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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第1章 間に合う身体

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第11話 足跡は屋敷へ

 翌日。


 朝早くにロウエンは屋敷にやってきた。


 まだ朝食の時間だった。


 アノルドは少し驚きながら言った。


「ロウエン! 今日はずいぶん早いな。まだ鍛練時間には早いだろう?」


 ロウエンは深々と頭を下げた。


「旦那様、朝早くに申し訳ございません。急報です。少し席を外して頂けませんか?」


 アノルドの表情が変わった。


 さっきまでの穏やかな空気が、すっと冷える。


 ロウエンは食卓から少し離れ、子どもたちの耳に声が届かない場所へ移動した。


 アノルドも神妙な面持ちでついていく。


「旦那様、はぐれゴブリンが現れました」


「はぐれゴブリンだと?」


「はい。村の自警団が追っていたのですが、今朝早く、村の子どもがさらわれたため、急報として参りました」


「な、何? さらわれた?」


 アノルドの声が低くなる。


「さらわれた子どもは誰だ」


「ニルです。昨日、手紙を届けに来た子です」


「……あの子か」


 アノルドは一瞬だけ眉を寄せた。


 ロウエンは続ける。


「はぐれは群れと違って数こそ少ないですが、何をするか読みにくい。子ども、老人、怪我人……抵抗できぬ者を狙います」


「子どもをさらう理由は?」


「定かではありません。巣へ持ち帰るのか、餌にするのか、魔物の考えることは分かりませぬ。ですが、急がねばなりません」


「ふむ。続けてくれ」


「今までも村周辺で、数は少ないながらゴブリンの目撃情報があり、自警団で追っておりました。はぐれゴブリンかは定かではありませんでしたが、今回子どもをさらったことで、はぐれゴブリンだと判断しました」


「すぐに出る。現場まで案内してくれ。足跡を追うぞ!」


「御意」


 アノルドは食卓まで戻ってきた。


 その顔は、もう家の中にいる父親の顔ではなかった。


 剣を持って魔物へ向かう、騎士の顔だった。


「ゴブリンが村の子どもをさらったようだ! ロウエンと出てくる!」


 クレアが心配そうな表情で尋ねる。


「子どもを!? 私たちは敷地から出ない方がいいね?」


「ああ。敷地からは出るな。今回の相手は数が少ない可能性が高いが、はぐれは動きが読みにくい」


 アノルドはセインとアイリスにも目を向けた。


「セイン、アイリス。ロウエンはいないが、2人で剣術の鍛練をやるように。ただし、敷地の外には絶対に出るな。庭は広いが、森には近づくな。屋敷の周辺にいろ!」


 セインとアイリスは同時に頷いた。


「はい」


「わかりました」


 アノルドはクレアとフィオナに目を向けた。


「クレア、フィオナ。2人を見ていてくれ」


「わかったよ」


「ええ、任せて」


 アノルドは剣を取り、ロウエンと共に屋敷を出た。


◇◇◇◇


 アノルドとロウエンは、さらわれた現場へ着いた。


 村の端。


 村長邸からも近い、裏山へ続く細い道だった。


 アノルドは周囲を見回し、低く呟く。


「ここは……村長邸と目と鼻の先ではないか」


「はい……裏山の方で出たようですな。こちらです」


 ロウエンは裏山の獣道に入っていく。


 アノルドも後をついていった。


 朝露で湿った草が足元に絡む。


 土は柔らかく、ところどころに小さな足跡が残っていた。


「旦那様、ここがさらわれた現場です」


 ロウエンが膝をつき、地面を見る。


 アノルドもしゃがみ込んだ。


「ふむ……確かに足跡の数は少ないな」


「1体……いや、2体の可能性もありますな。ニルの足跡も混じっております」


「抵抗した跡は?」


「あります。ですが長くは続いておりませぬ。おそらく、すぐに抱えられたのでしょう」


 アノルドの拳がわずかに震えた。


「急ぐぞ」


「はい」


 2人は足跡を追い始めた。


 足跡は細い獣道から草むらへ入り、木の根を越え、浅い斜面を横切っていた。


 途中で足跡が薄くなるたび、ロウエンは草の倒れ方や枝の折れ方を見て進路を読む。


「ここで一度、止まっておりますな」


「ニルを抱え直したのか?」


「その可能性が高いです。足跡の沈み方が変わっております」


「……ニルは生きているか」


「断言はできませぬ。ですが、ここまで引きずった跡は少ない。抱えて運んでいるなら、まだ急ぐ理由があるはずです」


「急ぐ理由?」


「巣へ戻る。仲間と合流する。あるいは、追手から逃げる。いずれにせよ、止まって食うつもりなら、もっと血の跡が残るはずです」


 アノルドは歯を食いしばった。


「なら、まだ間に合う可能性はある」


「はい。急ぎましょう」


 2人はさらに足跡を追った。


 草むらに入って足跡が途切れる。


 だが、その先の草が薄くなった場所に、また小さな足跡が残っていた。


 追えば追うほど、アノルドの胸騒ぎは強くなった。


 ゴブリンは森の奥へ逃げていない。


 裏山の奥へも向かっていない。


 足跡は、妙な角度で曲がっていた。


「旦那様」


 ロウエンの声が、さらに低くなる。


「どうした」


「ここで足跡が消えていますな……いや、完全に途切れたわけではありません。草の踏み跡は残っています」


 ロウエンは眉間に皺を寄せて、足跡の先を見た。


「この方向ですと、考えたくありませんが……」


 アノルドも表情をこわばらせながら、足跡の方向を見た。


 その先にあるのは森の奥ではない。


 村でもない。


「……領主屋敷に向かっている」


 アノルドの顔から血の気が引いた。


 屋敷にはクレアがいる。


 フィオナもいる。


 セインも、アイリスもいる。


 アノルドは即座に立ち上がった。


「ロウエン!! すぐに馬の所まで戻るぞ!!」


「御意!」


◇◇◇◇


 その頃、俺たちは屋敷からあまり離れないように、庭で実戦形式の打ち合いをしていた。


 アイリスは勝ち誇ったように笑う。


「アハハハハ!! セイン!! 防戦一方ね!!」


「クソッ!!」


 アイリスは全身に無駄な力が入っていないから、打ってくるタイミングがわかりづらいんだよ!!


 あと、フェイントも入れてくるし!!


 剣術を習ったばかりなのに!!


 凄すぎるだろ!!


 天才かよ!!


 アイリスは連続であらゆる角度から打ち込んでくる。


 時には身をかがめながら足を狙ってきたり。


 時には俺の打ち込みの強さを利用して、身体を回転させながら横一文字で打ってきたり。


 時には俺の剣を紙一重でかわしてから、袈裟斬りしてきたり。


 いやいや……これは傍から見ても5歳の動きじゃねえだろ!!


 けれど、そんなアイリスの猛攻を全て受けている俺も大概だな……。


「ほらほら! セインどうしたの!? 受けてばかりじゃ勝てないよ! アハハハハ!」


「楽しそうに笑いやがって!!」


「楽しいね! いつも足の速さではやられているから、少しは私の悔しさをわかりなさい!!」


◇◇◇◇


 フィオナは、庭で実戦形式の鍛練をする子どもたちを居間から見ながら呟く。


「ねえ、あの子たち、つい先日木剣を初めて握ったばかりよね?」


 クレアは言いたいことはわかると言わんばかりの顔をする。


「私、あの子たちがちょっと異常すぎて時々怖くなるよ……騎士の幼少期はみんなあんな感じ?」


「クレア……多分、違うと思うわ。主人たちも異常なほど強いと思っていたけど、あの子たちの年齢を考えたら、主人たちの方がかわいく見える時があるわ」


「ああ……わかる……すごくわかる……騎士爵家としては大歓迎なんだろうけど、個人的にはもっと普通でよかったんじゃないかと思う……」


 フィオナは庭で笑うアイリスを見つめた。


「そうね……セインくんのことはあんなに大好きなのに、勝ちそうになった時のあの顔、好きな男の子に向ける顔じゃないものね……」


 クレアも庭へ目を戻す。


「そうなのよ。完全に獲物を追い詰めた顔なのよ……」


「将来、本当に恋人らしい関係になれるのかしら……」


「仲は良いんだけどね……仲は……」


 そう言って2人は同時にため息を吐いた。


「ハア……」


◇◇◇◇


 アイリスのやつ、避けるのが異常にうまい!


 だが、俺の剣もアイリスの動きに追い付いてきた。


「ハア……ハア……ハア……」


「ハッハッハ!! どうした!? アイリス!! もう体力切れか!? あれだけ動いていたからな!」


「ハア……ハア……絶対負けない!!」


 2本の木剣が交差して、すぐに2人とも後ろに飛び、間合いをあける。


 その時、アイリスは動きを止めた。


 遠くの何かから、目を離さない。


「アイリス? どうしたの?」


 アイリスは目を見開いたまま固まっている。


 俺がアイリスの見ている方を向いたのと同時に、アイリスが叫んだ。


「セ、セイン!! あそこ!! 遠くの木と木の間に緑の人が子どもを抱えている!!」

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