↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第3章 共に生き残る力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/58

第43話 武器実技試験

 アイリスは俺たちと一緒に弓の方を見ていたが、早く自分の試験を終わらせたいのか、さっさと剣術の列へ並んでしまった。


 俺は隣にいるジークへ尋ねる。


「さっき矢を射っていたヤツ、知ってるか?」


「ああ。あいつはマリウス・クレイン。クレイン辺境伯の三男らしい。入試の実技で5位だったヤツだな」


 あー、言われてみれば、うっすら名前を覚えている。


 弓の腕だけじゃない。


 立っている姿に隙がなく、周囲を見る目も鋭い。身のこなしだけで、かなり鍛えているのが分かる。


 弓の実技を終えたマリウスは、腰に差した2本の短剣型の木剣を確かめ、そのままアイリスの後ろへ並んだ。


 これで、アイリスとマリウスの立ち合いが決まった。


 入試実技2位と5位。


 これは見逃せない。


 列の進み具合を眺めていると、思ったより早く順番が回ってきそうだった。


 エルナが俺の顔を覗き込む。


「セインは並ばへんの?」


「あっ……みんなの立ち合いに見入っていた。俺も並んでくる」


「うん。頑張ってや」


 エルナに笑顔で送り出され、俺も列の最後尾へ向かった。


 その途中で、アイリスの名前が呼ばれる。


 最初の相手は槍使いだ。


 アイリスが下座、相手が上座へ入る。


「両者、構えろ。始め!!」


 ザック先生の掛け声と同時に、アイリスが地面を蹴った。


 一気に低くなった姿勢へ、槍の穂先が迫る。


 突く、突く、また突く。


 アイリスは最初の突きを首を傾けるだけでかわし、次を木剣で受け流す。3度目の穂先が胸元へ伸びた瞬間、横へかわしながら跳んだ。


 相手が顔を上げる。


 アイリスは空中で身体をひねり、横から木剣を振り抜いた。


 バシンッ!!


「ぐあっ……!!」


 木剣が肩へまともに入り、相手が槍を落として膝をつく。


 あちゃー、モロに入った。


 あれ、痛いんだよね……。


 アイリスは着地すると、相手の前へ木剣を突きつけた。


「早く立ちなさいよ。まだ時間が残ってるわ。私は実力をほとんど出せていないの」


 鬼か……!!


 お前は鬼なのか!!


 それまで周囲でざわついていた生徒たちが、アイリスの一撃と言葉で静まり返った。


 青ざめている生徒までいる。


 ほら、周りもドン引きじゃないか!


 相手は肩を押さえながら立ち上がり、苦痛に顔を歪めて槍を構え直した。


「続行可能だな? 始め!!」


 ザック先生の声がかかる。


 アイリスが踏み込む。


 上段から振り下ろされた木剣を、相手は槍の柄で受け止めた。


 次の瞬間、アイリスの前蹴りが鳩尾へ突き刺さる。


「うぐっ……!!」


 相手の身体がくの字に折れ、その場へ崩れ落ちた。


「そこまでだ! これ以上の続行は危険と判断する!」


 アイリスは物足りなさそうに息を吐き、上座を離れた。


「ハア……」


 俺はリリアとエルナを見る。


 2人とも目を輝かせていたが、リリアだけはすぐに笑顔を引っ込め、真剣な顔でアイリスの背中を見つめた。


 アイリスの苛立ちに気づいたのかもしれない。


 そのアイリスの前へ、マリウスが入る。


 腰から2本の短い木剣を抜きながら、感心したように言った。


「アイリス・エーレンフェルトか。ずいぶん野性的な戦い方をするべ」


 アイリスの足が止まった。


「ああ!?」


 マリウスは慌てて片手を横に振る。


「いやいや、悪い意味じゃないべ。褒めてるんだ」


「あんたの褒め方、最悪なのよ。女の子に言う言葉じゃないわよね?」


 マリウスはアイリスを上から下まで見た。


「え? その強さで女の子としてなんか見れないべ」


 おい。


 それ以上はいけない。


 アイリスの目付きが変わった。


「十分分かったわ。要するに、喧嘩を売っているのね。あんたの希望どおり、ブチ殺してあげるわ!」


 マリウス、完璧に怒らせたな……。


 これは寸止めしてくれなくなるぞ。


 アイリスが剣を持ったときのお前の気持ちは分かるが、デリカシーは大切だよね。


 マリウスは2本の木剣を身体の前へ構えた。


 さっきまでの軽い表情が消える。


 アイリスも腰を落とし、木剣の切っ先をマリウスへ向ける。


 2人の間の空気が、一瞬で張り詰めた。


「両者、構えろ。始め!!」


 アイリスが真っすぐに突っ込んだ。


 横薙ぎの木剣を、マリウスが右手の短剣で受ける。


 ガンッ!!


 乾いた音が響き、マリウスの腕が押し込まれた。


 だが、止まらない。


 アイリスがその勢いのまま身体を回し、下段から斬り上げる。


 マリウスは左手の短剣を添え、木剣の軌道を外へ滑らせた。


 同時に、右手の短剣がアイリスの脇腹へ伸びる。


 速い!


 アイリスは上半身を反らして刃をかわし、マリウスの手首へ蹴りを放った。


 マリウスが腕を引く。


 蹴りが空を切り、2人は同時に距離を取った。


 アイリスの連撃を初見で受けただけじゃない。


 あの一瞬で反撃までした。


「いやいや……噂には聞いていたけど、実際に受けると噂以上だべ」


 マリウスは軽口を叩いているが、足運びは乱れていない。


 アイリスが再び距離を詰める。


 木剣が上から、横から、下から襲いかかった。


 カンッ、カンッ、カカカカッ!!


 アイリスの木剣が動くより先に、マリウスの足がわずかに動いていた。


 剣だけを見ているんじゃない。


 肩や腰の動きから、次の攻撃を読んでいる。


 アイリスの木剣が頬の横を抜ける。


 マリウスは半歩だけ下がってかわし、そのまま短剣を突き出した。


 アイリスが首をひねる。


 切っ先が髪を揺らした。


 もう片方の短剣が、アイリスの胴へ迫る。


 アイリスは木剣の柄で手首を弾き、その場で身体を回転させた。


 後ろ回し蹴りがマリウスの顔へ飛ぶ。


 マリウスは頭を下げてかわした。


 だが、アイリスは蹴りの勢いを殺さない。


 着地と同時に地面へ手をつき、マリウスの足元を払った。


「うおっ!?」


 マリウスは後方へ跳び、空中で一回転して着地する。


 周囲の生徒たちから、どよめきが上がった。


 こいつ、目が良い。


 それに、距離の取り方がうまい。


 逃げているんじゃない。


 アイリスの攻撃が届くギリギリの位置を見切り、その外側へ抜け続けている。


「受けてばかりいないで、攻撃してきなさいよ!!」


「さっきからしてるべ! 当たらねえだけだ!」


「だったら当ててみなさい!!ハアアーー!!」


 アイリスは気合いを入れて地面を蹴った。


 正面から木剣を振り下ろす。


 マリウスが短剣を交差させて受けた瞬間、アイリスの姿勢がさらに沈んだ。


 そのまま、空中で身体を縦に一回転させ、踵を振り下ろす。


「なっ!?」


 踵が交差した2本の短剣へ叩きつけられる。


 バギッ!!


 両方の木剣で受け止めたが、衝撃に耐えきれず、マリウスは背中から地面へ倒れた。


 アイリスは着地と同時に踏み込み、マリウスの喉元へ木剣を突きつける。


「そこまで!!」


 ザック先生の声が響いた。


 静まり返っていた周囲から、遅れて大きなどよめきが上がる。


 マリウスは地面に倒れたまま、アイリスに言った。


「あの体勢で一回転してかかと落としとか……。そんなの分かるわけねえべ」


 アイリスが鼻を鳴らす。


「フン! 私を野性的なんて言うからよ!」


「だから、褒めたんだべ……今もかなり野性的な動きだべ」


「どこが褒め言葉なのよ!!」


 ジークは無言でマリウスを見ていた。


 目だけが妙に輝いている。


 まずい。


 強い相手を見つけたときの目だ。


 激しい立ち合いだったため、5分間の休憩が設けられた。


 ザック先生がマリウスの腕や背中を確認したが、大きな怪我はないようだ。


 マリウスは上座へ移動すると、木剣を何度か振って身体の感触を確かめている。


 アイリスはリリアとエルナのところへ戻った。


 2人から興奮した様子で褒められているようだが、望んでいる言葉をもらえないらしく、複雑な表情をしていた。


 アイリスは実に分かりやすい。


 あいつが常に求めているのは、「かわいい」という言葉だ。


 だが、軽業師が真っ青になるような体術で相手を倒したら、見ている方は爽快感があるし、男女関係なくカッコいいと思う。


 休憩後、マリウスは次の相手と立ち合った。


 相手の剣が届く直前に半歩だけ外へ抜け、懐へ潜り込む。


 2本の短剣が、首元と脇腹で同時に止まった。


 相手は何が起きたのか分からない顔で固まっている。


 やはり強い。


 アイリスが異常なだけで、マリウスも間違いなく学年上位だ。


 いよいよ次は俺の番だ。


 相手は普通の剣か……。


 俺は下座へ入った。


「両者、構えろ。始め!!」


 まずは相手の動きを見よう。


 俺は速度を抑え、木剣を袈裟斬り気味に振り下ろした。


 相手が木剣で受け止める。


 その瞬間、身体が勝手に次の動きへ入った。


 ロウエン流の前蹴り。


 あっ、やべっ!


 俺の足が相手の鳩尾へ突き刺さる。


「うぐっ……!!」


 相手は息を吐き出し、その場へ崩れ落ちた。


「そこまでだ! これ以上の続行は危険と判断する!」


 俺は上座へ移動しながら、倒れた相手を振り返った。


 これはマズい。


 さっきは、実力を出せないくらいで苛立つアイリスを鬼かと思った。


 でも、自分の良さを何も見せられないまま終わると、確かに焦る。


 アイリス、さっきは鬼だと思ってごめん。


 次の相手も剣か……。


 よし。


 今度は自分から攻めず、相手の攻撃を受けてから反撃しよう。


「両者、構えろ。始め!!」


 俺は木剣を構え、相手の動きを待つ。


 相手も構えたまま動かない。


 …………。


 いや、来ないのかよ!!


 どんどん来いよ!


 やる気あるのかよ!


 しばらく待っても相手は動かなかった。


 仕方なく、俺から距離を詰める。


 今度こそ倒さないよう、分かりやすく右から木剣を振った。


 相手も反応し、慌てて木剣を構える。


 ボゴッ!!


「うがっ……!!」


 相手の木剣が弾かれ、俺の一撃が肩へ入った。


 相手は痛みに呻き、その場へうずくまる。


 いや、ちゃんと受けて!?


 剣をちゃんと握って受ける、基本だよね!?


 木剣を軽く握ってフラフラさせているから、相手の剣の威力を殺せないんだろ!?


 これは、いよいよヤバい。


 あー、早く立てって言いたい。


 言葉が喉まで出かかってる……。


 だが、俺は言わん!!


 周りが引くから!!


 今までアイリスやジークとばかり立ち合ってきたせいで、同じ学年の生徒とここまで差があるとは思っていなかった。


 相手がようやく立ち上がり、木剣を構え直す。


「続行可能だな? 始め!!」


 俺は再び相手の攻撃を待った。


 相手は動かない。


 俺も動けない。


 また倒してしまえば、今度こそ何も見せられないまま終わる。


 そのまま時間だけが過ぎていく。


 ピーッ!!


 笛が鳴った。


「そこまで!」


「え?」


 嘘だろ!?


 俺は呆然としたまま上座を離れた。


 結局、俺が振った剣は最初の1回だけだ。


 残りの時間、相手はほとんど構えていただけじゃないか!


 これ、俺より相手の方が評価やばくないか?


 リリアとエルナが駆け寄ってくる。


 2人とも興奮しているようだった。


「セイン、強いな! ほとんど瞬殺やん!」


「セインの立ち合いも、うっとりするほど尊かったです」


「いや、俺は何もできなかったんだけど……」


 ジークも俺の隣へ来た。


「セイン、俺もお前と同じような感じで終わった。自分の良さを少しも出せないと焦るよな?」


「ああ。焦りを通り越して呆然だ。逆に俺が一方的にやられた気分だよ」


 アイリスが笑顔で頷く。


「あー、分かる。私はイライラしたけどね」


「アイリスはマリウスと立ち合って、自分の良さを全部出していたじゃないか」


 マリウスの名前を聞いた途端、アイリスが顔をしかめた。


「フン! あの田舎者の話は出さないで!」


 少し離れた場所で、マリウスがこちらを振り返る。


「聞こえてるべ!」


「うるさい!!」


 そんなやり取りをしているうちに、武器実技試験は終わった。


 いよいよ明日は結果発表だ。


 Sクラスは、父さんも母さんも在籍していたクラス。


 入ることができれば、課外活動を中心とした実戦的な授業を受けられる。普通のクラスとは、そもそもの教育方針が違うらしい。


 Sクラスに入らない理由はない。


 筆記と魔法は、今の俺にできる限りのことをした。


 だが、剣術は相手を圧倒しただけで、俺が何を評価されたのか分からない。


 勝てばいい試験ではない。


 今さら考えても、結果は変わらないけど……。


 頼む。


 Sクラスに入っていますように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。