第35話 2年前の約束
「ジーク、最初に言っておくが、俺が使うのは、騎士団で教えるような正統派の剣術ではない。一応、それだけは伝えておく」
ジークは真剣な表情で言った。
「そうか。じゃあ俺も言っておく。セインは2年前、俺の剣筋を見ていると思うが、今は盾術も鍛えて、別物になっている」
アイリスは興味なさげに眺め、リリアは目を輝かせていた。
リリアは身を悶えさせながら言った。
「ああ……男の子同士が2年前の約束を果たすなんて、供給過多です。なんて尊いのでしょう」
供給?
リリア、そんな言葉どこで覚えたんだ!?
アイリスも戸惑いながら、リリアを見る。
「リ、リリア? どうしたの?」
「アイリス、男の子の約束って王道すぎて眩しすぎです」
リリアはうっとりとした表情で話した。
「王道……? ま……まあ、リリアが楽しそうならいいよ」
リリア……。
フィオナさんの知り合いの闇魔法士に師事してから、斜め上の方向に成長したんだよな……。
ま、まあ俺もアイリスに同意だ。
俺とジークは向かい合って構えた。
ジークは自分で言ったとおり、片手剣と、ラウンドシールドというのだろうか、少し大きめの丸い盾を構えている。
なるほど。一筋縄ではいかなそうだ。
俺は様子を見るため、まず1本打ち込んだ。
ガキーン!
ジークの盾と俺の鍛練用の鉄剣がぶつかり、訓練場に甲高い音が響いた。
俺が下がるのと同時に、ジークが前へ1歩踏み込み、剣を振り下ろす。
俺は剣で受けた。
キンッ!!
うっ!
片手剣なのに重い!
さらにジークは間髪入れず、盾を突き出してきた。
盾が胸にぶつかる瞬間、俺は衝撃を逃がすように後ろへ軽く跳んだ。靴底が地面を滑ったが、体勢は崩れない。
なるほど、今のがシールドバッシュというやつか。
やはり、なかなか厄介だ。
だが、2~3合打ち合えば、大体わかる。
ジークの間合い、剣速と一撃の重さ、踏み込みや切り返しの速さ。剣と盾を途切れなくつなげ、こちらの体勢を崩してから仕留める戦い方。
それに、シールドバッシュへ移る時だけ、右足へ大きく重心を乗せる癖もある。
2年前とはまるで別物だが、今のジークがどんな相手なのかはつかめた。
さらにジークは踏み込み、上から下へ剣を振り下ろし、すぐに下から上へ切り返す。
俺はその勢いを利用し、ジークの剣をさらに上へ跳ね上げた。
予想どおり、ジークはすぐさまシールドバッシュを仕掛けてくる。
正面から迫る盾に合わせて腰を落とし、その下を滑るように脇へ抜けながら、軸になっているジークの右足を蹴り払った。
ジークはシールドバッシュのため、右足を1歩踏み込んでいた。支えを失い、体勢が大きく崩れる。
俺はそのまま回転の勢いを使って起き上がり、剣を振り下ろした。
ジークは盾でかろうじて受け止めた。
だが、剣を防ぐために盾が上がり、胴ががら空きになっている。
俺は間髪入れず、その胴へ蹴りを打ち込んだ。
ジークの身体がくの字に折れたところで、俺は頭へ剣を振り下ろし、ピタリと止めた。
「ジーク! 俺の勝ちだな!!」
ジークは片膝をつき、唇を噛んで眉間に皺を寄せた。
「ハア……ハア……くっ!!」
悔しさを隠そうともしなかったが、やがて自分の中で区切りをつけたのか、穏やかな表情で俺を見た。
「セイン、強いな。蹴りを使う剣術……いや、剣術と体術を組み合わせた実戦型なんだな」
「ああ、ジークの盾もかなり厄介だな。盾があることで、2年前のジークとはまるで別物だった」
俺はジークに手を伸ばした。
「ジーク、またやろう」
「ああ、ありがとう」
ジークは俺の手を取って立ち上がった。そのまま、俺たちは固い握手を交わした。
リリアは鼻息荒く興奮していた。
「ああ……なんて素晴らしい光景。眩しすぎです」
ジークが、興味なさそうに顔をぷいと横へ向けているアイリスを見て、口を開きかけた。
アイリスが間髪入れずに答える。
「嫌です」
「ま、まだ何も言っていないじゃないか……」
「顔に私と立ち合いたいと書いてあるから、鏡を持ってきて確かめれば?」
「う……そのとおりだけど、顔に書いた覚えはないぞ……」
「本当、ジークもセインと一緒でそっち側なんだね!」
ジークは首を傾げた。
「そっち側とは?」
「変態ということよ!!」
「へ……変態……? えっ……何で? 俺が……? 嘘だろ……? 騎士道に反するだろ!?」
ジークは、生まれて初めて言われたであろう言葉を前に、自問自答を繰り返した。
完全に混乱して頭を抱えるジークに、リリアが口元を押さえながら笑った。
「フフフッ! ジークさん、性的な意味ではないから安心してください。アイリスは、鍛練のことしか頭にない人には誰にでも言うんですよ」
そう言いながら、リリアの手のひらが藍色に輝いた。
精神制御魔法だ。
ジークの強張っていた肩から、ふっと力が抜けた。目を見開き、驚いたようにリリアを見る。
「い、今のは……? 気分が落ち着いたんだが……」
アイリスがこともなげに答えた。
「リリアの精神制御魔法よ! 気分が楽になって良かったわね」
いやいや、お前が訳のわからないことを言ったからだろ!?
しかし、俺の考えとは裏腹に、ジークは目を輝かせた。
「すごい!! リリアは闇魔法の使い手だったとは!! 国家戦略級の逸材ではないか!! こんな才能の塊のような3人が、学園で最初の友達になるとは!! 俺はなんて幸運なんだ!!」
「はぁ~!? 友達!? 私がいつあんたと友達になったのよ!!」
俺は眉間に皺を寄せるアイリスの肩を叩いて宥め、満面の笑みでジークに向き直った。
「そうだ!! 俺たちは友達だ!! 近い将来、同じ目標に向かう仲間にもなりたいよな!!」
「ああ!! 仲間を募る時があったら、俺は真っ先に立候補するから声をかけてくれ!!」
俺とジークは再び固い握手を交わした。
「ああ……女の子同士にはない男の子同士のこの熱さ、ヤバいです」
リリアは顔を赤らめ、恍惚とした表情をしていた。
俺たちは訓練場を後にした。
それから各々の部屋へ戻った。夕食を食べ終えた頃、アイリスが俺にボソッと言ってきた。
「20時に訓練場で待ってる」
こうして、俺とアイリスの1日のルーティーンが決まった。
朝は早く起き、走り込み、柔軟、筋トレの順に体を動かす。
「セイン、このルートなら、あまり曲がらずに王都を1周できるわよ!」
「そうだな。朝なら人があまりいないから走りやすそうだね!」
夜は夕食を食べてから訓練場へ向かい、柔軟を済ませたあと、2人で鉄剣を使った剣術の鍛練を2~3時間ほど続けた。
アイリスは俺の剣を紙一重で避けながら、気合いを入れた。
「今日はセインに負けないんだから!! ハアアアーーー!!」
アイリスの連撃が始まった。
カン、キン、カンキン、カキカカカキカカ!!
「くっ!! 絶対受けきる!! ウオオーー!!」
今まで午前中にまとめていた鍛練を、朝と夜に分散しているわけだ。
学園が始まっても、無理なく続けられそうだ。
3日後。
明日は入学式だ。
俺はこれから始まる学園生活に胸を躍らせていた。
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