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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第3章 共に生き残る力

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第40話 アイリス激怒

 午前の授業が終わると、俺とアイリス、リリア、ジーク、エルナの5人で食堂に集まり、昼飯を一緒に食べることが習慣になっていた。


 その日も俺とアイリスが食堂へ入ると、食器の触れ合う音や生徒たちの話し声が耳に飛び込んできた。


 いつも通りリリアを探していると、窓際の席にいたリリアが3人の先輩たちに囲まれているのが見えた。


「君、かわいいよね。1人ならさ、俺たちと飯を食べようよ!」


 そう言いながら、先輩の1人がリリアの手を掴んだ。


 リリアは掴まれた手を引こうとしながら、はっきりと拒絶する。


「いえ、結構です。私は1人ではありません。やめてください! 離してください!」


 俺はすぐにリリアのところへ向かおうとした。


 だが、俺が足を踏み出した瞬間、湯気の立つスープを載せたトレーを持った生徒たちが目の前を横切った。


「すみません、通して――」


 無理に押し退ければ、熱いスープを誰かにかけてしまう。


 俺が人の流れに遮られている間に、隙間をすり抜けたアイリスが一足先にリリアのもとへ辿り着いた。


 アイリスは先輩たちを押し退け、リリアとの間に割って入る。


「邪魔よ!! リリアの手を離しなさい!! 嫌がっているのが分からないの!? 気持ち悪い!!」


 アイリスの怒鳴り声が響き、周囲の話し声が急に小さくなった。


 先輩はリリアの手を離すと、今度はアイリスの肩へ馴れ馴れしく腕を回した。


「生意気な口を利くけど、こっちもかわいいな! 俺たちと一緒に来いよ。楽しませてやるからさ!」


「気持ち悪いから触らないで!!」


 肩に回された腕を振り払おうとしたアイリスの肘が、先輩の頬をかすめた。


 リリアは赤くなった手首を押さえながら、アイリスを心配そうに見つめている。


 アイリスの肘がかすめた先輩の顔が、怒りで歪んだ。


「この野郎!! 人が親切に話しかけてやったのに、調子に乗りやがって!! 痛い目に遭いたいようだな!!」


 先輩がアイリスの顔へ拳を振り上げた。


 その瞬間、食堂の音が止まった。


 俺は人の流れから抜け出し、アイリスのもとへ駆ける。


「アイリス!!」


 しかし、間に合わない。


 先輩の拳が振り抜かれる寸前、アイリスは顔をわずかに傾けて紙一重で避けた。


 そのまま身体を沈め、先輩の顎を狙って拳を思いきり振り抜く。


 バキッ!!


 先輩の頭が跳ね上がった。


 一瞬意識が遠のいたのか、先輩の身体が大きく揺れる。


 それでも倒れずに踏みとどまった先輩の顔面へ、アイリスはさらに拳を叩き込んだ。


「アイリス、もうやめてください!」


 リリアの声も、今のアイリスには届いていない。


 バキッ!! ドフッ!! ベキッ!!


 何度も顔面を殴られ、先輩の身体がふらついた。


 最後にアイリスが腰を回し、十八番の上段回し蹴りを先輩の頭部へ叩き込む。


 ドガッ!!


 先輩は白目を剥き、そのまま食堂の床へ倒れた。


 まずい。


 アイリスが完全にブチギレている。


 残った先輩2人が逆上し、アイリスへ殴りかかろうとしたところで、ようやく俺が間に入った。


 俺は先輩たちへ背を向け、アイリスの身体を正面から抱き締めるように押さえ込む。


「アイリス!! もうやめろ!! これ以上はやりすぎだ!!」


「離して、セイン!! こいつらがリリアに――」


「分かってる!! でも、もう十分だ!!」


 俺はアイリスを抱き締めたまま、背後の先輩たちへ叫んだ。


「先輩方もやめてください!! もういいでしょう!?」


「良くねえよ!! 1年のくせに生意気なんだよ!!」


「どけ!! 邪魔なんだよ!!」


 背後で靴底が床を擦る音がした。


 振り向こうとしたが、俺はアイリスを押さえるために両腕を回したままだ。


 ここで腕を緩めれば、アイリスが再び先輩たちへ飛びかかる。


 そう迷った一瞬、先輩の蹴りが背中へ食い込んだ。


 ドフッ!!


「うっ!!」


 肺の中から空気が押し出され、身体が前へよろめく。


 さらにもう1人の蹴りが、肩甲骨の辺りへ叩き込まれた。


 ドゴッ!!


「ぐっ!!」


「セイン!」


 リリアが息を呑んだ。


 蹴られた衝撃で腕が緩んだ瞬間、アイリスが俺の腕から無理やり抜け出した。


 俺が振り返るとアイリスの顔は、さっきまでとは比べものにならないほどの怒りが浮かんでいる。


「セインを蹴ったわね……」


「アイリス、待て!!」


「あんたたち、絶対に許さない!! ハアアーー!!」


 アイリスは先輩2人へ飛びかかった。


 1人を右足の前蹴りでのけぞらせ、そのまま左足で頭部を狙う。


 先輩が両腕を上げて蹴りを受け止めた。


 だが、アイリスは身体を回転させ、さらに跳び上がる。


 剣術の鍛練でも何度も見てきた、アイリスお得意の空中後ろ回し蹴り――いわゆるソバットだ。


 アイリスの右足が、先輩の防御ごと頭部を打ち抜いた。


 ドガッ!!


 先輩は激しく床へ叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


 残ったもう1人へ、アイリスが一気に間合いを詰める。


 先輩が拳を振るうより早く、アイリスの右足が弧を描いた。


 蹴りが速すぎて見切れなかったのか、先輩は防御することもできない。


 上段回し蹴りが側頭部へ直撃する。


 バキッ!!


 最後の先輩も意識を失い、崩れるように床へ倒れた。


 食堂が静まり返った。


 誰かが落としたスプーンが床を跳ね、乾いた音を立てる。


 3人の先輩が倒れ、その中心でアイリスが肩を上下させていた。


 リリアは掴まれた手首を胸元に抱えたまま、床に倒れた先輩たちを見て青ざめている。


 やがて、どこからともなく拍手が鳴った。


 パチパチパチパチ!!


 それをきっかけに、一瞬の静寂を吹き飛ばすような歓声が食堂中から湧き起こる。


「うおおおーー!! つええーー!! あのかわいい子は1年か!?」


「1年の女の子が3年Aクラスの3人をのしたぞ!!」


「キャー!! カッコ良すぎる!! あの子、誰!?」


 そこへ、騒ぎを聞きつけたエルナとジークが駆け込んできた。


 床に伸びている3人と、中心に立つアイリスを見て、エルナが額に手を当てる。


「あちゃー!! アイリス、やってもうたな! 3人とも伸びとるやん! まあ、周りの話を聞く限り、自業自得みたいやけど、ちょっと強すぎへんか!?」


 ジークは倒れている先輩たちを見たあと、俺の背中へ目を向けた。


「セイン、お前もやられたのか?」


「ああ……止めようとしたら、後ろから蹴られた」


 すぐに数人の先生たちが食堂へ入ってきた。


 その中には、剣術を教えているザック先生もいる。


「道を空けろ!!」


 ザック先生の一喝で、生徒たちが左右へ分かれた。


 ザック先生は倒れている先輩たちの様子を確かめ、別の先生へ指示を出す。


「3人とも気を失っている。すぐに治癒室へ運べ!」


 それから、神妙な面持ちで俯いているアイリスを見た。


「ずいぶん派手にやったな。アイリス、お前が3人とも倒したのか?」


「……はい」


「詳しい事情は、ここにいた生徒全員から聞く。セイン、お前も背中を診てもらえ。リリアは掴まれた手首を治癒士に見せろ」


 翌日の放課後、俺とアイリス、リリアは指導室へ呼び出された。


 食堂にいた生徒たちへの聞き取りは、すでに終わっているようだった。


 ザック先生は机の上に置かれた報告書へ目を落としてから、俺たちを見た。


「先に、3年生3人の処分を伝える。リリアに無理やり同行を迫り、手首を掴んだこと。アイリスの身体に勝手に触れたこと。先に拳を振るい、止めに入ったセインを背後から蹴ったこと。いずれも複数の生徒が証言している」


 先生の声が低くなる。


「さらに、あの3人は以前にも下級生に対して同様の行為を繰り返し、何度も注意を受けていた。今回の件をもって、3人全員を退学処分とする」


 リリアが小さく息を吐いた。


 次に先生の視線が、アイリスへ向けられる。


「アイリス。お前がリリアを助けようとしたこと、先に攻撃を受けたこと、残る2人がセインを蹴ったことは認める。だが、最初の1人が抵抗できない状態になっても、頭部への攻撃を続けた。これは身を守るために必要な範囲を明らかに超えている」


「……はい」


「よって、アイリス・エーレンフェルトには2週間の寮内謹慎を命じる」


 アイリスは、スカートの上で拳を強く握った。


「なお、謹慎が明けるのはクラス替え試験の1か月前だ。謹慎期間中は、授業だけでなく試験への参加も認められない。問題を起こして処分が延びれば、クラス替え試験は欠席扱いになる」


 アイリスが顔を上げた。


「欠席したら、どうなるんですか?」


「学園の規則により、次の試験まで暫定的にDクラスへ振り分けられる」


「Dクラス……」


「お前がリリアを助けたことを咎めているわけではない。だが、力を持つ者ほど、その力を止める術も身につけなければならない。次は自分で止まれるようになれ!」


「……分かりました」


 クラス替え試験やDクラスが何なのか、俺にはまだよく分からなかった。


 それでも、アイリスが問題を起こせば、何か大切な機会を失うことだけは理解できた。


 その後、アイリスは2週間の寮内謹慎となった。


 寮の中であれば移動を許されていたため、俺たちが授業を受けている間は、寮の訓練場でひたすら身体を動かしていたらしい。


 幸い新たな問題は起こらず、謹慎が明ける前日を迎えた。


 その日の放課後、俺とアイリス、リリア、ジーク、エルナの5人は寮の談話室に集まっていた。


 俺はアイリスへ笑いかける。


「明日から、また普通に登校できるようになるな。処分も延びなかったし、良かったよ」


 アイリスはふて腐れたように頬を膨らませた。


「そもそも、何で女の子である私が暴れてるのよ! セインが暴れなさいよ! 入学式の時に、ちゃんと私とリリアを守るって言ったわよね!?」


「ま、まあ、そうだけど……俺はそう簡単に暴れないよ」


「セインの意気地なし!!」


 リリアが口元を押さえながら笑った。


「アイリス、セインはちゃんとアイリスを守っていましたよ。後ろから蹴られても、アイリスを止めようとしていましたから。それに、私もアイリスに守ってもらえて嬉しかったです」


「セインは私を抱き締めて、後ろから蹴られていただけじゃない!! 男のくせに情けない!」


「蹴られていたのは、アイリスを押さえていたからだよ!」


 エルナが楽しそうに笑う。


「まあまあ! クラス替え試験の前に謹慎が明けて良かったやん! 何か問題起こして、試験を受けれんかったら、アイリスは次の試験までDクラスやったんやで?」


 ジークも真面目な顔で頷いた。


「そうだな。試験を欠席した者は、どれだけ実力があっても一律でDクラスに振り分けられる。危ないところだった」


 俺は以前から気になっていた言葉を思い出し、首を傾げた。


「そういえば、あの時から気になってたんだけど……クラス替え試験って何なんだ? SクラスとかDクラスとか、どんなクラスがあるの?」


 俺の言葉に、全員が目を見開いた。


「セイン! そんなことも知らんの!? えらい学年1位がおったな!」


 エルナが驚きの声を上げると、ジークが呆れたように息を吐いた。


「クラス替え試験は、6月と11月の年2回行われる試験だ。その結果で、次の試験まで所属するクラスが決まる。入試と同じく、実技と筆記の総合点で学年順位が出されるんだ」


「なるほど。続けてくれ」


「学年上位5人がSクラスで、6位から25位までがAクラス。それ以下も順位に応じて振り分けられて、1年生はB、C、Dクラスまである」


「上位5人だけ……」


「ああ。Sクラスに入れるのは、各学年でたった5人だ」


 ジークは一旦言葉を切り、俺の顔を見ながら続けた。


「ちなみに、俺の父上とアノルドさん、クレアさん、ギルベルトさんは同級生で、6年間ずっとSクラスだったらしいぞ」


 俺は驚いて身を乗り出した。


「えっ!? そうなの!? フィオナさんは!?」


 アイリスが少し残念そうに答える。


「母上は6年間ずっとAクラスだったらしいわ。Sクラスの5人は別格すぎて、どうしても入れなかったと言っていたわよ」


 俺の胸が一気に熱くなった。


 そうなんだ。


 父さんと母さんもSクラス。


 6年間ずっと、学年上位5人に入り続けていたのか。


 なら、俺も必ずSクラスに入りたい。


 父さんと母さんが立っていた場所に、自分の力で辿り着きたい。


 学園長は、クラス替え試験が実力者への登竜門だと言っていた。


 まずは、この最初の登竜門を必ず突破してやる!

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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