第6話 そもそもの回想 後編 教会で幼馴染の正体を知る
「おや、懐かしい声ねえセルフィ坊やかい」
「いえもう18歳です、というかタリーシャ様、もう目が」
「持ってあと1年だねえ、最期は産まれた村でって決めていてね」
大きな教会、
その中は立派に綺麗にしてある、
そしてこれまた大きなベッドに寝かされたタリーシャ様。
(知らない美人シスターさんがお世話している)
いや凄い綺麗なお方だ、
僕を見て、微笑みながら、
丁寧にぺこりとお辞儀した。
「初めまして、ルビアと申しますわ」
「ど、どうも、冒険者になる予定のセルフィです」
「もうセルフィったら」「ちょ、ほっぺひっひゃらないふぇっ!」
嫉妬したであろうファロラに頬を引っ張られた、
少し笑い声を漏らしながら上半身を起こすタリーシャ様、
毎回見てもかなりの御年のお婆ちゃんだったが、さすがにもう。
(手を伸ばして僕の顔を触り確認している)
少しされるがままになったのち、
そっと両手を掴むと懐かしい感じの笑顔が見てとれた。
「さてセルフィ坊や、どこまで聞いてきたんだい?」
「えっと、タリーシャ様が昔、かなり有名な聖女様だったと」
あえてちょっと話を遠回りしてみる。
「ではその話からだね、昔から教会の聖女はその活動に応じて毎年、50傑を決めるのさ、
50位までに入れるように各教会のシスターを競わせる、1度でも入れば聖女の称号を、2回入れば大聖女さね」
「そんな制度が」「私は48位と49位、2回入って大聖女、だから権限を持つ教会主になれるのよ、それをここで使っているの」
だから廃村になった故郷の教会で、
こうやって余生を過ごす事が出来るのか、
僧侶4人も連れて、って村民5人って聞いてたからこれで全員だね。
「ていうかファロラ、出家しちゃってたんだ」
「伯爵家の私と辺境伯家のセルフィとの結婚は、私が教会員でも大聖女様の許可があれば可能なの」
「だからここで」「もちろん教会を出なきゃいけないけれど、そのあたりの判断はタリーシャ様が、なんとでも」
沢山の書類を出すルビアさん。
「これはまだタリーシャ様の目がかろうじて見える頃に書いた様々な許可証、認定証です、あとは魔力判を押すだけの」
「そうよ、4人がこの大教会から正式に許されて冒険者になれる、そのための書類よ、押すときは一応、証人を呼ぶわ」
「まだ許可には早いですか」「ええ、あと1年は面倒見てあげる、私が死んだら自由、旅立ちの時よ」「そんな、な……」
長生きして下さい、
だなんてここまで生きてきた大聖女様に、
そうそう言って良い言葉なのか、ちょっと迷う。
(ずらっと並んだ僧侶の皆さん4人、順番に何か言うみたいだ)
ここは大人しく、
黙って見守っていよう。
「タリーシャ様、私はまだまだ教えて頂きたい事が」「シグリヌ、剣に関してはもう直接教えられる事は無いわ」
「大聖女さま~、回復魔法の応用が~、まだしきれていません~」「リムラ、あとは自分で考えなさい、まだもう少しアドバイスはしてあげられますから」
「まだ師匠に、光の攻撃魔法について極意を」「ルビア、私とて教えられるのは初期段階まで、あとは自力で古い文献を探しなさい、人間のであれば王都とか」
人間のは、か……
そして最後にファロラが。
「タリーシャ様、私にとって本当の意味での、人間のお婆ちゃん……私、私……」
「なあに、本当に信頼出来る人間が丁度、来てくれたでしょう、これからはセルフィを慕って、ね」
「……はい、これからは、セルフィのお嫁さんとして、相方として、そして、私の生きる源として、共に生きて行きます」
なんだろう、
ちょっとだけ悪寒がする、
いや寒気の正体は、おそらく……
「さてセルフィ坊や、ここから先の話なのだけれども」
「あっはい、魔族領と関係があるんですよね、色々と」
「まずは見て貰った方が手っ取り早いねえ、ではセルフィに見せておやりなさい」「「「「はい」」」」
一斉に僧侶服を脱ぎ始める4人、
でも僕はその雰囲気に恐怖を感じた、
勇者だからわかるのか、そう、これは、人ならぬオーラ……
(案の定、角と翼が生えてきた)
そして肌も人間ではありえないくらい白く……
白い角、白い翼、そして白い尻尾、そう、これは魔物……
人間を誘惑し、その身体で命を吸い尽くす恐ろしい、サキュバスだ。
「その、ファロラ、いつから」
「産まれてからよ、最初から、育ちは伯爵家だけれどもね」
「ここは私が説明しよう」「シグリヌさん」「頼んだわ、シグリヌ」
そう言ってベッドに再び身を預けるタリーシャ様、
もう身体を長く起こしているのも辛いのだろう、ルビアさんが介抱する、
身体を拭いたりおトイレの世話もしているんだろうけど、その姿はサキュバスのままだ。
「あっ、一応確認を、タリーシャ様はサキュバスでは無いですよね?」
「人間だ」「人間よ」「すみません、おふたりして教えてくれて、では話の続きを」
「魔族領は中で争いが絶えず、ここに人間が絡むとやっかいなことになる、ゆえに相互不可侵を……」
話が長かったので簡単に説明すると、
魔族領を治めているトップは珍しい光属性の魔物、
ホーリードラゴンとホーリーインキュバス&ホーリーサキュバス。
(物凄く大雑把に言うと正義の魔物&魔族ね)
ちなみに魔物と魔族の違いは、
こっちで言う動物と人間の違いみたいなものだが、
大元は同じだしもっと言えばホーリードラゴンは魔物なのに喋れるから魔族に近いと。
「……という訳でホーリーインキュバスのために人間の女性を幼いうちに1人、
幼いホーリーサキュバスを1人幼いうちにと赤子の段階で交換した、それで友好が成り立っている」
「なるほど、だから冒険者立ち入り禁止区域に」「SS級冒険者のみ、真実を一部話して我々の味方になるならと秘密裏に許可を出しているそうだ」
そのあたりの管理を、
伯爵家とその中の教会に居た聖女、
タリーシャ様ね、がやっていたと、ちなみに後継聖女はすでに街の教会に居るそうで。
「そこまではわかりましたが、なぜファロラは僕と結婚を」
「私に話させて」「ファロラ」「大前提としてセルフィ、好きよ」「て、照れる」
「あのね、私たちホーリーサキュバスは魔族領から遠く離れると魔力切れを起こすの」「死んじゃうの?」「そうよ、伯爵領はその影響内だから平気だけど」
だからウチの辺境伯領に来なかったのか、幼い頃に誘っても。
「でもねセルフィ、人間から魔力を補充すれば生きられるのよ」
「吸うんですか、でも、魔力を吸われた人間は」「その魔力で足りなかったら生命力を、普通の人間なら1回で死ぬわ」
「さすがサキュバス」「でね、魔力にしても相性があって、勇者の魔力であれば濃いから少ない量で済むの」「すなわち」「セルフィの魔力よ」
僕かあ。
「わかるの?」「ええ、特に魔力を発散できない、使用できない勇者は溜まった分、魔力がどんどんどんどん濃くなって、造り出される魔力も濃厚に」
「僕の魔力ってそうなの?」「ええ、近くに居るだけで湯気のように漏れ出てるのを感じるの、傍にいるだけで私たちにとってはご褒美みたいなものよ」
「それじゃあ、実際に吸ったら」「最初は気絶しちゃうかも、どっちも」「ひいい」「大丈夫、出来るだけやさしくするから」「って、具体的な吸い方は」
方法についてのレクチャーは、省略。
「……まあ、わかってはいたでしょう?」
「そこは僕も18歳なので」「人間の法律に乗っ取って、結婚すれば問題ないでしょ?」
「いやそういう問題?!」「ちなみに私は勇者だけど、魔族の勇者だから自分や仲間に魔力の補充は出来ないわ」
それはまあ、
理屈はなんとなくわかるような。
「で、僕はどうすればいいの」
「こっちの魔族領で、ホーリーインキュバス、ホーリーサキュバスの血が濃くなっちゃって」
「あっ、大陸の他の場所で仲間探しを」「同族探しね、と同時に人間相手でも勇者魔力の高い人間なら、可能性は無くは無いらしいわ」
それで結婚かあ、
と思ったら今度はルビアさんがこっちへ、
タリーシャ様を看るのはリムラさんに交代したらしい。
「さすがにファロラと貴方ふたりだけでは行かせられませんわ、
それに人間勇者相手の子作り実験もファロラだけだともったいないですの、
ですから私達3人も一緒に、冒険者としてついて行きますわ、側室とでも思っていただけまして?」「えええええ」
嫁がサキュバス4体?!
「タリーシャ様!」
「これから1年、ここから魔族領へ出入りして、冒険者パーティーとして鍛錬を積むと良いわ、
それで実績を上げたら私が大聖女の権限で、4人を教会から出て冒険者になる許可に判を押すわ」
作ってある書類に入っていそう、いや入っているのだろう。
「そうなると」「人間としての戸籍も証書も、しっかりしたものになるわ」
「胸を張って人間に化けていられると」「人間として扱われるわ、ファロラはセルフィと籍を入れた時点で」
「ええっと、いつ籍を」「今からよ」「えええ」「婿になりに来たんでしょう?」「ま、まあそうですが」「嬉しい!!」
こうして僕は、
書類上ではさっさとファロラと入籍するのであった、
ちなみに教会員との結婚はその教会長の許可が居るが、その書類もタリーシャ様が。
(あーあ、サキュバスに婿入りかあ)
でもなんだろう、
理由はわからないけれども、
ちょっと妙な興奮を覚えたのであった。
「セルフィ、嬉しいわ」
「うん、ファロラ、いずれは結婚式も」「ね」
こうして冒険者としての鍛錬も始まるのだった。




