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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第2章 守れる力の芽吹き

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第24話 改めて気づいた想い

 エーレンフェルト領に着いた翌日、父さんから物資の補給に昼過ぎまでかかると言われた。


 いつもなら、すぐに鍛練しろと言われるはずだが、今日は自由時間になった。


 こんなこと、初めてではないだろうか。


 ゴブリンを初討伐した翌日だから、気を使ってくれたんだな。


 ニルくんが俺のところに来て言った。


「若様、俺は若様についていろって言われた」


「ニルくんは補給する組じゃないんだ。俺も自由時間になったよ。だったら、この街で買い物に付き合ってくれないか?」


「買い物? 何か欲しいものあるの?」


「うん。グランベル領には武器屋がないから、ちょっと見てみたいんだよ。買わないけどさ」


「わかった。俺もエーレンフェルト領を歩いて回ったことがないから楽しみだな」


 そこへ、アイリスが話に加わってきた。


「買い物に行くなら、私も付き合ってあげるわ。リリアもこのまま帰すのは心配だから、みんなで楽しまない?」


「いいね。じゃあ父さんから少しお金をもらってくるよ」


 俺は父さんから少しお金をもらい、ニルくん、アイリス、リリアと4人で、この街を見て回ることになった。


 アイリスが美味しいお店があると言って連れてきたのは、喫茶店だった。


 扉を開けると、小さな鈴の音が鳴った。


 店内には甘い香りと紅茶の香りが漂い、磨かれた木のテーブルが並んでいる。


 店員に案内されて席に座ると、リリアが落ち着かない様子で店内を見回した。


「私、このような高級店に来たことがないから、少し緊張してきます」


 ニルくんも緊張しているのか、背筋を伸ばして頷いた。


「俺も同じ。だってグランベル領は畑ばかりでお店自体がないから、俺はお店に入るのが初めてだ」


 俺も2人に頷いた。


「そういえば、俺もだ。今まで遊びや剣術の鍛練ばかりで、全く気にしたことなかった」


 アイリスは呆れたように言った。


「セインの場合、今考えると遊びが鍛練だったわよね? お店に入ったことがないなんて、2人ともどんだけ田舎者なのよ……」


 リリアが笑う。


「フフッ……そうですね。お店自体に入ったことがないのは、少しびっくりですね」


 俺は不満を漏らした。


「グランベル領にはお店がないから仕方ない。物資は行商が来るから間に合ってるしね。エーレンフェルト領に遊びに来ても、いつも領主屋敷から出なかったよね?」


 アイリスが即答する。


「当たり前じゃない。小さい頃、領主家の子ども2人だけで街に出たら、領民は何事かと思うでしょう? だから、私もグランベル領の村には行ったことがないわ」


 ニルくんが俺とアイリスを見比べた。


「若様もアイリス様も、行動が制限されていて窮屈そうですね」


「ああ……気にしたことなかったな」


「セインは鍛練狂の変態だからね」


「なんで変態なんだよ。アイリスも同じじゃないか」


「セインと一緒にしないで!!」


 リリアは楽しそうに笑う。


「フフフッ……2人は仲良しで羨ましいですわ」


 そう言っているうちに、白いクリームに包まれたケーキとお茶が運ばれてきた。


 おお!!


 この世界にもケーキがあったのか!!


 久しぶりすぎる……。


 前世でも甘いものは制限していたからな。


 今日は食べてもいいだろう。


 ニルくんとリリアの様子を見る。


 リリアは1口食べた途端に目を見開き、肩を小さく震わせた。


 そんなリリアを、アイリスが微笑みながら見ていた。


 これは初めて子どもに美味しいものを与えたお母さんの目だな。


 ニルくんは無言で、ほとんど食べ尽くしていた。


 はやっ!!


 俺も1口食べた。


 うんまっ!!


 ああー……クリームが口の中で溶ける……。


 久しぶりのケーキは、ほっぺたが落ちそうだ。


 アイリスは俺にもお母さんの目を向けてきた。


 ママ、美味しいよ!!


 危ない……考えていたら、本当に言ってしまいそうだ。


「これはうまいな……ほっぺたが落ちそうだわ」


 アイリスが鼻を高くしながら胸を張る。


「でしょ!? 私もここに初めて来た時はすごい感動したんだよね!」


 鼻を垂らしていた昔のアイリスが、ケーキを食べているところを想像して微笑まし……いやいや、やめておこう。


 リリアがニコニコしながら言った。


「私、生まれて初めてこんな美味しい物を食べました! すごい感動ですわ!!」


 ニルくんが名残惜しそうに空の皿を見つめた。


「俺もこれ、すごいと思う。もう食べちゃった……」


 喫茶店でケーキとお茶を楽しんだ俺たちは、俺の希望で武器屋に来た。


 扉を開けた瞬間、鉄と油の匂いが鼻に入った。


 壁には長さも形も違う剣や槍が並び、棚には盾や籠手が所狭しと置かれている。


 窓から差し込む光が刃に反射して、店内のあちこちで輝いていた。


 俺とニルくんは目を輝かせた。


 ニルくんがキョロキョロしながら言った。


「すごい! カッコいい!!」


 俺もニルくんに同意だ。


 店の奥から主人が出てきた。


「これはこれは、アイリス様。本日はどのようなご用向きで?」


「今日は友人の希望で見学に来ただけです。少し見せてもらっても大丈夫ですか?」


 店の主人は満面の笑みで返答する。


「どうぞどうぞ。では、ごゆっくりしていってください」


 そう言いながら、奥に入っていった。


「若様! この剣、カッコよくないですか?」


 確かに!


 でも、装飾がごちゃごちゃついていて、恐らく儀礼用の剣なんだろう。


「俺はシンプルな方がいいな。これとか」


 そう言って、いかにも「私はスパスパ切れますよ」と言っているような細身の剣を指差した。


 アイリスは興味がないふりをしながら、何度もこちらを盗み見ていた。


 アイリス、お前も目を輝かせて見たいのはバレてるぞ!!


 お前も繕っていても、所詮はこちら側の人間なんだよ!!


 リリアは微笑みながら、俺たちの様子を見ていた。


 アイリスがつんとしながら言ってきた。


「そろそろ時間だから行きましょうか」


 ニルくんが慌てて店の外を見た。


「あっ! もうこんな時間なんだ! 若様、遅れたら怒られますよ。戻りましょう」


 俺たちは急ぎ足で、でもリリアに合わせながら、馬車に戻った。


 もう出発準備はできていた。


 フィオナさんが俺に話しかけてくる。


「セインくん、帰ったら必ずクレアに魔法を教えてもらうんですよ? 今から練習しないと間に合いませんからね」


 俺は頷いた。


「うん。必ず母さんに教えてもらうよ」


 俺はアイリスとリリアに向き直った。


「じゃあ、アイリス、リリア、またね」


 アイリスとリリアがそれぞれ言う。


「ええ、またすぐにそっちに行くと思うけどね」


「お気をつけて。また会う日までごきげんよう」


 馬車がゆっくりと動き始めた。


 アイリスとリリアが、領主屋敷の前で手を振っている。


 俺も窓から手を振り返した。


 少しずつ2人の姿が小さくなっていく。


 リリアが先に手を下ろしても、アイリスはまだ振っていた。


 俺も、アイリスの姿が見えなくなるまで手を下ろせなかった。


 またすぐに会える。


 いつものことじゃないか。


 それなのに、窓から顔を戻した途端、胸の中にぽっかりと穴が空いたような気がした。


 さっきまで隣にいたはずなのに。


 楽しそうにケーキを食べる俺たちを見て、得意そうに胸を張っていた顔。


 武器なんて興味がないふりをしながら、何度も剣を盗み見ていた顔。


 思い出すたびに、もう1度会いたくなる。


 でも、その顔に昨日の光景が重なった。


 俺が残心を忘れたせいで、アイリスを危険な目に遭わせた。


 もし、あの時……。


 そこまで考えた瞬間、胸の奥を強く掴まれたように苦しくなった。


 嫌だ。


 アイリスが傷つくところなんて、2度と見たくない。


 アイリスがいなくなるなんて、考えたくもない。


 俺は無意識に、もう見えない窓の外へ目を向けていた。


 また会いたい。


 今すぐ戻って、もう少しだけ一緒にいたい。


 どうして、こんなに寂しいんだろう。


 どうして、アイリスのことばかり考えてしまうんだろう。


 答えは、もう分かっていた。


 そうか。


 俺は、アイリスが好きなんだ。


 前から好きだった。


 ただ今日、初めてその気持ちに名前がついた。


◇◇◇◇


 それから3日後。


 グランベル領の領主屋敷に、1人の若者が駆け込んでいた。


「奥様!! 大変です!! ロウエン村がコボルトの群れに襲われています!!」


「何だって!?」

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