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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第2章 守れる力の芽吹き

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第16話 10歳になった俺たち

 10歳になった俺とアイリスは、いつものようにロウエン爺から剣術の鍛練を受けていた。


 木剣がぶつかる音が、庭に響く。


 足が土を蹴る。


 息が乱れる。


 ロウエン爺の鋭い声が飛ぶ。


「踏み込みが浅いですぞ、若様!!」


「わかってる!!」


 アイリスが真剣な目で俺を見て、隙を窺っている。


 アイリスは剣の速度も、身体の動きも速すぎる。


 回転を始めて手数が増えたら、もう手がつけられない。


 その前に叩くのが、今の俺が見つけたアイリス攻略法だ。


 アイリスが動く。


 下か!?


 いや……右だ!!


 ふっふっふっ、そのフェイントは見抜いたわ!!


 俺はアイリスの機先を制し、アイリスの木剣を跳ね上げる。


「くっ……!!」


 アイリスがよろめいた。


 すぐに1歩踏み込み、その首筋へ木剣をピタッとつける。


「俺の勝ちだ!! アイリス!!」


「それまで!!」


「よし!! 今日は勝った!!」


「はいはい。よかったね。あんたは強い強い」


 アイリスは軽くバカにしたように言い放った。


 顔には、悔しいと書いてある。


 ロウエン爺が、今の立ち合いを振り返る。


「若様。その力強さは武器です。若様の剣なら、敵の骨まで斬ることができるでしょう」


「はい!」


「受けも良くなりましたな。ただ受けるだけではなく、押し返す、体勢を崩す、剣を弾く。受けた直後まで考えなされ」


 ロウエン爺は次に、アイリスへ顔を向けた。


「アイリス様の剣速と身のこなしは、すでに一流と言っても過言ではありませぬ」


 アイリスが少しだけ得意そうな顔をする。


「だからこそ、小手先のフェイントに頼ってはもったいない。初動から最高速に乗る動きを極めなされ。読まれれば、今のようになりますぞ」


「確かに、アイリスが回転を始めたら、俺はいつも押し切られるからな」


 アイリスは眉間に皺を寄せた。


「もういいでしょ……私は行くわ」


「アイリス! 悔しいなら、素直にロウエン爺の意見を聞きなよ!」


「うるさい!!」


 アイリスが屋敷へ向かおうとした時、父さんとギルベルトさんがニヤニヤしながら近づいてきた。


「アイリス、待て待て! まだ鍛練が終わる時間ではないだろ!」


 ギルベルトさんが引き留めると、父さんは抱えていた木箱を俺たちの前へ差し出した。


「セインとアイリス嬢に贈り物があるんだ! これだ!!」


 木箱の中には、鞘に納められた2本の剣が入っていた。


 俺は一瞬でテンションが上がった。


「おお! 父さん! これは本物の剣なの!?」


「本物の鉄剣ではあるが、刃を潰した鍛練用の剣だ。研げば普通の剣になるがな」


 アイリスは露骨に眉をひそめた。


「私は治癒士になるんです。何で治癒士がそんなものを持たないといけないんですか」


「まあ、そう言うなよ。持ってみれば、アイリス嬢も気に入るかもしれないぞ?」


「気に入りません」


 父さんは半ば強引に、アイリスへ剣を持たせた。


 アイリスは渋々柄を握りながらも、鞘に納まった剣を興味深そうに眺めている。


 俺も剣を抜き、軽く振った。


「うわっ! 思ったより重い!」


 木剣とは、手に伝わる重さが違う。


 振り出した瞬間、剣の重みが腕を引っ張る。


 止めようとすると、手首に嫌な負荷が残った。


 今までと同じ感覚では振れない。


「それは2人の背丈に合わせた特注品だぞ」


 ギルベルトさんが笑いながら言った。


 アイリスも剣を抜いて振り、すぐに顔をしかめる。


「重い……手が痛くなりそう……」


「よし! アイリス! パパと立ち合いするぞ!」


「嫌です。こんなものを振り回したら、腕が太くなりそうじゃないですか」


「ダメだ! 鍛練時間はまだ終わっていない!」


 アイリスは唇を噛みしめた。


「わかりました! この剣で父上と立ち合えばいいんですね!」


「そうだ! 剣術をやめたいなら、パパに勝ったら考えてやる!」


「無理なことを言わないでください!!」


 叫びながら、アイリスが低い姿勢で踏み込む。


 そのまま身体を回転させ、刃引きはびきけんを振るった。


 カン、キン、カンカンキン。


「おお! くっ……なかなか厄介だな!!」


 ギルベルトさんが目を丸くする。


 ロウエン爺も感心したように頷いた。


「剣の重さを利用して、身体全体で振っておりますな。剣に振り回されず、制御もできている。やはり身体の使い方が上手い」


「父上!! 覚悟!! ハアアア!!」


 アイリスはさらに勢いを増していく。


 相変わらず、運動神経の塊みたいなヤツだ。


 初めて持った剣まで、すぐに自分のものにしている。


 少し悔しい。


 いや、俺は俺のペースでやる。


「父さん、いきます!」


「ああ! 来い!!」


 父さんへ向かって踏み込む。


 重たい。


 1撃目はまだいい。


 けれど、返しての2撃目がどうしても遅くなる。


 木剣と同じ感覚で振ると、剣に身体を持っていかれる。


 腕だけで戻そうとしても間に合わない。


 足から戻すんだ。


 もっと力が欲しい。


 いや、力だけじゃない。


 この剣を振るための身体の使い方を覚えないとダメだ。


「若様! 手だけで振っても速くは振れませんぞ! 腰を入れなされ!」


 腰を入れて振り下ろす。


 そのまま足を踏み替え、腰から切り返す。


「そうです! その感覚です!」


 俺は父さんの足元を狙って剣を振った。


 父さんの笑みが消え、素早く半歩退く。


 今、本気で避けた。


 当たるとは思っていなかった。


 それでも父さんの目が変わっただけで、胸の奥が熱くなる。


 武器が変われば、身体の使い方も変わる。


 俺はまだ、木剣の動きしかできていない。


 それでも、5年前とは違う。


 俺とアイリスは、時間を忘れて父さんたちへ挑み続けた。


 本気で勝てるわけじゃない。


 それでも、俺たちが踏み込むたび、父さんたちの剣はさっきより素早く動いた。


 油断すれば足元をすくわれる。


 そう思わせるくらいには、俺たちは5年で前へ進んでいた。


「今日はここまでですな」


 ロウエン爺の声で、俺たちは剣を下ろした。


 ギルベルトさんが額の汗を拭い、満足そうに笑う。


「アイリス! かなり強くなったな!!」


「私は強くなんかなりたくありません。女の子らしく、誰かに守っていただきたいです」


「アイリスは誰かを守る側だろ?」


 アイリスの顔が一気に赤くなる。


「もう! セインのバカ!!」


 そのまま屋敷へ駆け込んでしまった。


 父さんが腹を抱えて笑う。


「ハッハッハ! セイン! 今の返答は間違いだ!」


「え? そうなの?」


「女心がまったく分かっていないな!」


 10歳児に女心を求めないでほしい。


 その夜、みんなで食卓を囲んでいると、父さんが思い出したように言った。


「そういえば、セインもアイリス嬢も今年だよな?」


「そうだね。もう10歳なんだね……時間が経つのは早いね」


 俺は母さんの言葉に首を傾げる。


「何かあるの?」


「セイン、知らないの? これだからお子ちゃまは……」


「アイリスも同じ10歳だろ」


「私は知っていたもの」


 フィオナさんが優しく微笑んだ。


「王都で魔法適性検査を受けるのですよ。王国では、10歳になった子は全員受ける決まりで、毎年、全国から子どもたちが集まります」


「この村の子も!?」


「毎年、お父さんとロウエンが1か月ほどいなくなる時があるだろう? その時に村の子たちを王都まで送っているんだ」


 そうだったのか。


 俺が知らなかっただけで、父さんたちは毎年そんなことをしていたらしい。


「私も行かなきゃダメですか? もうヒールが使えるのに……」


 アイリスが不満そうに言うと、ギルベルトさんが得意げに笑った。


「光以外の適性もあるかもしれないじゃないか」


「稀に2種類の魔法に適性を持つ人もいます。だから検査は絶対ですよ」


 フィオナさんに言われ、アイリスは渋々頷いた。


 フィオナさんのような治癒士になりたい。


 でも、もしかしたら別の魔法も使えるかもしれない。


 そんな期待と戸惑いが混ざった顔に見えた。


 俺には、母さんと同じ魔法適性があるのか?


 あれば、もっと強くなれる。


 でも、なければ?


「セインも適性があればいいな! クレアの子どもなんだから、ありそうだけどな!」


「魔法適性は、親から必ず遺伝するものではないよ。適性がない子の方がずっと多いから、何とも言えないね……」


 父さんの言葉を、母さんがすぐに否定した。


「俺たちも10歳の頃は、魔法が使えるかもしれないって期待したんだけどな」


 ギルベルトさんが苦笑する。


「2人とも適性なしだったけどな。行きは目を輝かせていたのに、帰りは落ち込んだもんだ」


 父さんも笑っている。


 笑い話にしているけれど、俺は笑えない。


「そんなに適性がある人は珍しいんだ……。母さんは、いつ魔法が使えるようになったの?」


「私は10歳の時には、まだ使えなかったよ。検査で適性ありと出ても、実感が湧かなかったくらいだからね」


 母さんも、検査を受けた時には魔法を使えなかった。


 なら、俺にも可能性はある。


 でも、期待しすぎて適性なしだったら、立ち直れないかもしれない。


 剣は振れば上手くなる。


 足は動かせば少しずつ速くなる。


 身体は、積み上げれば変わる。


 でも、魔法適性は違う。


 あるのか。


 ないのか。


 どれだけ欲しがっても、検査を受けるまで分からない。


◇◇◇◇


 1か月後、屋敷の前に4頭引きの大きな馬車が用意された。


 これからエーレンフェルト領を経由して、王都へ向かう。


 俺は馬車を見上げながら、胸の奥に妙な重さを感じていた。


 初めて剣を握った時の重さとは違う。


 初めて刃引き剣を振った時の重さとも違う。


 鍛える前に、扉が閉じているかもしれない。


 俺は初めて、そんな怖さを知った。

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