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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第3章 共に生き残る力

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第38話 氷槍の息子

「あんたが入試の実技と筆記で1位のセイン・グランベルやな!」


 俺は声のする方を見た。


 そこにいたのは、目元がキリッとしている勝ち気そうな女子だった。


「うちはエルナ・レイフォルトというもんや。レイフォルト伯爵家の娘や。以後よろしゅう!」


 エルナ・レイフォルト。


 その名前を聞いて、俺は入試の結果を思い出した。


「あっ! 入試の実技3位の人だよね?」


「そうや! なんや、総合1位のセイン君に名前を覚えてもらえてたなんて、光栄やな」


 エルナはそう言って、満面の笑みになった。


 アイリスは、かなり殺気立った目をして言った。


「ほう……あんたが実技3位ね……」


 アイリスのやつ、何で怒ってるんだ?


 リリアがアイリスの袖をそっと引く。


「アイリス、ダメですよ。エルナさんはさっき私と一緒の授業だったので、魔法士の人ですよ」


「そうや! うちは魔法をこよなく愛している火属性の魔法士や」


 リリアは続ける。


「魔法で実技3位なら、実質、この学年の魔法士ではトップなんですね」


「そない言われたら、えらい照れるで!」


 アイリスの目から、さっきまでの殺気が少しだけ引いた。


「そう……魔法士なんだ」


 俺は笑顔でエルナに言う。


「魔法でトップか……良い目標ができたよ」


 エルナは俺の隣の空いた椅子に手をかけた。


「ここ、座ってもええか?」


「ああ、いいよ」


 椅子の脚が床を擦り、エルナは俺の隣に腰を下ろした。


 向かいに座るアイリスの目が、また少しだけ細くなった。


 エルナは身を乗り出して、俺に聞いてきた。


「いやいや……セイン君は氷槍のクレア様の息子なんやろ?」


「君づけはやめてよ。呼び捨てでいいよ。母さんを知っているの?」


「わかった。ならセインと呼ばせてもらうで。氷槍のクレア様は知っているも何も、魔法系の貴族で知らんもんはおらんよ」


「やっぱりそんな有名なの?」


「有名も何も伝説や。うちはおとぎ話代わりに聞いていたくらいやで」


 俺もつられるように身を乗り出した。


「おとぎ話!? 何か逸話を知っていたら教えてほしい」


「ん? セインは知らんの?」


 俺は困った顔をした。


「そうなんだよね。俺の両親は全く教えてくれなかったから、母さんが魔法士だということも5歳まで知らなかったんだよ」


 エルナの目が大きく見開かれた。


「そんなことあるん!? 大魔法士やで!? 灯台もと暗しとはまさにこのことやな」


 ジークが感心したように呟く。


「グランベル夫人は、そこまで有名な魔法士だったのか」


 エルナが当然のように頷いた。


「騎士の家やと知らんこともあるやろな。でも魔法士の家なら、クレア様は別格やで」


 ジークは真面目な顔で頷いていた。


 魔法士の家では常識。


 騎士の家では、そこまで知られていない。


 母さんの名前は、俺が思っていたよりも、魔法士の世界で大きいらしい。


 エルナは顎に手を当てて、少し考えてから言った。


「よし! じゃあ、クレア様の逸話を教えたる。クレア様の二つ名がついたのは、この学園で氷槍が何発も連続で撃てるようになったからなんや」


 エルナは続ける。


「一番有名な逸話は、同属性凍結事件やな! 同じ属性の魔法を扱う者には、その属性への耐性があるのは知っているやろ?」


 そういえば、アンドリューがそんなことを言っていた気がする。


「あ、ああ」


「その耐性を打ち破るには、相手を圧倒する魔力量と魔法制御が必要なんや。つまり、同じ属性の相手を凍らせた時点で、実力差は歴然っちゅうことや」


 エルナは目を輝かせながら続ける。


「クレア様はそれを、魔法士のエリートである王宮魔法士を相手にやってのけた。しかも、同じ水属性の相手を凍結させたんやで? 魔法士たちの間に激震が走って、一気にクレア様を有名にしたんやな」


 そうなんだ。


 全く知らなかった。


 だが、母さんならあり得る……。


 リリアが呟く。


「そんなにクレアさんって有名なんですね」


「せや! まあ逸話については、うちは話を少し盛ってるんやないかと思うてるけどな!」


 エルナはそう言って笑った。


 リリアは、エルナとアイリスを交互に見て、少しだけ楽しそうに微笑んでいた。


「これは……魔法への興味と、婚約者としての警戒が噛み合っていませんね」


「リリア? 何か言った?」


「いえ、何でもありません。とても興味深いなと思っただけです」


 リリア、それは何の興味なんだ?


◇◇◇◇


 アイリスはエルナの話を聞いていた。


 クレアさんってそんな有名な魔法士なんだ。


 私も知らなかったな。


 でも、近い。


 この子、セインと距離が近い。


 いきなりセインを呼び捨てなんだ。


 いくらセインが了承したところで、いきなり図々しいよね!


 でも、本当に魔法の話だけ?


 クレアさんの話だけかな?


 それとも氷槍のクレアの息子であるセインに興味があるの?


 それって、セインのことが好きってことなんじゃないの?


 ああ、もうモヤモヤしてイライラする。


 とにかくこの子をセインに近づけさせたくない!


◇◇◇◇


 エルナは俺に疑問を次々にぶつけた。


「セインは水属性の魔法士なん?」


「ああ、そうだよ」


「氷槍は使えるん?」


「小さいし、威力もまだまだで母さんには遠く及ばないけど、一応使えるよ」


「クレア様に遠く及ばんのは当たり前やん。じゃあ、何で氷槍使えるのに剣術やってるん?」


「俺は魔法も使える剣士になりたいんだ」


 エルナは少し首を傾げた。


「うちには必要ないと思うんやけどな。魔法士は魔法を極めてなんぼやろ?」


「そうかもしれないけど、俺は前に出て戦いたいんだ。守られながら撃つだけじゃなくて、自分でも動ける魔法士になりたい」


「動ける魔法士……」


 エルナは少しだけ目を細めた。


 笑っているのに、目は真剣だった。


「なるほどな。クレア様の息子が、剣を持って前に出るんか。なんか、思ってたより変わってるな」


「よく言われるよ」


「褒めてるんやで?」


「今の褒めてたの!?」


 エルナは楽しそうに笑った。


「明日の魔法制御の授業は選択したんやろ?」


「ああ、したよ」


「なら、楽しみやな。剣術1位で筆記1位。しかもクレア様の息子。そんなセインが、魔法ではどこまでできるのか……うちは興味津々や」


 アイリスがぼそっと言った。


「エルナ、ずいぶん楽しそうね」


 エルナが悪気なく肯定する。


「そりゃ、楽しいやろ!? 憧れの氷槍のクレア様の息子やで!? どんな魔法使うか、気にならん方がおかしいやん!」


 ジークが真面目な顔で頷いた。


「確かに、俺も少し気になるな。セインの剣は見たが、魔法を本格的に見たわけではない」


 アイリスの眉がぴくりと動いた。


 ジーク、多分そこは頷かない方がいい。


 リリアは、そっと口元に手を当てていた。


「エルナさんは魔法への興味。アイリスは婚約者としての警戒。ジークさんは純粋な実力確認。セインは何も分かっていない……これは、なかなか混線していますね」


「リリア、何を分析してるの?」


「いえ、食堂は情報が多いなと思っただけです」


 絶対、食堂の話じゃないだろ。


◇◇◇◇


 それでも、ここで怒ったら負けな気がする。


 何に負けるのかは分からないけど。


 だから、私は落ち着いた顔を作って言った。


「ふーん。魔法制御の授業ね。私も見てるから」


 エルナが明るく笑った。


「おっ、アイリスも見るんか? セインの魔法、楽しみやな!」


 楽しみやな、じゃないわよ!


 セインは私の婚約者なんだから!


◇◇◇◇


 剣術なら、今の俺が1学年の上位にいる自覚はある。


 でも、魔法は違う。


 エルナ・レイフォルトは、魔法で実技3位に入った火属性の魔法士だ。


 魔法士の名門で育ち、母さんの逸話をおとぎ話代わりに聞いてきたような相手。


 その目に、俺の魔法はどう映るのだろうか。


 母さんに教わってきた。


 氷槍も一応使える。


 でも、エルナの前で自信を持って見せられるほど完成しているかと言われれば、正直まだ分からない。


 エルナは最後に、楽しそうな顔で俺を見た。


「セイン・グランベル。明日の魔法制御の授業、楽しみにしとるで」


「ああ……こっちも楽しみにしてるよ」


 そう答えたものの、明日の魔法制御の授業が、急に試される場のように思えてきた。

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