えるだけじゃ生き残れない。寝る場所、火の大きさ、飯の匂い、風向き、見張りの順番。全部が命に関わる」


 結局、水場から少し離れ、岩が風を遮る窪地を選んだ。


 ジークが見張り順を決め、マリウスが周囲の足跡を確かめる。俺とアイリスは乾いた枝を集めた。


 エルナが火球を浮かべようとして、ザック先生に止められる。


「火は必要だが、大きくするな。煙が上がれば場所がバレる。明かりも同じだ」


「魔法で一気につけた方が楽やと思ったんやけどな……」


「楽な方法が安全とは限らん」


 エルナは悔しそうに口を尖らせたあと、指先ほどの小さな火を自分の前に浮かべた。


 小さな火が枯れ葉へ移り、細い煙が上がる。


 夕食は、硬い保存食と干し肉を入れた簡単なスープだった。


 母さんの料理とは比べ物にならない。


 それでも、冷え始めた森で温かい湯気を吸い込むと、肩の力が抜けた。


「ちょっと塩辛いね」


「動いたあとは、これくらいでちょうどいいべ!」


 マリウスが胸を張った。


 小さな笑い声が、火を囲む5人の間に広がる。


 ザック先生が言っていた意味が、少し分かった。


 食べて、眠って、見張って、朝まで全員で生き残る。それも実戦なんだ。


 日が沈むと、森は昼間とは別の場所になった。


 焚き火の向こうは、すぐそこから何も見えない。


 聞こえるのは、葉擦れと虫の声。時折、遠くで何かが鳴くたびに、剣の柄へ手が伸びる。


 最初の見張りは、俺とアイリスだった。


「水浴びしたい……」


 アイリスが小声で呟く。


「まだ言ってるのか」


「だって、気持ち悪いんだもの」


 いつもの会話をしていても、互いに森からは目を離さない。


 しばらくして、風向きが変わった。


 焚き火の煙と、スープの残り香が暗闇へ流れていく。


 その先で、何かが地面を擦った。


 俺とアイリスは同時に口を閉じる。


 草むらの低い位置に、黄色い目が6つ浮かんだ。


 3体いる。


「全員、起きろ! ゴブリンだ!」


 俺が声を上げる。


 寝袋が跳ね、ジークたちが武器を掴んで起き上がった。


 茂みから3体のゴブリンが姿を現す。


 中央の1体が真っすぐ焚き火へ向かい、残りの2体が左右へ分かれた。


「俺が左、ジークは中央!」


「分かった!」


 俺とジークが前へ出る。


 その後ろでは、マリウスが弓を構え、アイリスがエルナを守る位置についた。


 眠りから起こされたエルナの手は震えていた。


 それでもすぐに魔力を練り、赤い光を自分の周囲へ集める。


 人の頭ほどの火球が6つ、エルナの周りに浮かんだ。


 中央のゴブリンがジークへ短剣を振り下ろす。


 ジークは盾で正面から受け止め、そのまま押し返した。


「はあっ!」


 体勢を崩したゴブリンの首を、ジークの剣が斬り裂く。


 左から回り込もうとした1体は、俺が進路を塞いだ。


 突き出された短剣を剣で弾き、返す刃で胸を斬る。


 残る1体は、右側から後衛へ回り込もうとしていた。


「右だべ!」


 マリウスが矢を放つ。


 矢はゴブリンの右肩へ突き刺さり、その足が止まった。


「エルナ!」


「分かってる!」


 エルナの横に浮かんでいた火球が射出される。


 火球はゴブリンの胸へ直撃し、黒く焼けた身体が地面へ倒れた。


 周囲を見回す。


 動いているゴブリンはいない。


 3体とも倒した。


 昼間とは違い、今度は誰も陣形を崩さず、後衛を置き去りにしなかった。


 戦いは、すぐに終わった。


 だが、ザック先生はゴブリンの死体ではなく、火のそばに置いた鍋を見ていた。


「倒せたから正解、じゃないぞ」


 俺たちは何も言えなかった。


「風向きが変わったのに、匂いの強い鍋を片づけなかった。お前らが呼び寄せた敵だ。気づくのが遅ければ、寝ているところを襲われていた」


 俺たちには、そもそも戦わずに済ませるための判断が足りていなかった。


 翌日は、食事の残りをすぐに片づけ、風向きが変わるたびに火と匂いを確認した。


 2日目の夜は、魔物に野営地を見つけられることはなかった。


 そして3日目。


 全員が怪我なく、森の入口まで戻ってきた。


 木々の隙間から王都の外壁が見えた瞬間、張り詰めていた息が一気に抜ける。


 やり遂げた。


 そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。


 ザック先生が俺たちを見て、低い声で言った。


「1年生のSクラスとしては、平均を大幅に上回っている。初回にしちゃ上出来だ」


 俺たちの表情が明るくなる。


 だが、ザック先生は笑わなかった。


「勘違いするな。今回は、お前らが勝てる場所に連れてきただけだ」


 胸の奥にあった高揚が、静かに冷えていく。


「個々が強いことと、生き残れることは別の話だ。どんなに強くても、驕ったやつから死ぬ。それが戦場だ」


 母さんが死にかけた戦いが、頭に浮かんだ。


 圧倒的な力を持つ母さんでさえ、1人で全てを背負えば限界が来る。


 俺たちは今回、勝てる敵に勝っただけだ。


 仲間と一緒に生き残るためには、まだ覚えることが山ほどある。


 俺は森を振り返り、ザック先生の言葉を胸に刻んだ。

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