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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第3章 共に生き残る力

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第45話 セインのご学友

「それなら、うちも馬車に同乗させてもらって、グランベル領に行きたいんやけど……ダメかな?」


 エルナがグランベル領に?


「別にいいけど、何で? 畑しかない何もないところだよ?」


「何もないって……《氷槍》のクレア様がおるやん!」


 エルナは何を言っているんだという顔で俺を見た。


「クレア様の氷槍を間近で見られるかもしれへん。それに、直接魔法を教えてもらえるかもしれへんのやで! 行かへん理由がないやん!」


「母さんが教えるかは分からないけど、来たいなら歓迎するよ」


「ほんまに!? ありがとう、セイン!」


 エルナが俺の両手を握って飛び跳ねる。


 その様子を見ていたアイリスの眉が、わずかに動いた。


「俺も行く」


 ジークが突然言った。


「ジークも?」


「ああ。お前とアイリスの剣術の師であるロウエン殿に、以前から一度教えを受けてみたいと思っていた。迷惑でなければ、俺もグランベル領で鍛練させてほしい」


「それなら俺も行きたいべ!」


 マリウスまで勢いよく手を挙げた。


「セインとアイリスの剣術には、蹴りや体術も混ざってるべ? 俺の戦い方にも絶対合うと思うんだ。俺もロウエン流を教わりたいべさ!」


「一気に増えたな……。父さんなら喜ぶと思うけど、みんな家の許可は大丈夫なの?」


「俺はこれから家に戻って、直接許可をもらってくる」


「うちも王都屋敷に手紙を送る。今日中に返事をもらえるよう頼んでみるわ」


「俺も王都屋敷に手紙を出してみるべ」


 こうして、エルナ、ジーク、マリウスの3人も、家の許可が下りれば夏休みをグランベル領で過ごすことになった。


◇◇◇◇


 翌朝。


 荷物を抱えて寮の庭へ降りると、父さんとギルベルトさんはすでに到着していた。


「おはよう。父さん、ずいぶん早かったね」


「久しぶりにセインに会えると思ったら、早く目が覚めてな。馬にも少し無理をさせちまった!」


 父さんは悪びれもせずに笑っている。


 ギルベルトさんも、アイリスの姿を見ながら頷いた。


「その気持ちは分かるぞ。俺も半年もアイリスに会えなかったのは初めてだからな」


「父上……大げさです」


 そう言いながらも、アイリスは嬉しそうに笑っている。


 父さんは俺の肩を何度も叩いた。


「それで、セイン! 結果は聞いたぞ。総合1位だったらしいな! さすが俺の息子だ!」


「うん。なんとか1位になれたよ」


「なんとかで1位になるな! お父さん、誇らしすぎて困るだろ!」


 何で困るんだよ。


 ギルベルトさんも、アイリスの頭を優しく撫でた。


「アイリスも2位だったそうだな。よく頑張った」


「はい、父上」


 アイリスは照れくさそうに頷いた。


 その隣で、リリアが少しだけ俯く。


 ギルベルトさんは何も言わずにリリアの前へ移動し、アイリスにしたのと同じように、その頭を優しく撫でた。


「リリア。6位なら十分すぎるほど立派な成績だ。Aクラスでも、お前が努力して勝ち取った結果に変わりはない。よく頑張ったな」


 リリアが顔を上げる。


「……ありがとうございます」


 父さんも明るい声で言った。


「6位は立派な成績だ。胸を張りなさい、リリア嬢。おい、ギルベルト。万年6位のフィオナを思い出すな!」


「そういえばそうだな! フィオナもそうだったな。懐かしい」


 いやいや、父さんたち。


 リリアは今回、Sクラスには届かなかったけど、まだSクラス入りを諦めていないんだから、万年6位とか言うなよな。


 リリアは小さく笑った。


「フィオナ様もそうだったんですね。少しだけ気が楽になりました」


 昨日から残っていた表情の硬さが、少しだけ和らいだ。


 それから俺は、父さんにエルナ、ジーク、マリウスを1人ずつ紹介した。


「3人とも、夏休みはグランベル領で過ごしたいんだって。連れて帰っても大丈夫かな?」


 父さんの目が大きく見開かれた。


「セインが……友達を……?」


「うん。3人とも、家から許可はもらってるよ」


 エルナとマリウスは、今朝までにそれぞれの王都屋敷から届いた返事を父さんへ見せた。ジークも、父親から直接許可を得たと伝える。


 それなのに父さんは手紙を受け取ろうともせず、真上を向いた。


「あのセインが、学園の友達を家に連れてきたいと……」


 目元が光っている。


 父さん、泣いてないか?


 ギルベルトさんが、分かるぞという顔で父さんの肩を叩いた。


「気持ちは分かるが、学園で友達ができるのは当たり前だろ。俺たちだって、ここで知り合ったんだからな」


「……そうだな。歳を取ると涙もろくていけねえ!」


 そこまで感動することなのか?


 俺がちょっと変わった子どもだったから、学園で友達ができるか、実はずっと心配していたんだろうか。


 それにしても、みんなの前で泣かれるのは恥ずかしい。


 父さんは腕で目元を拭うと、3人に向かって笑った。


「グランベル領は大歓迎だ! うちは部屋だけは余ってるからな。遠慮せず、自分の家だと思って過ごしてくれ!」


「ありがとうございます!」


「お世話になります」


「世話になるべ!」


 ギルベルトさんは、アイリスとリリアの荷物を馬車へ積みながら父さんに言った。


「俺たちは一度エーレンフェルト領へ戻る。準備ができたら、すぐにお前のところへ向かうからな」


「ああ。待ってるぞ」


 アイリスが名残惜しそうに俺を見た。


「セイン、先に帰ってなさい。すぐに行くから」


「分かった。待ってるよ」


 俺が答えると、アイリスはエルナの方をちらりと見た。


 エルナはそんな視線にも気づかず、父さんの馬車を見ながらそわそわしている。


 今から母さんに会うことで、頭がいっぱいなんだろう。


◇◇◇◇


 王都を出てからの1週間、馬車の中はずっと賑やかだった。


 エルナは母さんのことを、ジークとマリウスはロウエン爺のことを、何度も俺に尋ねてくる。


「なあ、セイン。クレア様は普段、どんな魔法を使うん?」


「普段は料理をしたり、俺を叱ったりしてるけど」


「叱られる? 誰が?」


「俺が」


「羨ましい……」


「何で!? 羨ましいのか?」


 エルナは本気の目をしていた。


 駄目だ。


 この子は魔法に関わると本当に壊れる。


 野宿のたびに、ジークとマリウスから立ち合いを挑まれた。


 2人は俺と立ち合ったあとも、盾で短剣をどこまで防げるのか、どの間合いなら懐へ潜り込めるのかと、互いの戦い方を確かめ合っている。


 それを父さんが嬉しそうに眺めていた。


 みんな楽しそうで何よりだ。


◇◇◇◇


 1週間後、馬車がグランベル領の領主屋敷へ到着した。


 俺たちが馬車を降りると、父さんは3人を屋敷へ招き入れるように大きく腕を広げた。


「さあ、着いたぞ! 空いている部屋は好きに使ってくれて構わない。クレアにベッドを整えてもらうから、荷物は玄関に置いておけ!」


 エルナの顔色が変わった。


「グランベル様! それはあきません! クレア様にベッドを整えていただくなんて恐れ多すぎます! 自分でやります!」


 ジークもすぐに頷く。


「アノルドさん、俺たちは勝手に押しかけた身です。その程度のことは自分たちでやりますので、お構いなく」


「そうなのか? それなら分かった」


 父さんは不思議そうな顔をしながら玄関の扉を開け、屋敷中に響く声で叫んだ。


「クレアー! セインが友達を連れて帰ってきたぞー! 今日は祝い飯だ! 一番いい肉を出せ!」


 え!?


 なぜ祝い飯!?


 俺はそんなに友達ができそうにない子どもだったの!?


 母さんが何事かという顔で、玄関ホールへ出てきた。


 ジークとマリウスが、そろって深々と頭を下げる。


「夏休みの1か月間、お世話になります」


「世話になるべ」


 エルナは母さんを見たまま、完全に固まっていた。


 母さんは3人へ微笑みながら丁寧に挨拶をした。


「うちのセインが、いつもお世話になっております。これからも仲良くしてくださいね」


 そう言った母さんの目に、みるみる涙が浮かんだ。


 母さんはそれを隠すように顔を背け、そのまま屋敷の奥へ戻っていく。


 いや……マジか……。


 母さんまで、そうなるのか……。


 想定外の攻撃を受けている。


 これは、かなりの精神的損傷だ。


 アイリスもいないから、誰も俺を助けてくれない。


 学園を出る時に父さんが涙ぐんだ理由を、もっと深く考えておくべきだった。


「おい、エルナ! 大丈夫か!?」


 ジークに肩を揺すられ、エルナが我に返った。


「ハッ! うち、挨拶する機会を逃してもうた! どないしよう!?」


 ジークが、隣で灰になりかけている俺へ顔を向ける。


「セイン、エルナをもう一度お母上に会わせてもらえないだろうか? ……セイン? おい、どうした?」


「いや、いいんだ。お前たちは分からない方がいい……。母さんに、もう一度だね。分かったよ」


 その時、屋敷の外から何頭もの馬が駆けてくる音が聞こえた。


 まさか……。


 嫌な予感がして振り返ると、ロウエン爺とニルくん、それに自警団の人たちが、早馬でも飛ばしてきたのかという勢いで屋敷へ駆け込んできた。


「若様!! ご学友を連れて帰ってきたというのは本当なの!?」


 ニルくんの後ろから、ロウエン爺も目元を押さえながら歩いてくる。


「若様……爺は感無量にございます」


「もういいって! その反応、父さんと母さんで十分だから! はいはい、連れてきましたよ! 早く村に帰ってよ!」


 ロウエン爺の後ろでは、自警団の人たちまで涙ぐんでいた。


「後ろの人たちも泣かないで! 何で村中に広まってるの!?」


 頼むから、もう村へ帰ってくれ。


 これ以上は耐えられない。


 しかし、俺が頭を抱えている間に、ジークがロウエン爺の前へ進み出た。


「もしや、あなたがロウエン殿ですか?」


「いかにも。ロウエンにございますが……」


 ジークの顔が輝いた。


「セインとアイリスから、何度も話を聞いています。剣術と体術を組み合わせたロウエン流を、ぜひ俺にも教えていただきたい」


 マリウスも隣へ並ぶ。


「俺もだべ! 短剣にも活かせる体術を学びたいべさ!」


 ロウエン爺は2人の身体つきを眺め、嬉しそうに髭を撫でた。


「若様が戻られた以上、明日から毎日、午前中は鍛練の時間にございます。その折、お二人もご一緒なさればよろしいでしょう」


「ありがとうございます!」


 ジークとマリウスが、そろって頭を下げた。


 ニルくんは、期待外れだという顔で2人を見る。


「なんだ。友達っていっても、結局は鍛練仲間なんだね。若様らしいや」


「うるさいよ!」


 俺が睨んでも、ニルくんは楽しそうに笑うだけだった。


 もう反論する気力も残っていない。


 その時、エルナが俺の服の裾を引いた。


「セイン……」


 振り返ると、エルナは母さんが消えていった廊下を見つめていた。


「今の人が……本物のクレア様なん?」


「本物って……母さんなら、そうだけど」


 エルナは青ざめた顔で俺を見上げる。


「うち……《氷槍》のクレア様を目の前にして、一言も挨拶できへんかった……」


 どうやらエルナにとっては、ここからが本番らしい。

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