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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第1章 間に合う身体

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第14話 次は死にます

「セ、セイン……!? お前……血だらけじゃないか!?」


 父さんの声が震えていた。


 俺は母さんに抱き締められたまま、なんとか顔を上げる。


「父さん、俺はアイリスが治してくれたから大丈夫だよ」


「アイリス嬢が……?」


 父さんの視線が、地面に横たわるアイリスへ向いた。


「何でアイリス嬢が横たわってるんだ……?」


 父さんの全身が震えていた。


 一歩一歩、足元がおぼつかないように近づいてくる。

 後ろのロウエン爺も、口を半開きにして驚いていた。


 フィオナさんが、父さんとロウエン爺に向かって説明する。


「アノルド、とりあえず結果から説明します。セインくんは肩から左腕にかけてゴブリンに斬りつけられました。ですが、アイリスが治癒魔法で治しました」


「アイリス嬢が……治癒魔法を……?」


「ええ。初めての発動です。ただ、無理やり魔力を流したような状態だったので、今は魔力枯渇で気絶しています。命に別状はありません」


 フィオナさんは続ける。


「ニルくんは頭の骨にひびが入っていましたが、私がハイヒールで治しました。こちらも命に別状はないはずです。今回の件で出た怪我人は、ひとまず治療済みです」


 父さんは、ほんの少しだけ安心した顔を見せた。


「よかった……フィオナ、本当にありがとう。だが、一番わからないのは、なぜセインが傷ついたかだ」


 フィオナさんは即座に答える。


「セインくんは先行して走ったんです。セインくんが走らなければ、恐らくゴブリンに連れ去られていたニルくんの命はありませんでした」


 父さんとロウエン爺の眉間に皺が寄った。


 父さんが神妙な面持ちのまま尋ねた。


「セインが先行して追い付き、ゴブリンと対峙したのか……その結果、斬られたのか?」


 フィオナさんが頷いた。


「その通りです……」


 父さんが続けた。


「じゃ、じゃあ誰がゴブリンを……?」


 母さんが、ふらっと立ち上がった。


「あたいだよ!! あたいがあと数秒遅ければセインは死んでたんだよ!! わかってんのか!! テメーはよお!!」


 父さんとロウエン爺が揃って目を見開く。


 父さんは驚きのあまり、声をどもらせた。


「ク、ク、クレアさん……? 昔の話し方に戻ってるんじゃ……」


「今そんなこと話している時だと思うかい? まず頭が高いんだよ!! 正座しろ!!」


 ロウエン爺はすぐに正座した。


 早い。


 判断が早すぎる。


「ロ、ロウエン爺……?」


「若様、こういう時の奥様には逆らってはいけません」


 こ、怖すぎる……。


 マジでトラウマ級だ……。


「おう、クソジジイは素直じゃねえか! テメーはどうなんだよ!?」


「……恐れ入ります」


「クレアさん……? 落ち着こう……?」


「旦那様……」


「……はい」


 父さんも正座した。


「よし! テメー今、落ち着こうって舐めた口を利いたよな!? これが落ち着いてられるかって話なんだよ!! セインが死にかけたんだぞ!? 何でテメーはいねえんだよ!!」


「……はい。調査に行っていました」


「あたいは前に言ったよなあ!? セインには鍛練はまだ早いんじゃないかとよお!? でもテメーは、あたいの忠告を無視するどころか、喜んでセインの背中を押していたよなあ!?」


「……はい」


「あたいはこうなるのが嫌だったから止めてたんだよ!! テメーはそれがわからなかったのか!? 剣まで勝手に与えやがってよ!!」


 父さんは言い返さなかった。


 ただ、俯いたまま拳を握っていた。


「……俺は、鍛えれば守れると思っていた」


「ああ!?」


「セインなら伸びると思って、嬉しくなっていた。3歳からあれだけ動けて、努力もできて、ロウエンの指導にも食らいついて……俺は、嬉しかった!」


 父さんの声が沈む。


「だが、5歳のセインが魔物の前に立つことまでは、全く考えていなかった……」


 母さんの目がさらに細くなる。


「あたいはよお! セインとアイリスちゃんが普通に遊んで、普通に仲良くなることを願っていたんだよ!! テメーは、あたいの気持ちも聞かなかったよなあ!?」


「……はい。申し訳ございません」


「テメーの申し訳ございませんはいらねえんだよ!! セインが死にかけた落とし前はどうつけるのか教えてくれよ!!」


「……はい。わからないです」


「あたいが教えてやんよ!! テメーに今から氷槍をぶっ込んで串刺しにしてやんよ!!」


 母さんの周りの空気が冷たくなっていく。


 白い魔力が、足元からゆらりと立ち上がった。


「奥様。旦那様だけを責めるのは違います」


 ロウエン爺が、静かに口を開いた。


 父さんは青ざめた顔でロウエン爺を見る。


 たぶん、今は黙っていた方がいいと思ったのだろう。


 でも、ロウエン爺は怯えなかった。


「若様は、ご自分の意思で走りました」


 ロウエン爺の声は静かだった。


「そして、間に合いました」


 俺は息を呑む。


「ですが、次に同じことをすれば死にます」


 その瞬間、母さんの周りの空気が、白く光り始めた。


「……うるせえんだよ!! クソジジイが!!」


 母さんの声が低く沈む。


「セインが死ぬなんて、簡単に言うんじゃねえよ……!!」


 母さんが歯ぎしりしながら、白い魔力を周囲に集め始める。


「おう、クソジジイ……テメーも今すぐ串刺しにされてえのか?」


「クレアさん!! それは駄目だ!!」


 父さんが、母さんの腰にしがみついた。


「やめてくれ!! ロウエンは正しいことを言っているだけだ!!」


「正しいことなら、何言ってもいいのかい!?」


「よくない!! よくないが、今ロウエンを串刺しにするのはもっとよくない!!」


「離しな!! まとめて凍らせるよ!!」


「離せるわけないだろう!! 今離したらロウエンが死ぬ!!」


 フィオナさんが割って入る。


「クレア、セインくんが見てますよ」


 母さんの表情が少し変わった。


 白い魔力が、揺れる。


「……チッ!!」


 魔力が消えた。


 空気の冷たさも、少しずつ薄れていく。


 母さんは俺のところに戻ってきた。


「セイン? もう大丈夫だよ? お母さんがいるからね? よしよし……」


 普段の母さんに戻った!?


 切り替えが早すぎて、これはこれで怖すぎる……。


 俺は母さんの顔を少し見た。


 口調は優しい。


 手も優しい。


 でも、目だけは殺意があるまま、父さんとロウエン爺の方を見ている。


 俺はもう何がなんだかわからなくなって、号泣した。


「うわああーーーん!!」


「セイン? 大丈夫よ? お母さんが守ってあげるからね」


 普段の優しい口調と、殺意のある目が怖さに拍車をかけている。


 怖かった。


 痛かった。


 死ぬと思った。


 助かった。


 母さんが怖すぎた。


 全部が一気に来て、涙が止まらなかった。


 フィオナさんが手を叩いて言う。


「このままアイリスとニルくんを寝かせておくわけにはいかないわ。一度屋敷に戻りましょう」


 父さんとロウエン爺は、まだ正座したまま母さんの顔色を窺っていた。


 母さんはにっこり笑う。


「あんた? ロウエン? 帰りますよ?」


「……はい」


「……承知しました」


 怖い。


 今の「帰りますよ」が一番怖い。


 屋敷に戻っても、地獄の沈黙が続いた。


 アイリスは客室のベッドに寝かされ、ニルくんも別室で休むことになった。


 フィオナさんは2人の様子を見に行き、母さんは俺の隣に座ったまま離れない。


 父さんは正面で項垂れている。


 ロウエン爺は静かに俺を見ていた。


 しばらくして、ロウエン爺が俺に話しかけてきた。


「若様」


「……はい」


「今日、あなたは間に合いました。これは鍛練の成果でしょう」


 ロウエン爺の声は、いつもより少し優しかった。


「また、ニルを救うために走りました。その勇気も間違いなく立派です。なかなかできることではありません」


 俺は黙って聞いた。


「ですが、勝ったわけではありません」


 胸が、少し痛くなる。


「奥様が間に合わなければ、若様は死んでおりました。まさに間一髪のところだったのでしょう」


 ロウエン爺は続ける。


「走る判断は間違いではありませんでした。ですが、走った後に何をするか。敵をどう止めるか。誰を呼ぶか。どこまで自分で背負うか。それを考えねばなりません」


「……はい」


「届くだけでは、守り切れませぬ」


 その言葉が、胸に刺さった。


 俺は間に合った。


 でも、勝てなかった。


 ニルを助けられたのは、母さんが来たからだ。


 俺が生きているのは、アイリスが治してくれたからだ。


 走れば届く。


 でも、届くだけでは足りない。


 次は、守り切れるようにならないといけない。

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