第27話 間に合った剣
街道でクレアの使いから手紙を受け取った俺は、馬車と子どもたちをロウエンに任せ、3時間近く馬を走らせ続けた。
ロウエン村に到着した時には、辺りはすっかり暗くなっていた。
村長屋敷は、10体ほどのコボルトに取り囲まれていた。
その中に、群れの指揮役らしい一回り大きなコボルトがいた。
そいつは俺の姿を見るなり、仲間を置き去りにして、東へ1体だけ逃げ出した。
共同井戸の方へチラリと目をやると、コボルトの死体が折り重なるように、大量に横たわっていた。
コボルトの数が多すぎるだろ!?
コボルトの死体は、村長屋敷まで続いていた。
よく見ると、村長屋敷の扉が開かれており、中までコボルトが入り込んでいた。
なぜ、クレアは氷槍で応戦しないんだ!!
あのクレアが魔力枯渇!?
まさか、間に合わなかったのか!?
俺の脳裏に最悪の想像がよぎる。
指揮役を追っている場合じゃない。
今は、クレアが先だ。
俺は、村長屋敷の外に残ったコボルトを蹴散らす。
「どけ!! オラアーー!!」
そして、村長屋敷の中に入った。
中では自警団の若者2人と、コボルト4体が対峙している。
若者2人の震えは激しい。
「りょ、領主様!!」
その奥では、クレアが避難壕へ続く接続通路の扉にもたれ、俯いたまま床に座り込んでいた。
「クレア!!」
コボルトの1体が、自警団の若者を無視してクレアに襲いかかる。
俺の中で何かが弾け、目の前が赤く染まった。
「俺の女に触るんじゃねええーーー!!」
俺は強く床を踏み込み、叫びながらコボルトを縦に一刀両断した。
「グギャ!!」
コボルトは悲鳴と共に血飛沫を撒き散らして倒れた。
続けて、若者2人と対峙していたコボルト3体に狙いを定め、1番近くのコボルトを横薙ぎで胴から真っ二つに斬った。
若者2人は俺のあまりの迫力に腰を抜かして、その場でへたり込んでしまった。
「ヒ、ヒィーーー!!」
「あ……あ……」
地面に座り込んで、悲鳴を上げたり、言葉にならない声を発したりしながら、俺とコボルトの戦いを見ていた。
お前たち、自警団だろうが!
しっかりしろよ!!
コボルトが俺に短剣で横薙ぎに斬りつけてきた。
俺は剣で余裕を持って受け止め、すぐさま斬り返して、コボルトの首を落とした。
コボルトは首から鮮血を撒き散らして倒れた。
その様子を見ていた最後の1体が逃げようとしたところで、俺はその腹に思いっきり蹴りを叩き込んだ。
ドガーン!!
コボルトを壁に強く叩きつけた。
「逃げないで素直に死んでくれよ!!」
そう言いながら、床に倒れたコボルトを剣で何度も突き刺した。
俺はコボルト4体を殲滅した後に、クレアの前に膝をついた。
「クレア……? 生きているか……?」
クレアは、涙に濡れた目を少しだけ開けた。
「あんた……ホント……来るのが……遅いよ……」
俺はクレアの手を両手で握り込む。
「あ、ああ……遅れてごめん……」
「でも……今回は……本当に……助かったよ……」
クレアは泣きながら言うと、魔力枯渇で意識を失った。
あれだけのコボルトを倒しているんだ!
魔力枯渇は無理もない。
だが、まさか、あのクレアが泣くなんて……!!
くっ!!
それだけ死を覚悟したということか!!
絶対許さん!!
俺はクレアを力強く抱き締めた。
「クレア……あとは任せろ!!」
俺は自警団の若者2人に確認した。
「村の被害状況を話せ!!」
「村人、自警団ともに怪我人は多数! ですが、死者は出ていません! 村の損害はご覧の通りです!」
俺は目を見開いたが、すぐにニヤリと笑った。
「これだけの襲撃で死者は出ていないだと!? ……十分すぎる戦果じゃないか!!」
そう言うと、俺はすぐに屋敷の外へ向かい、コボルトの残党を斬り伏せに行った。
「おりゃあああーーー!!」
気合い一閃、2体のコボルトを同時に横薙ぎに斬り払う。
それを皮切りに、俺は次々とコボルトに襲いかかった。
振り向きざまに1体を下から斬り上げ、鮮血を散らす。
向きを変え、そのまま次の1体へ剣を振り下ろして一刀両断にする。
「おおおーーー!!」
俺に飛びついてきたコボルトを腹への前蹴りで蹴り落とし、そのまま地面に向かって刃を突き刺す。
周りのコボルトが怯んだ隙を見て、突進した勢いを利用して再び横薙ぎに斬り払い、2体のコボルトの胴を同時に真っ二つにした。
「まだ終わってねえぞ!!」
俺は怒りのまま、剣を振り続ける。
最後に、逃げようとするコボルトが2体ほど出た。
「逃がすわけねえよな!!」
1体目を執拗に追いかけ、後ろから剣で突く。
さらに2体目も追いかけ、首を斬り落とした。
「ハア……ハア……ハア……これで終わりか……」
俺は村長屋敷周辺のコボルトを全て片付けると中に戻り、クレアを優しく丁寧に抱え上げた。
「村長屋敷周辺のコボルトは全て片付けた。お前たちも避難壕に行くぞ!」
「は、はい!」
避難壕は、村長屋敷の裏にある大きな洞窟を利用して作られ、屋敷とは地下の接続通路でつながっていた。
俺はクレアを抱えながら、自警団の若者2人を連れて接続通路を通り、村人たちがいる避難壕に到着した。
避難壕に入ると、村人たちの視線が一斉に俺へ向く。
俺の腕の中には、意識を失ったクレアがいる。
誰もが息を呑んだ。
子どもを抱えた母親が叫ぶ。
「奥様……奥様は大丈夫なんでしょうか!?」
「ああ……だいぶ無理をして気絶しているだけだ」
「この子は逃げ遅れて隠れていたところを、奥様が抱きかかえて救ってくれたんです」
「そうか……」
小さな子どもが、母親に抱かれたまま泣きそうな顔でクレアを見ていた。
老人が、震える手で頭を下げる。
「奥様が……助けてくださった……」
その言葉を聞いた瞬間、避難壕の中にいた村人たちが、次々に頭を下げた。
クレアは何も答えない。
ただ、魔力枯渇で眠るように意識を失っているだけだった。
それでも、その場にいる全員が分かっていた。
自分たちが生きているのは、クレアが最後まで戦ってくれたからだ。
「みんな!! 聞いてくれ!! 村長屋敷周辺にいたコボルトは殲滅した!」
その言葉を聞いて、村人たちはざわめいた。
俺は続ける。
「だが、暗くて村全体の様子までは確認できていない。だから明日、村の中を確認して片付ける。今夜はここで寝てくれ!! ここには大量の毛布があるが、足りなければ手配するから言ってくれ!!」
「自警団は火を絶やすな!! 俺と一緒に交代で夜通し警戒するぞ!!」
「それと、明日からしばらく炊き出しをする。安全を確認して自宅に戻れるやつは戻ってもいいが、炊き出しには参加してくれ!! 以上だ!!」
俺はそう言うと、クレアを毛布に包んで、火の近くで寝かせた。
俺はその傍らに座り、慈しむようにクレアの頭を撫でた。
「これほど大規模な襲撃をほぼ1人で食い止めて、死者を出さないなんて、お前にしかできねえよ。本当にありがとうな」




