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英雄になる最強魔法剣士ができるまで 〜前世で動けなかった俺は、三歳から身体を作り直して多くの人を救う〜  作者: むぎ
第1章 間に合う身体

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第10話 普通の遊び

 翌日。


 ロウエン爺と俺とアイリスは、いつもの剣術鍛練で庭に出てきた。


 ロウエン爺が俺たちに向かって話す。


「昨日言っていた通り、今日は実戦形式の鍛練をしますぞ」


 アイリスは目を輝かせる。


「今日は楽しみすぎて、昨日は眠れなかったんだー!!」


 俺もかなりワクワクしていた。


 初めて実戦形式で剣を振るう。

 強くなる第一歩だ!


 ロウエン爺は場を締めるように言う。


「若様、アイリス様、これは遊びではないですからな。集中しないと大怪我につながります。くれぐれもそのようなことがないよう、真剣に取り組んでくだされ」


 笑みを浮かべていたアイリスも、すぐに真顔になる。


 ロウエン爺が真剣な顔で言う。


「それでは2人とも、お互いに向かい合って剣を構えてくだされ。私が始めと言ったら始めてください」


 俺とアイリスは向かい合って木剣を構えた。


「始め!!」


 アイリスが真剣な顔で俺を見ている。


 隙を窺っているんだろうか?

 俺から打ち込んでやるか……。


 その時、アイリスの剣が打ち込まれた。


 間一髪で剣を受ける。

 だが、アイリスは連続で打ち込んでくる。


 くっ……!!

 速い!!


 防戦になっている!!


 俺は剣を受け流し、切り返して木剣を横一文字に振る。


 アイリスは余裕を持って避けると同時に、斜めから剣を振り下ろした。


 アイリスの剣は、俺の肩口に叩き込まれた。


 一瞬だった。


「ぐあっ……!! いってえーー!!」


 アイリスが満面の笑みで叫んだ。


「キャアーーー!! やったあああーーー!!」


 アイリスが両手を広げて喜ぶ。


 ロウエン爺は静かに言った。


「そこまでです。アイリス様の勝ちですが、全くダメですね……」


「えー!? な、なんでよ!?」


 アイリスが頬を膨らませる。


 ロウエン爺は静かに続けた。


「アイリス様、相手を斬ったあとは必ず残心を忘れてはダメです」


「残心……?」


「残心とは、斬ったあとも相手が生きているかもしれないと考え、警戒を怠らずに剣を相手に向け続けることです。相手は死んだふりをして、隙を窺って斬ってくる可能性もありますから、かなり重要ですぞ」


「うん! そうなんだね! わかったよ」


 アイリスが俺の方に顔を向けて笑う。


「残心はできてなかったけど、セイン、私の勝ちだよ!!」


 肩口がジンジン痛む。


 クソッ!!


 やっぱりアイリスは運動神経が高すぎる。

 何の運動でも吸収力がすごい。


「うん……そうだね。今のは最初の一撃で意表を突かれて、防戦一方だったよ……だが、次は負けない!!」


 その時、村の子どもが庭を覗いていた。


「す、すごい」


 ロウエン爺が子どもに話しかけた。


「ニル、どうした?」


「村長にお手紙です。緊急とのことなので持ってきました」


「ふむ……2人とも、ちょっと急用ができたから剣の鍛練は終わりです。また明日ですな」


 そう言って、ロウエン爺は足早に屋敷を後にした。


 ニルくんは手紙を届ける役目を終えたのか、ロウエン爺が屋敷を出たあとも庭に残って足を広げて座っていた。


 フィオナさんが庭へやって来て、俺の肩にヒールをかけながら言う。


「2人とも時間が余ったのなら、ニルくんと遊べばいいじゃない?」


 アイリスの不満げだった表情が、一瞬にして明るくなった。


「賛成ー!! ニルくん、一緒に遊ぼう!! まずは自己紹介だね。私はアイリス! そっちはセインだよ」


 ニルくんは戸惑いながら言った。


「う、うん! 知ってるよ? 俺はニル、6歳だよ。村長の家の隣に住んでるよ」


 ニルくんは背丈が俺たちより少し大きかった。


 アイリスが首を傾げて聞いた。


「普段ニルくんは何をして遊んでるの?」


 ニルくんは思い出すような表情になる。


「うーん……森で木の実を採ったり、川に行ったり、あとは鬼ごっこしたりかな。若様とアイリス様はどんな遊びをしているの?」


 アイリスが楽しそうに答える。


「あの遠くに見える木までセインと5往復の競争をしたり、膝を曲げたり伸ばしたりする回数を競ったり、今は剣術もやってるよ」


 ニルくんが笑いながら言う。


「ハハッ! あの遠くに見える木まで5往復とか、すごい疲れるじゃない。せめて、あの木までのかけっこじゃない?」


 アイリスが真面目に答える。


「疲れてからが勝負でしょ?」


「え?」


「え?」


 ヤバい!


 アイリスの認識が正常に戻ってしまう!

 普通の遊びがアイリスにバレてしまう!


 アイリスという鍛練相手がいなくなってしまう!!


 ここはごまかさないと!!


「あ、あ~そうなんだね……村の子どもたちはそんな遊びをしているんだね……で、でも残念だな~。森や川に子どもだけで行くのは、父さんも母さんも許してくれないからな~」


 アイリスは考え込む。


「そうね……でもこの間、川には行ったじゃない! 泳げるようになって楽しかったよね!」


「え? この辺の川は流れがきついから、相当泳ぎが得意な大人じゃないと泳げないんだよ?」


「え?」


「え?」


 クソッ!


 俺は前世で泳ぎが得意じゃなかったから、川で泳いだことなんかなかった。


 父さんもギルベルトさんも、俺まで騙しやがった!


 なんか泳いでも泳いでも辿り着けないなと思ったわ!!


「でもパパは、鎧を着ても泳げるよって……」


 そう!!


 俺もその言葉で騙された!!


 父さんもギルベルトさんも笑いながらスイスイ泳いでいたしね!!


 ニルくんが困惑しながら言う。


「え? そんな人……見たことないけどね……ま、まあいいよ。じゃあ鬼ごっこしようよ!」


 アイリスが首を傾げる。


「……鬼ごっこ?」


 俺が即座に答える。


「ア、アイリス、鬼ごっこはかけっこと一緒だよ。鬼役が追いかけるだけのかけっこだ。いつもやってるじゃないか」


 アイリスが俺を見て満面の笑みを浮かべる。


「うん! セインとしかやったことないから、他の子とするの初めて!! 楽しみ!!」


 俺は安心して胸を張る。


「じゃあ俺が鬼役をやるね!」


 ニルくんも楽しそうに言った。


「わあーー! 鬼だーー! 逃げろおー!!」


 ニルくんが笑いながら逃げ出す。


 アイリスは真顔で全力疾走を始めた。


 俺はニルくんを一瞬で追い抜き、アイリスを全力で追いかける。


 ニルくんがきょとんとした。


「え?」


 俺はしばらく走り、アイリスの後ろについた。


 俺は笑いながらアイリスを煽る。


「ハッハッハ! アイリスの足はまだまだだなあ」


「くっ……!! セインのバカ足!!」


「ほらほら、追い付いちゃうぞ~」


「もう!! セインの意地悪~~!!」


 そんな様子を見ながら、ニルくんはポツリとこぼした。


「あの2人……速すぎない……?」


 結局、アイリスは俺に捕まって、ニルくんのところに戻ってきた。


「もう!! いつかセインを追い抜いてやる!!」


「アイリスには無理だよ」


「悔しい!! あっ! ニルくん、でも鬼ごっこ楽しいね」


 ニルくんが唖然としながら言う。


「う、うん! そうだね! 鬼ごっこ楽しいよね! 俺、そろそろ村に戻らないと……」


 アイリスは不満げだった。


「えー!? せっかく遊んだのに、まだ疲れてないよ!」


「最近、この辺の森でゴブリンが出たから早く帰ってきなさいって、母ちゃんから言われてるんだよ……」


 アイリスが驚いた表情で言う。


「そうなんだ! それなら仕方ないね……また遊ぼうよ!!」


 ニルくんが笑いながら返す。


「そうだね! また来るから、その時遊ぼうね!! じゃあ、またね!!」


◇◇◇◇


 村に戻ったロウエンは、自警団の若者に案内されて、村と森の境目まで来ていた。


「これは、ゴブリンの足跡だな」


 若者が眉間に皺を寄せ、声を低くする。


「はい。最近この辺でゴブリンの目撃情報が多数出ています。目撃されたのはいずれも1体ですが、同じ個体かは分かりません」


 ロウエンは報告を聞きながら、足跡を見ていた。


「ふむ……数は多くなさそうだな」


 だが、ロウエンの表情は晴れなかった。


 ゴブリンは通常、複数で行動する。


 それなのに、残されている足跡は少なかった。


 もしや、はぐれゴブリンかもしれない。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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