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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第2章 守れる力の芽吹き

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第21話 王宮騎士団本部

 魔法適性検査を終えた後、俺たちは今夜泊まる宿へ着いた。


 リリアはさっきより顔を上げていたが、目元はまだ少し赤い。


 アイリスは、そんなリリアの隣からあまり離れようとしなかった。


 せっかく王都に来たので、俺とアイリス、リリア、ニルくんで、王都見物に出かけることになった。


 護衛として父さんもついてくる。


「子どもだけで行きたかっただろうけど、アイリス嬢のことをギルベルトから頼まれているからな」


「アノルドさん、私たちは王都のことが何も分からないので、むしろ嬉しいです」


 ニルくんも目を輝かせる。


「去年は王都に着いたのが夕方で、見物する暇がなかったんだ。だから、すごく楽しみ!」


「そう言ってくれるなら気が楽になる。王都は広いから、公用馬車で移動しよう」


 俺は首を捻った。


「公用馬車?」


「ああ。お父さんは王宮騎士団に所属しているからな。まずは近くにある王宮騎士団本部まで歩いていくぞ」


 王宮騎士団本部。


 名前だけで凄そうな場所だ。


 父さんが王宮騎士団に所属していることは知っている。


 でも、普段はグランベル領で魔物を退治している姿しか見ていない。


 王都で騎士として扱われる父さんを見るのは、少し不思議だった。


 ニルくんが顔を強張らせる。


「な、なんか緊張してきたね」


「俺もちょっと緊張してきた」


「若様でも緊張するんだ」


「するよ。王宮騎士団本部だぞ? 名前が強すぎるだろ」


 そんな話をしているうちに、王宮騎士団本部へ着いた。


 高い門。


 磨かれた石畳。


 槍を持って立つ門兵。


 門の内側からは、剣がぶつかる乾いた音が聞こえてくる。


 カン、カン、と響くたびに、自然と背筋が伸びた。


 門兵は父さんを見ると、すぐに姿勢を正した。


「グランベル殿、お疲れ様です」


 父さんも敬礼を返す。


「ご苦労」


 そのまま中へ入っていく父さんに、俺たちも恐る恐る続いた。


 本部の中は、想像していたよりも広い。


 壁には剣や槍が並び、廊下を歩く騎士たちは皆、背筋が伸びている。


 ここにいる人たちは、本当に戦うために毎日を過ごしているのだと分かる。


 受付の騎士も父さんに敬礼した。


「公用馬車は使えるか?」


「確認します。……使えますね。すぐに手配しますか?」


「ああ、頼む」


 さすが騎士爵家だ。


 うちは貧乏だけど、一応貴族なんだな。


 こういう所でそれを実感する。


 そこへ、周囲の騎士たちとは明らかに空気の違う男が歩いてきた。


 背が高く、肩幅が広い。


 ただ歩いているだけなのに、周囲の騎士たちが自然に道を空けていく。


 偉い人だ。


 たぶん、かなり偉い人だ。


 父さんはすぐに背筋を伸ばし、足を踏み鳴らして敬礼した。


「グレゴール・ランバルト騎士団長、ご無沙汰しております」


 ランバルト騎士団長も敬礼を返す。


「ご苦労、アノルド。何だ? 子どもたちを連れて王都見物か?」


「ああ。俺の息子のセインだ。こっちはギルベルトの娘のアイリス嬢だ」


 俺とアイリスは深々と頭を下げる。


「セイン・グランベルです」


「アイリス・エーレンフェルトです」


 リリアとニルくんも慌てて頭を下げた。


 ランバルト騎士団長は優しく微笑みながらも、観察するように俺たちを見た。


「この子たちが、お前たちの子どもか……。どうだ? 少しだけ訓練場を見ていかないか? 君たちと同い年の私の息子もいる」


 父さんが目を輝かせる。


「もう騎士団の鍛練に入れているのか。面白い! セイン、アイリス嬢、行くぞ!」


 アイリスが頬を膨らませた。


「アノルドさん! 私たちは王都見物に来たんですよね!?」


「まあまあ、ほんの半刻だけだ!」


「覗くだけですよね? 絶対に覗くだけですよね?」


 ランバルト騎士団長が笑った。


「もちろん、無理に立ち合いをさせるつもりはない。やるとしても、刃を潰した鍛練用の剣を使い、私が見る」


 リリアとニルくんは興奮したように声を上げる。


「私も見学させていただいてもよろしいでしょうか?」


「騎士団の鍛練なんて、滅多に見られないよ!」


「アイリス、決まりだな。同い年の子も気にならないか?」


 アイリスは俯きながら、小さくこぼした。


「気になるけど……」


 気になるんだな。


 俺たちはランバルト騎士団長に案内され、訓練場へ向かった。


 中へ入った瞬間、熱気が押し寄せてくる。


 大勢の騎士たちが立ち合いをしていた。


 足さばき。


 剣さばき。


 間合いの取り方。


 どれも見事だった。


 その中に、俺たちと同じくらいの子どもがいる。


 大人に混じって剣を振っているのに、姿勢が崩れない。


 相手の剣を受けた後、すぐに次の位置へ足を置いている。


 腕だけではなく、身体全体で剣を扱っている。


 ロウエン爺がいつも教えている動きだ。


 こいつ、強いな。


 王都には、同い年でこんなに動けるヤツがいるのか。


 隣を見ると、アイリスも完全にスイッチが入った顔をしていた。


 ランバルト騎士団長が少年を呼び寄せる。


「私の息子のジークだ」


 少年は真っ直ぐに俺たちを見た。


「初めまして。ジーク・ランバルトです」


 俺たちも順番に自己紹介をした。


 ジークは礼儀正しい。


 けれど、その目は相手がどれくらい動けるのかを見定めている。


 ランバルト騎士団長がニコニコしながら言った。


「さっそくだが、ジークと軽く立ち合ってみないか?」


 リリアの視線がアイリスへ向かい、自然と全員がアイリスを見た。


「えー!? 何で私なんですか!? 絶対嫌です!」


 その声で、訓練場にいた騎士たちまでこちらへ注目する。


 気を利かせた騎士が、アイリスの背丈に合った鍛練用の鉄剣を持ってきた。


 俺はボソリと呟く。


「アイリスが騒ぐから、引けなくなったな……」


 アイリスの顔が真っ赤になった。


「もう! セインのバカ! 1回だけだからね!」


 ジークとアイリスが訓練場の中央へ向かう。


 騎士たちは場所を空け、口々に囁いていた。


「女の子だぞ? 戦えるのか?」


「ジークが一瞬で勝つんじゃないか?」


 父さんはそれを聞きながらニヤニヤしている。


 これは凄いプレッシャーだ。


 俺でも、この中で立ち合うのは少し気が引ける。


 アイリスは顔を赤くしたまま俯いていた。


 かわいいな……。


 一方、ジークは冷静にアイリスを見ている。


 2人が剣を構えた。


「始め!」


 ランバルト騎士団長の声が響いた瞬間、アイリスの顔から赤みが消えた。


 いつもの集中している時の目だ。


 ジークは一瞬驚いたが、すぐに踏み込んでくる。


「イヤアアー!」


 速い。


 10歳の踏み込みじゃない。


 アイリスが避ける。


 ジークはすぐに切り返し、2撃目を放つ。


 それもアイリスが避けた。


 避けた勢いのまま身体を回転させ、アイリスが連撃を始める。


 カン、カン、カン、キンッ!


 剣の音がどんどん速くなっていく。


 これはアイリスの必勝パターンだ。


 目が見えている時のアイリスに攻撃を当てるのは、至難の業だとロウエン爺も言っていた。


 ランバルト騎士団長が目を見開く。


 周囲の騎士たちもざわめいた。


「何だ、あの剣速は!?」


「あんな小さな女の子が、剣に振り回されていないぞ!」


 ジークは防戦一方になりながらも、ただ受けているだけではなかった。


 受ける。


 下がる。


 足を置き直す。


 そして僅かな隙を見つけるたびに、アイリスの首や胴を狙って切り返す。


 強い。


 普通なら、とっくに崩れている。


 ジークは押されながらも、まだ勝機を探している。


 けれど、アイリスは全ての攻撃を避け続けた。


「くっ……!」


 ジークがアイリスの肩を狙い、上から剣を振り下ろす。


 アイリスは剣で受けると、すぐさま切り返した。


 ジークはその速さに反応できない。


 アイリスの刃が、ジークの首元で止まった。


「そこまでだ!」


 ランバルト騎士団長の声が響く。


 次の瞬間、訓練場が拍手に包まれた。


「お嬢さん、凄いぞ!」


「ジークは世代最強だと思っていたが、上には上がいるんだな!」


 アイリスの顔が一気に赤くなった。


 さっきまで剣を突きつけていたとは思えないほど目を泳がせ、拍手が大きくなるほど身体を小さくしていく。


「も、もう終わりですからね……! 1回だけって言いましたからね……!」


 ジークは膝をつき、唇を噛んでいた。


 悔しそうだ。


 それでも目は逸らさない。


「……もう一度、お願いします」


 絞り出すような声だった。


 負けて終わるヤツじゃない。


 ランバルト騎士団長は静かに首を振る。


「今日はここまでだ。お前の受けも判断も、10歳のものではなかった。ただ、アイリス嬢の踏み込みと剣速が、それ以上だった」


「……はい」


 ジークは悔しそうにしながらも、剣を下げた。


 父さんが満面の笑みで胸を張る。


「どうだ、ギルベルトの娘は!」


「正直、驚いた。この歳で、あれほど動けるとはな……」


「セインもアイリス嬢と同じくらいだ。しかも2人とも、今日の検査で魔法適性が出た」


 ランバルト騎士団長は俺にも視線を向けた。


「何だと!? クレアとフィオナの子か……。2人の将来は計り知れんな!」


 俺はその会話を聞きながら、もう一度ジークを見る。


 ジークはまだ悔しそうにアイリスを見ていた。


 だが、その目はもう、次にどう戦うかを考えている。


 俺たちは訓練場を後にした。


 ニルくんが目を輝かせる。


「相変わらず、アイリス様は凄いね!」


 リリアも頷いた。


「本当に凄いです。アイリス様は人を守れる人で、羨ましいです」


 アイリスは恥ずかしそうに顔を赤くした。


「でも、女の子らしくないし、治癒士には必要のない技量よね……」


 俺は首を横に振った。


「必要ないことはないと思う。前に出るか、後ろにいるかはアイリスが決めればいい。でも、動けることは絶対に無駄じゃないよ」


「わ、私は後方にいたいよ……」


 アイリスは小さな声で答えた。


 本部の前には、先ほど受付で手配してもらった公用馬車が用意されていた。


 俺たちが乗り込み、馬車が動き出そうとした時、ジークが訓練場の方から走ってくる。


「セイン・グランベル!」


 俺は窓から顔を出した。


 ジークは少し息を切らしながらも、真っ直ぐ俺を見ている。


「次は、君とも立ち合いたい」


 俺は少し驚いてから、笑った。


「いいよ! 俺も気になってた!」


 ジークは小さく頷いた。


 馬車が動き出し、王宮騎士団本部が少しずつ遠ざかっていく。


 王都見物に来ただけのはずなのに、俺はまた1つ、鍛練したい理由を見つけていた。


 同じ歳で、俺たちとは違う場所で剣を振り続けてきたヤツがいる。


 俺は窓の外を見ながら、自然と拳を握った。


 王都には、俺たちとは別の、王都の10年があった。

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