↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第3章 共に生き残る力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/58

第50話 デーモン

 エーレンフェルト一家とリリアがグランベル領主屋敷に到着した夜、せっかくだからと宴会を開いた。


 食卓には、焼き色のついた大きな肉や、湯気を立てるスープ、色鮮やかな野菜料理が隙間なく並んでいる。


 父さんとギルベルトさんは、レイフォルト伯爵家から贈られた高級酒を開け、さっきから何度も酒杯をぶつけ合っていた。


「いやあ、いい酒だな!」


「だろ!? もう1杯いけ!」


 2人とも、かなりテンションが高い。


 母さんとフィオナさんも料理を作り終え、珍しく一緒に酒を飲んでいる。


 母さんがお酒を飲んでいるところなんて、初めて見た。


 大丈夫なの?


 酔った勢いで、そこら中を凍らせたりしないよね?


 アンドリューも母さんから酒を注いでもらい、恐縮しながら口をつけている。


 なんだかんだ、俺の両親は面倒見が良いんだよな。


 俺たちも果実ジュースを飲みながら、久しぶりに全員が揃った豪華な食卓を楽しんでいた。


 皿に残った肉を平らげたジークが、満足そうに息を吐く。


「今回、グランベル領に来て大正解だったな。これほど濃厚な鍛練の日々になるとは、想像していなかった」


 マリウスも大きく頷いた。


「ああ、ロウエン殿は教え方が上手いべ。俺も自分の弱点に集中して取り組めたから、成長しているって実感があるべさ」


 マリウスはパンをちぎりながら、アイリスへ顔を向けた。


「アイリスたちは、この1週間何してたんだべか?」


「エーレンフェルト領にいた時も似たようなものよ。午前中は父上と剣術、午後からは母上と魔法の鍛練」


 アイリスの隣に座っているリリアも頷く。


「私は午前中こそ家族と過ごしていましたが、午後からは師匠の所で魔法の鍛練をしていました」


「リリアの師匠って、どんな人なの?」


 俺が聞くと、リリアは口元に手を当てて笑った。


「すごく面白い人ですよ。普段は分厚い眼鏡をかけているのですが、眼鏡を外すと、とても美人なんです。本人はまったく気にしていませんけど」


 エルナが興味深そうに身を乗り出す。


「リリアは、自分の闇魔法を受け入れられるようになったん?」


「闇魔法は一般にあまり知られていないので、人前で使うことにはまだ少し抵抗があります。でも、誰かの役に立てるなら、それで十分だと思えるようになりました」


 以前のリリアなら、闇魔法について聞かれただけで表情を曇らせていたはずだ。


 今は穏やかに笑っている。


「そこまで割り切れるようになったなら、魔法の技術もどんどん上がりそうだね」


「フフッ……私なんか、まだまだですよ」


 そう言いながら笑えるようになったことが、俺には何より嬉しかった。


 これも、リリアの師匠のおかげなのかもしれない。


 エルナが果実ジュースを一口飲み、今度は俺を見る。


「魔法の技術といえば、セインも2週間前と比べたら、目に見えて成長してるやんか」


「いやいや、エルナの方が明らかに早いよ。さすが魔法では学年1位だなって思う。俺はエルナを目標にしてるところもあるんだ」


「セインにそないなこと言われたら、照れるやん!」


 エルナが笑いながら、俺の肩を何度も叩いた。


 その瞬間、隣からジュースの入った杯を置く音がした。


「ふーん……」


 アイリスが杯を見つめたまま、俺にだけ聞こえる声で呟く。


「私がいない間に、ずいぶんお楽しみだったんだね……」


 背中に嫌な汗が一気に噴き出した。


「そ、そんなことないけど。鍛練を頑張っていただけだぞ」


「そう」


 短い。


 怖い。


 アンドリューが空いた皿を下げ、新しい料理を食卓へ置いた。


 香ばしい匂いとともに、肉から立ち上る湯気が母さんの前を横切る。


 それを見たエルナが、突然目を輝かせた。


「クレア様がきた! ああ、クレア様……こんな幸せな食卓は、ここにしかあらへん!」


 エルナ、料理を持ってきたのは母さんじゃなくてアンドリューだぞ。


 ほら、母さんも酒杯を持ったままドン引きしてるじゃないか。


 母さんをドン引きさせられるのは、エルナにしかできない芸当だ。


 リリアは、まだ不機嫌そうなアイリスの耳元へ顔を寄せた。


「ほらね、アイリス。エルナさんが見ているのはクレアさんだけです。正確には、クレアさんの魔法ですけど」


「そ、そんなこと……分かっていたわよ」


 アイリスは顔を赤くして俯いた。


 リリアが嬉しそうに抱きつく。


「本当ですか? でも、嫉妬しているアイリスもかわいくて尊いです」


「嫉妬してない!」


 アイリスの声に笑いが起こる。


 父さんとギルベルトさんの酒杯がぶつかり、澄んだ音が響いた。


 楽しい宴会だった。


 だからこそ、ギルベルトさんが酒杯を置いて声を落とした瞬間、食卓の空気が変わったことが分かった。


「おい、アノルド。聞いたか?」


 さっきまで笑っていた父さんの顔から、酔いが少し引いた。


「何をだ?」


「魔物が活性化している原因だ。王国は、だいぶ絞り込んでいるらしいぞ」


 父さんの身体が前へ傾く。


「何だと? 詳しく話せ」


「魔物の活性化は、デーモンの仕業だと見ているらしい」


 デーモン。


 聞いたことのない名前だった。


 父さんも眉間にしわを寄せる。


「デーモンってなんだ?」


「知らねえよな。俺も初めて聞いた」


 ギルベルトさんは、酒杯の縁を指でなぞりながら続けた。


「どこから来たのかも分からねえ。魔物を活性化させ、その魔物が人間を襲うことで生まれた負の感情を食っている……そんな話だ」


 さっきまで聞こえていた皿や食器の音が、いつの間にか止まっていた。


 母さんとフィオナさんも、険しい表情で話を聞いている。


「負の感情を食う?」


 父さんが怪訝そうに聞き返した。


「それは比喩か? そもそも、そいつは魔物なのか?」


「俺に聞くな。人づてに聞いただけだ」


 ギルベルトさんは困ったように頭をかいた。


「ただ、デーモンは魔物とは別の存在らしい。魔物を従えているわけでもねえ。そいつが現れた地域では、魔物が異常に活性化して、人間を襲う確率が跳ね上がるそうだ」


「魔物ではない。だが、魔物を活性化させる。そして、人間の負の感情を食う……」


 父さんが腕を組み、低く呟いた。


 話を聞いても、姿すら想像できない。


 だからこそ、妙に気味が悪かった。


 ギルベルトさんが、さらに声を潜める。


「王国はデーモンを討伐するため、契約しているS級冒険者3組へ正式な討伐依頼を出したらしいぞ」


 父さんが目を見開いた。


「S級を3組同時に? あいつらも行くのか?」


「ああ。あいつらも今はS級冒険者だからな。依頼を受けたらしい」


 母さんとフィオナさんの表情が、さらに険しくなった。


 2人とも知っている相手なのか?


「父さんたちは、S級冒険者と知り合いなの?」


 思わず聞くと、母さんの鋭い目が飛んできた。


「セイン。大人の話に口を挟むんじゃないよ」


「はい……」


 父さんはもう俺を見ず、ギルベルトさんへ尋ねた。


「しかし、S級3組となると、依頼料も相当なものだろ」


「デーモンの居場所を特定できていないから、前金と成功報酬に分かれているらしい。前金はそれほど多くねえが、成功報酬は天文学的な金額だそうだ」


「そんな条件で、3組とも受けたのか?」


「かなり乗り気らしいぞ。何しろS級が3組だ。見つけさえすれば、すぐに討伐されるだろうよ」


 父さんの肩から力が抜け、置いたままだった酒杯を持ち上げた。


「そうか。なら、早く解決してほしいな。魔物の活性化が収まれば、騎士団や魔法士団も帰してやれる。アンドリューも、家に帰りたいだろ?」


 突然話を振られたアンドリューが、反射的に何度も頷く。


 母さんの酒杯が、コトリと机に置かれた。


「アンドリュー?」


 アンドリューの動きが止まる。


「い、いえ……グランベル領での日々も、大変充実しております」


 額に汗を浮かべながら、慎重に言葉を選んでいる。


 父さんとギルベルトさんが吹き出し、食卓に笑い声が戻った。


 酒が注がれ、料理の皿が行き交い、リリアは顔を赤くしたアイリスをまたからかい始める。


 宴会は、何事もなかったかのように続いていった。


 それでも俺は、さっきまでと同じ気持ちでは笑えなかった。


 魔物を活性化させ、人間の負の感情を食う存在。


 姿も、居場所も、何者なのかさえ分からない。


 デーモン。


 その名前だけが、胸の奥へ落ちた黒い染みのように、いつまでも消えずに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。