第36話 入学式
翌日。
俺とアイリス、リリアは3人で学園に初登校した。
俺たちは、寮で配布され、寸法を合わせてもらった真新しい制服に身を包んでいる。
まだ生地が少し硬く、歩くたびに襟元が首へ触れる。
制服を着てみると、身が引き締まる思いだ。
アイリスはかわいすぎるだろ!
リリアも負けてないけど!
学園は、寮から歩いて10分ほどのところにある。
朝の通学路には、登校中の上級生たちの姿もあった。
見慣れない制服姿の俺たちを追い越しながら、何人かがこちらを振り返っていく。
強そうな人はいないかな?
強いかどうかは歩き方を見れば、大体わかるが……。
うーん……少なくとも、今見える範囲にはパッと目を引く人はいないようだ。
俺が周りをキョロキョロしながら歩いていると、アイリスはリリアの姿をまじまじと眺めていた。
「さすが、リリアね。制服姿、かわいすぎるわ。リリアのかわいさの破壊力は相当なものよ」
リリアは顔を真っ赤にしながら俯いた。
「アイリス、そんなこと面と向かって言われたら恥ずかしくなります。アイリスだって、かわいさの破壊力は相当ですよ。ほら、道行く上級生は、みんなアイリスを見ているじゃないですか」
「えっ! いや、リリアを見ているのよ。リリアは自分がかわいすぎるということを自覚しないと危ないわよ」
お前もな!!
みんなアイリスとリリアをチラチラ見ているんだよ!!
アイリスは何でそんな他人事のように言えるんだよ。
寮にいる時も思ったが、アイリスとリリアが2人で並んで歩いていたら目立ちすぎるんだよな。
制服を着ていたら、なおさらだな。
まあ、アイリスの場合は気軽に声をかけた瞬間に、拳が飛んできそうではある。
アイリスと比べてリリアに攻撃手段はないから、何かあったら、守ってあげないといけないかもしれない。
「アイリスの言うとおりかもな。何かあったら、リリアは俺とアイリスで守ってやらないとな!」
俺が言った瞬間、アイリスが胸ぐらを掴み、顔を近づけて凄んできた。
「セイン、あんた何言ってるの? あんたは私とリリアを守るのよ!! 朝から舐めた口を聞くんじゃないわよ!!」
「あ、はい……そのとおりですね……ごめんなさい」
アイリスは掴んでいた胸ぐらを離し、埃を払うようにパンパンと手を叩いた。
「フン! 分かればいいのよ!!」
アイリスよ、お前は絶対守られる人間ではないだろ!!
負けん気は母さん以上だろ!?
守られる人間はノーモーションで胸ぐら掴まないから!!
「フフフッ! セインとアイリスは相変わらず仲が良くて羨ましいです」
リリアは口元を押さえて笑っていた。
正門をくぐった俺たちは、先生に案内され、大講堂へ向かった。
高い天井の下には椅子が隙間なく並べられ、100人の新入生が席を埋めている。
周りから聞こえる話し声や椅子を引く音が、広い講堂の中で重なっていた。
やがて舞台に学園長が登壇すると、それまでのざわめきが少しずつ静まっていく。
白髪で帽子を被り、見るからに魔法士のおじいちゃんという出で立ちだ。
そして、学園長の挨拶が始まった。
「ワシが王立学術学園の学園長、ローディス・グリムガルだ。以後、よろしく頼む。
新入生の諸君、入学おめでとう。
これから本学園で6年間、共に生活をするわけじゃが、諸君も噂で聞いておるかもしれんが、現在ここにいる100人全員が卒業できるわけではない。
いろいろな事情で学園を自ら去る者の他に、本学園の授業についていけないと判断した者にも、どんどん学園を去ってもらう仕組みになっておる」
講堂の空気が変わった。
どこかで小さく息を呑む音が聞こえ、さっきまで隣同士で話していた新入生たちも、黙って学園長を見つめている。
「ここにはいろいろな身分の者がおる。貴族もおれば、平民もおる。
だが、本学園にいる間は、身分の差など関係ないと思ってよい。
高位貴族だから優遇されることも、スラムにいたから蔑まれることも、本学園では許さん。
身分の差で相手を蔑む者も、本学園から去ってもらう。
6年後には、大体今の半分くらいになっておるじゃろうな。
まずは半年後のクラス決め試験が、最初の登竜門になっておる。
しっかりとついてくるように。
本学園は、1人でも多くの卒業生を輩出することを望んでおる。以上だ」
半年後のクラス決めか!
ん? クラス決めって、どんなクラスがあるんだ?
全く知らないぞ?
それでも、最初の登竜門と言われると、自然と背筋が伸びた。
どんな授業が待っているのかはわからないが、毎日しっかり頑張ろう。
入学式が終わり、俺たちは指定された教室へ向かった。
俺とアイリス、リリア、ジークは同じクラスだった。
教室には木製の机が整然と並び、窓から差し込む光が真新しい机の表面を照らしている。
このクラスには30数人いた。
クラス決め試験までは、この顔ぶれで過ごすわけだな。
それから各自、明日からの授業を選択することになった。
机の上に配られた授業一覧には、座学から実戦形式の授業まで、びっしりと名前が並んでいる。
毎日、いろいろな講義や実戦授業があるんだな……。
魔法の授業は手当たり次第取るか。
そうすると、明日受けられる剣術の授業はここだな。
俺が時間割に授業を書き込んでいると、アイリスとリリアが俺の時間割を覗き込んできた。
「ふーん……やっぱり剣術の授業を受けるとなったら、朝の1発目の授業しかないわよね」
「私、剣術はやりたくないけど、皆さんの剣術は見学したいんです。やっぱりダメでしょうか……」
「リリア、ダメだと思うわよ。木剣くらいは持たされると思うわ」
「えー……!? そんな……しょうがないから諦めます……」
明日から、いよいよ本格的な授業に入る。
書き込みで埋まった時間割を見ているだけで、胸が弾んだ。
前世の時も、学年の始めはこんな気持ちだったな。
翌日、1発目の剣術の授業が始まった。
授業は、学園に併設された訓練場で行われるようだ。
朝の空気が残る訓練場には、踏み固められた土の匂いが漂っている。
壁際には木剣がずらりと並び、集まった生徒たちが思い思いに手に取っていた。
参加している生徒は全部で30人くらい。
アイリスとジークもいる。
しばらくすると、大柄な男が木剣を肩に担ぎ、土を踏みしめながらやってきた。
太い腕と遠慮のない足取りを見るだけで、いかにも荒々しそうな先生だ。
「俺が剣術の授業を主に担当するザック・オルゲンだ。まあ、無理して覚えなくてもいいがな」
ザック先生は生徒たちをぐるりと見渡し、続けた。
「俺は、剣の腕を上げるには立ち合いが一番だと思っている。ここにいる者も、素振りだけで満足できないだろ? ここにはちょうど、入試の実技試験で学年1位と2位だった者がいるようだ」
そう言って、ザック先生はニヤリとする。
「お前らも学年1位と2位の実力を知りたいだろ? この学年の頂点なんだからな。セイン・グランベル、アイリス・エーレンフェルト、前に出てこい」
その瞬間、訓練場がざわついた。
生徒たちの視線が一斉に俺とアイリスへ集まり、俺たちが前へ出ると、自然に人の輪が左右へ開いていく。
「こいつらに、お前らの立ち合いを見せてやれ。俺も見たい。2人とも構えろ」
俺は木剣を軽く振りながら、感触を確かめる。
久しぶりに木剣を持ったけど、軽すぎる。
普段使っている鉄剣と違い、振っても手に重さが残らない。
これでは、速さと連撃を得意とするアイリスが有利じゃないか!!
アイリスも木剣をブンブン振り回し、感触を確かめていた。
そして、自分が有利だと思ったのか、いつもの可愛らしい顔から一転、剣を握る時の鋭い表情に変わり、ニヤリと笑った。
俺たちは木剣を構え、互いの目を見つめる。
周囲のざわめきが消えた。
静まり返った訓練場に、ザック先生の声が響いた。
「始め!!」




