第37話 一学年の頂点
俺とアイリスは木剣を構えた。
ザック先生のかけ声と同時に、アイリスが素早く踏み込んでくる。
横薙ぎに木剣を振るった。
俺は木剣で受けた。
いやいやいや……久しぶりの木剣だからって、速すぎるでしょ!?
アイリスが手応えを掴んだのか、笑みを浮かべながら回転し始め、連撃に入る。
カン、カン、カン、カカカカカッ!!
「くぅ……!!」
ヤバいヤバいヤバい!!
ちょっ! 待てっ!!
速すぎ!!
アイリスは剣の速さと連動して、身体の動きも速くなる。
剣だけでなく、鋭く速い蹴り技まで続けてくるから、手に負えない。
俺は丁寧に一つ一つの攻撃に対応する。
「アハハハハ!! セイン!! 久しぶりの木剣は快適だわ!!」
周りの生徒は口をあんぐり開けて、アイリスの速さに呆然としている。
ジークは眉間にシワを寄せて、観察するような眼差しで見ていた。
くっ!!
アイリスのやつ、調子に乗ってるな!!
「ああ……そうだな。じゃあ俺の番だ!!」
俺は、アイリスが俺の顎を狙って放ってきた蹴りを紙一重で避けながら、アイリスの剣が来る前に、片足で立っているアイリスへ足払いを仕掛ける。
アイリスはそのまま跳び、身体を回転させながら後ろ回し蹴りを放ってきた。
漫画かよ!!
俺はその足を左手で受けて、そのままアイリスの腹に前蹴りを打つ。
アイリスは腕で受け止め、そのまま勢いに任せて後ろに跳び、間合いを取った。
そこを俺が踏み込み、横薙ぎに剣を振るった。
アイリスは木剣で受けると、身を翻しながら横薙ぎに木剣を振るった。
俺は紙一重で避けながら、上から下に剣を振り下ろす。
アイリスは避ける。
さらに俺は切り返して、下から斜め上に剣を振るった。
アイリスは後方宙返りで避ける。
「そこまでだ!!」
ザック先生のかけ声で、俺たちは止まった。
ザック先生は呆れたように頭をかいた。
「いやいや……本当にお前ら1年かよ。今すぐ冒険者になれそうな実戦的な動きだな」
ザック先生は続ける。
「お前ら2人は、異常に目が良いな。普通、紙一重では避けられねえからな」
それから、ザック先生はアイリスを見る。
「まずはアイリス。一発一発は軽そうだが、身体の動きも剣速もあまりに速すぎる。敵の体勢を崩して止めを刺す戦い方だ。だが、自分の体勢を崩しすぎて足元を掬われねえように気を付けろ」
アイリスは少し不満そうだったが、素直に頷いた。
「はい」
ザック先生は次に俺を見た。
「それからセイン。堅実に受けてから相手の体勢を崩しにいく。もしくは、受けながら崩す。かなりいい線いっている。さすが実技1位といったところか。だが、もう少し自分からも仕掛けながら受けた方が、相手の体勢は崩しやすいぞ」
「はい」
なるほど。
受けるだけではなく、仕掛けながら受けるのか。
確かに、相手がこっちの攻撃を警戒していれば、攻撃の形も崩しやすい。
これは覚えておこう。
ザック先生は、周りの生徒たちに向かって声を張った。
「これが一学年の頂点だ。お前ら、唖然としている暇はねえぞ。この2人と普通の1年では、明確に差があることは自覚しろ。だが、真似しろって話じゃねえ。自分の得意なスタイルを磨けって話だ」
それからの授業は、各自ペアになって立ち合いをした。
ジークはアイリスの方に駆けていったが、アイリスは隣の男子とペアを組んだようだ。
「ジーク! 俺と一緒にやろう!」
「え!? あ、ああ」
アイリスとやりたいと顔に書いてあるな。
わかりやすいやつだ。
アイリスは、ペアを組んだ男子をボコボコにしているようだ。
初見でアイリスを相手にしたら、手も足も出ないか……南無。
剣術の授業が終わり、昼休みになった。
俺とアイリス、ジークは別の授業に行っていたリリアと合流して、食堂に向かった。
食堂はかなり混んでいるが、中が広いため、席に座れないほどではないようだ。
アイリスがみんなに言う。
「運動したからお腹すいたね。結構メニューはたくさんあるんだね」
ジークはアイリスに話しかける。
「アイリス――」
アイリスは即答する。
「だから嫌です」
「まだ、何も」
「『俺と立ち合ってくれ。一度でいいから頼む』って、剣術の授業の時からずっと顔に書いてるから。ちょっと引くわ」
「こ、心まで読めるようになったのか……」
ジーク、多分違うと思うぞ。
俺たちは各々メニューを注文して、席についた。
「おっ? 意外にうまいかも。寮の食事の方がうまいか……でも母さんの料理の方が余裕でうまいな」
リリアは笑う。
「フフフッ……セイン、ホームシックにかかってませんか? 大丈夫ですか?」
「まだ大丈夫かな……」
「まだなんですね。もしホームシックにかかったらすぐに治しますから言ってくださいね」
「そんなのも治せるんだ! すごいね!」
ん?
アイリスのやつ、さっきから黙ってどうしたんだ?
少し眉間にシワが寄っている。
怒ってる?
怒らせたのジーク?
さっきまで普通に話していたのに。
ジークは顔に書いてあるからいいか。
この時、俺はジーク以外の2人の考えていることがわからなかった。
◇◇◇◇
アイリスは、近くの席にいる女子生徒たちが、何度もセインを見ていることに気が付いた。
何で?
もしかして、リリアが入試前の受験勉強中に、セインは注目を集めるかもって話していたやつ!?
何で……?
成績?
入試で学年1位だから?
いや、違う……あの時は入試前だ。
何であの時、リリアはセインが注目を集めるかもって言ったのかしら……?
顔……?
確かにセインの顔は整っていると思うけど……。
セインはリリアと楽しそうに話している。
自分が注目を集めているなんて、絶対気付いていない顔だ。
お子ちゃまだからな……。
昔は鼻を垂らしながら木と木の間を行ったり来たりしていたからな……。
セインが女子からチラチラ見られようが、関係ないはずなのに!
すごく胸がモヤモヤする!!
何なの!?
◇◇◇◇
リリアはセインと話しながら、向かいに座るアイリスの様子を見ていた。
フフフッ!
アイリスったら、かわいすぎて今すぐ抱き締めてあげたいです。
自分に集まっている男子の視線には全く気付かず、セインを見ている女子ばかり気にしています。
セインもアイリスも顔がかなり良いですから、こうなることは予想していました。
私にも視線が来てますかね?
まあ、人がいたらいつものことなので、どうでもいいことです。
アイリス、大丈夫ですよ。
婚約者という立ち位置ほど、強いものはないですよ。
◇◇◇◇
ジークも黙々と食事しながら考えていた。
あっ!
あの男子生徒、アイリスとリリアを見つめすぎて柱にぶつかってる。
アホか……。
それにしても、アイリスはどうしたら俺と立ち合ってくれるんだ?
授業中は隣の男子に話しかけていたけど、俺が駆け寄ったのを見たからだよな。
俺は避けられてるのか?
何で?
なんか嫌なことをしたか?
ああ……もう、あのアイリスの動きを見たら立ち合いたくて、モヤモヤする。
◇◇◇◇
アイリスは、セインが女子の視線に気付いているのかだけが気になっていた。
9割方気付いていないとは思うけど、実は気付いていて、女子から注目されているのを楽しんでいるとか……?
あっ!
セインが他の女子を見た。
すぐに視線を外した。
まさか、やっぱり楽しんでいるのかしら……。
考えていたら、すごくイライラしてきた!!
セインの癖に!!
その時、他の女子生徒がセインに話しかけてきた。
「あんたが入試の実技と筆記で1位のセイン・グランベルやな!」
私は、今にも後ろからゴゴゴという効果音が聞こえてきそうなほど、ゆっくり振り返った。
話しかけてきた女子生徒は目元がキリッとしていて、勝ち気そうな雰囲気がある、どちらかというと綺麗系の女子だった。
たぶん今の私は、クレアさんがブチキレた時みたいな顔をしている。
ああ!?
あんた誰よ!!?
セインとどんな関係よ!!
気安くセインに話しかけてんじゃないよ!!




