第32話 教会で待っていたのは病人でも怪我人でもなく……
「ふう、無事帰還っと」
「時間かかったな」「ええシグリヌさん、まあそこは仕方ないですよ」
「転移魔方陣が使えませんおのね」「でも~、結構深くまで潜れました~」
そう、99階まで潜ったあたりで、
どうやら100階は転移魔方陣による関所的な場所らしく、
絶対人目につくので逃げるようにテレポートで31階まで戻った。
(それで後はほぼ歩いて帰ってきました)
いやあそれでも充実した狩りでした、
僕も素材回収に大忙しでしたよ、ええ、
魔族領のダンジョン以来かな、みんな褒めてくれたし!
(大前提として、僕が居ないと成り立たないパーティーだからね)
勧誘とかしてきた人たちは、
それがわからないから僕をスルーしてしまう、
このパーティーの本体が僕だという事を見抜ける冒険者は……
(居たら逆に困るな)
勇者鑑定スキルが高レベルで、
ホーリーサキュバスの擬態魔法すら見破るのが居たら、
いや魔族領の魔王(味方)によれば魔力切れでも起こさない限り、それでも見破られないらしいが。
「セルフィ、教会に馬車が」
「本当だファロラ、行きより立派、ってこれ教会のじゃないな」
「病人を連れてきたのかも知れないぞ」「でしたら治療ですわね」「お任せ下さい~」
ということで急いで中に入ると、
おお、銀色の鎧の集団がずらり、
そして中央には金色の鎧の大男が!
「来たか、我が名はトゥリア、王宮対魔騎士団の団長である」
「はいはいはい、お城の、どうも冒険者パーティー『ホーリーアンライヴァルド』のリーダー、セルフィです」
「セルフィとやら、話がある」「その前に怪我人は」「……そういえばボンドの腕の筋、ウチの王宮聖女でも治せなかったな」
これまたいかついのが、
ずいっとやってきた、腕を見せる、
痛々しい傷跡……これ神経をやられてるな。
「リムラさん」
「はい~、では~」
「大丈夫そうですか」「……治りました~~」
腕を振り回すボンドさん。
「凄い! あっ、ありがとうございますっっ!!」
深々と頭を下げられた、
見かけのわりに、すげえきっちりしている、
さすが王宮騎士団員か、そのあたり教育ばっちり。
「教会が法外な値段をふっけたボンドの治療を、いとも簡単に」
「あっお代は自由です、お好きな金額を教会に言って払って下さい」
「お主らは教会員か?」「違います、僕以外は元教会員でうが、このあたりは最低限の義理とでも言いますか」
ほうほう頷くトゥリアさん。
「その義理、我が国王陛下に向ける気はないか?」
「つまりは」「王宮お抱え対魔パーティーに」「スカウトですか」
「もちろんお主らの実力は耳に入っている、教会で愉快な決闘をした事もな!」
あーこれスパイでも居たのかな、
そうなるとちょっと教会を裏切る事にもなりそう、
ただ、これだけリムラさんの治癒能力を見せつければ、それだけでも欲しいか。
「僕らはあくまで冒険者として旅をしたいのですし、王都に固執は、もっと言えばこの国に……」
「おっと失礼、怪我人が来たようだぞ」「えっ」「すまねえ、しくじった、うちのタンクを頼む!」
「うっわ血まみれ、てこれ急ぐなリムラさん」「ファロラさんも~」「ええ、久々にW回復ね、行くわよ」
本当に急を要する時は、
こうして合体回復魔法をするんですよ、
そうすると数秒後死ぬような大量出血でも何とかなる。
「……間に合いました~」
「命は助かったわ、ただ当分は動けないわね」
「本当か? 本当に大丈夫なのか?!」「ウチの2人がそう言っているから大丈夫ですよ」
泣きながら喜ぶパーティーメンバーたち!
「あ、ありがとう」
「お代は事情を説明して教会に、ふっかけられても知りませんが」
「そ、そこは正直に言わないと駄目か?」「まあ今回はさすがに、もちろん僕らとしてはお代自由ですが」
さすがに最大手クランだから、
何とかするだろうしこういうのも勉強だろう、
小ずる賢く、上手く軽傷だったと思わせる言い方で安く済ませるなら、それもまた才能だ、良心は多少痛むかも知れないが。
「とにかくウチのクランの馬車で王都まで!」
「手伝ってやれ」「「「「はっっっっ」」」」」
騎士団の連中が運んであげてる、やさしい、
まあさすがに死ぬ直前の怪我人は話より優先させるか、
そして改めて僕の方を見るトゥリアさん、真剣な表情だ。
「その力、王宮騎士団に欲しい」
「やはりリムラさんをですか、元教会員で有能なのはスカウトされると聞きましたが」
「いや、全員だ」「ファロラさんもですか勇者ですものね」「全員だ!」「前衛と魔法使いもですか」「お主もだ!!」
えっ僕っすかっていう。
「騎士団に組み込むならバラしますよね、僕はアレですかトイレ掃除か備品磨きですか」
「すでに情報は入っておる、お主のパーティーはお主なしでは回らない、ある意味、存在できないと」
「どういう情報ですか」「色々と複合的にな、推測も混じっておるが、間違いなくお主あってのパーティーだ」
ここまで踏み込んで見てるスカウトは初めてだな、
そういやずっと、治療の時以外はリーダーの僕しか見ていない、
他に目移りしたり僕以外に個別スカウトすると、みんな嫌がるのを知っているかのように。
(まさか、ウチのメンバーが全員、サキュバスだってバレてるんじゃ?!)
この中にしれっと王宮勇者が居て、
ホーリーサキュバスの擬態を魔力がある状態でも見破れるスキル持ちが居たとしたら……
まあそれで脅されたら逃げるか、別に王都にそこまで固執はしない、貴族の息子としてはアレだけど、もう追放されてるし。
「ええっと、真眼をお持ちなのはわかりました」
「ああ、貴殿のパーティーはお主に本気で惚れておる、勇者同士の婚姻も情報は入っている」
「……貴族同士の話なんですが、あっだから知っているのか」「他の3人が側室状態なのもな」
良かったそっちルートか、
単純に貴族としての婚姻繋がりと、
あとは彼女達の僕への反応、確かに愛情と言えなくもない。
(ただ、僕から見たら捕食者の目だけどね!)
もちろん単なる『餌とサキュバス』の関係では無いのだけれども。
「どうだ、王宮騎士団であれば生活を保障しよう、パーティーも離したりはしない」
「……魅力的なお言葉ですが、僕らはあくまで冒険者としてやっていきたいので、はい」
「冒険者よりも激しく楽しく誇らしい戦いが待っているが、魔物相手のな」「えっと、よっぽどの時は依頼して下さい」
まあ冒険者ギルドが王城に助けを願う事はあっても、
逆はなかなか無いらしいけどね、あって戦争のときくらいか、
秘密裏で、水面下で何か依頼していたら知らないけれども……
(ってこのあたりは憶測だからね)
意外と人間的に良さそうな団長さんだけど、
ここは丁重に、きちんとお断りしようっと。
「では向こう20年、いや30年の依頼ということでどうだ」
「いやいやいや、そういうのはやめて下さい、あくまで僕たちは」
「わかった、では貴殿らについて改めて考えて、また接触させて貰おう、失礼する」
……ぞろぞろと出て行った、
ふう、これで大きい組織のスカウトは最後かな、
教会でわざわざ、どのくらい待ってくれていたんだろう?
(あっ、せっかくだから王都まで馬車で乗せて貰う手もあったな)
治療費の一部としてね、
でもそれだとお城の敷地内まで連れて行かれそう、
一応、さっきあった事を教会で話しておくか、師匠のお話を聞くついでに。
「さあ、王都に戻って、冒険者ギルドで素材を売ろう」




