第4話 そもそもの回想 前編 辺境伯家を追放、伯爵家へ婿入り?
「セルフィよ、18歳になった今、義務は終わった、我がボワルネアルー辺境伯家から、追放する!!」
父上から発せられた厳しい言葉、
しかし何だろうこの空間、張りつめた感じもなく、
なんとなくゆるいというか、聞いた方も緊張感が無いとでも言うか、僕の返す言葉も当然……
「でしょうねぇ~~~」
「いやセルフィよすまない、言ってみたかっただけだ」
「お約束ですよね、でもそれだと父上、将来僕に『ざまぁ』されるのでは」
笑みをこぼす母上、
いや決して冷笑や嘲笑では無い、
ただ単に『面白い洒落を言った』という感じだ、ノリ的に。
「ねえセルフィ、私たち、セルフィに何か悪い事でもしたかしら?」
「いえ母上、ここまでとっても良くして貰いました、そのうえ3年も猶予を」
「そうだなセルフィ、貴族の子は15歳で成人、そこから3年の間で我が辺境伯家の役に立てるならと思っていたが」
実際は冒険者になるための、
最低限、死なないための特訓をして貰っていた、
その間に僕の勇者スキルが1つでも花開けば、と自分もみんなも思ったのだが。
(18歳で憶えなければ、もう駄目だそうです)
つまり僕は、もはや名ばかり勇者、
幼い頃の鑑定で判明した時は家族全員、
いや辺境伯家全体で、たいそう喜んでくれたそうなのだが。
「一応は、待っていてくれたんですよね」
「ああ、勇者という血は一応ある、それをどこかが、受け入れるため婿に貰ってくれる貴族を探したが」
「勇者と結婚すれば勇者が産まれる、なんて話は聞いた事ありませんからね」「ああ、勇者は遺伝はしないとされている」
だけど勇者が貴族の家に居るというのは、
それなりのちょっとしたプレミアムにはなる、
珍しいからね、とはいえその勇者としての実績が無ければ『だから何?』ともなってしまう。
(もっと大きな、魔物から領地を守ったり隣国と戦争する戦闘系の貴族なら、無能でもお飾り勇者として、使いようも無い訳じゃないけど……)
弱いうえ6男じゃあ、その飾りにも使えない、
兄の何人かがすでに他の領地で武勲を立てているからね、
有能な剣士は無能な勇者より上なのです、それを騙せるほど貴族も世間も甘くは無い、なので……
「じゃあ僕はこれから冒険者ですね」
「そうなる、メンバーに恵まれれば無能勇者でも何とかなるだろう、
大きな武勲を立てれば騎士爵、勇者であれば勇者爵が貰える」「よっぽど強くないとですけどね」
執事のバスティが手紙を持ってきた。
「幼い頃からよく遊びに行っていた、フェルカエール伯爵家を憶えているか」
「あっはい、避暑地の、夏に毎回行っては、その」「幼馴染の少女にやられていたな」
「彼女も彼女で勇者なのでしょう、さぞかし良い貴族のお嫁さんに」「彼女の婿になれ」「え」
脳裏に彼女の、
ファロラの屈託ない笑顔が思い浮かぶ。
「でも彼女って教会職員でしたよね、シスター見習い」
「一応、伯爵家の養子になったようだ、女性では特に珍しい勇者だからな」
「何かに使えると」「ただ彼女は勇者スキルが7つもあった、単純に領兵にも出来るし、教会の神官勇者にもなれる」
そう、教会も教会で兵士が居るというか、
国に騎士が居て一般で冒険者が居るように、
そしてそこに勇者も当然居る、たまーにそれぞれが協力しあうが、それはよっぽどの時だ。
「そんな彼女の婿に、ですか」
「なんでも確かめたいそうだ、勇者と勇者の間に勇者が産まれるか」
「遺伝は否定されたのでは」「一応の確認だ、夫婦揃って勇者という前例はなかなか無いからな」
まさかの実験台である。
「でも教会所属でしたら、よく教会側が許しましたね」
「それなのだが、私は詳しくは知らないが、訳アリらしい」
「はあ」「あと本人の希望だな、セルフィと一緒に冒険者にと」
えっ、ファロラの方から?!
「いやいや、あんなお姫様みたいな美少女」
「今はセルフィと同じ18歳だ、もう少女では無いぞ」
「前に会ったのは14歳、確かにその時点で大人びてはいましたが」
これなら勇者関係なく、
どっかに身請けされるか、
教会の広報に使われるんだろうなあと。
(むしろ、教会で独身のおっさんと結婚させられる、とさえ妄想した)
教会員という時点で、
恋愛みたいなものはあきらめてたんですよ、
だから結婚式で綺麗なドレス姿が見られたらなあと思って別れたのが最後だった。
「んっと、じゃあ僕は」
「一応、我が辺境伯家から伯爵家へ婿を出したという事実だけはセルフィのために残す」
「あっ、僕のためですか」「そうよセルフィ、追放といってもこの家に居た事実は刻んでおきたいわ」
それなりに愛情は受けてきたからね、
僕に勇者スキルが生えるのを18歳まで待ってくれた訳だし、
一応、冒険者としてすぐ死なないように鍛えてくれた、得は無いはずなのに、親として息子に。
(衛兵として残さず、最後は貴族としての立場を僕に全うさせてくれる訳だ)
いつもは部屋から出てこない、
次女の姉上も身体を半分覗かせて見に来てくれてるし!
そういう意味では両親、きょうだいから嫌な思いは1度もした事はない、だから喜んで受け入れよう。
「わかりました、婿に出て冒険者に、ですね」
「ああ、ただ1年は教会での奉仕が必要になるようだ」
「そういえばありましたね、教会所属者を冒険者にするのに連れ出す掟」
基本的に教会員を引き抜くには、
冒険者であれば勇者でないといけない、
それは貴族が養子に引き抜いてもである、籍は残っているかららしい。
(このあたりの詳しいことは、あっちで聞けるかな)
とにかく僕は、互いに納得した状況で、
辺境伯家を追放され、伯爵家の養子である神官勇者の婿になり、
そこかた1年間、教会で働いてからともに教会と貴族を抜けて、冒険者となる訳かあ。
「セルフィ」「あっ、レオタル兄上!」
長男でもうすぐボワルネアルー辺境伯家を継ぐ。
「本当に困ったら、夫婦揃って戻ってきても良いぞ」
「いえ、だったら最初から出ません、僕は勇者として、冒険者を頑張ります」
「そうか、ランクが上がれば我が辺境伯家から依頼を出そう」「魔物が弱いここでですか」「王都への警備とか、な」
まあ、それくらいなら。
そろそろシメかな、父上が剣を持ちだした。
「これは新たな勇者剣だ」
「あっ、辺境伯家に代々伝わる」
「そんな訳は無い、我が領地の鍛冶屋に献上させた」
鞘から抜くと黄金の剣だ、
鍛冶屋さん頑張ったなぁ~、
でもこれ観賞用じゃ、献上しろとしか言われてないと、そうなるか。
(困ったらこれを売れってことかな)
確かに稽古でボロくなった、
いつもの剣よりもはマシだね、
対人や魔物相手の戦闘的にも。
「辺境伯家までの馬車と護衛はつけよう」
「「セルフィ」」「あっ、ジャブス兄さんとジャクス兄さん!」
「お別れだからな、到着までは面倒見てやる」「途中で最後の稽古もな!」
4男と5男、
近い兄さん2人が護ってくれる、
贅沢だなあ、道中で後ろからぶすりぶすりとかされたら嫌だけど!
(それは無い、と信じてはいるけどね)
さあ、もう出発だ。
「それでは父上母上、お世話になりました」
「うむ、嫌なことがあって泣いて帰ったら、また面倒見てやろう」
「でもそんな弱い子じゃないわよね?」「はい、勇者として、冒険者Cランクパーティー目指して頑張ります!」
こうしておそらくこの大陸で最弱勇者たる僕は、
辺境伯家を一応は『追放』という形になるのだろうか、
もしくは伯爵家への『婿入り』ということで、出されたのであった。
(幼馴染のファロラ、あれから更に美人になっているのかなあ……)




