第八話「バーサーカー地球人」
小型艇が、母艦のドッキングベイに着陸した。
梅子は、操縦席の熊型海賊を見下ろした。
「ごめんね」
ボカッ。
拳が海賊の頭頂部に振り下ろされ、彼は白目を剥いて気絶した。
梅子は、鼻をつまんで、声を変えながら通信機に向かった。
「俺はちょっと、寝ていくからー。疲れたー」
『了解。ゆっくり休め』
通信を切ると、梅子は工具箱から銅線とバンドを取り出した。気絶した海賊を操縦席に、ぐるぐる巻きにしていく。
「これでよし。ぴくりとも、動けないでしょ」
倒れていた爬虫類型の海賊から制服を剥ぎ取り、急いで着込む。ヘルメットで顔を隠せば、遠目にはバレないはずだ。
梅子は深呼吸をしてから、エアロックを開けた。
母艦の格納庫は広大で、いくつもの小型艇が並んでいる。作業員たちが、忙しそうに動き回っていた。
堂々と歩く。怪しまれないように、自然に振る舞う。梅子は、拘留エリアへの道を探した。
通路を進んでいると、前方から数人の海賊が歩いてきた。梅子は緊張したが、彼らは特に疑う様子もなく、通り過ぎていく。
やがて、拘留エリアらしき場所にたどり着いた。重厚な扉の向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「だから言ったっすよ! ロボットから情報を取った方が、早いって!」
ラエルザの声だ。
生きている。
梅子は、安堵で一瞬、足が止まりかけた。それを振り払うように、扉の前に立つ見張りに近づく。
「交代の、時間だ」
鼻をつまんだような声で言うと、見張りは首を傾げた。
「まだ早いんじゃ……」
その瞬間、梅子の拳が、見張りの顎を捉えた。見張りは音もなく、崩れ落ちる。
扉を開けると、檻の中に仲間たちがいた。全員が梅子を見て、目を丸くした。
「梅子!?」
「しっ! 静かに!」
梅子は檻の鍵を探した。気絶した見張りのベルトから鍵束を見つけ、急いで檻を開ける。
「助けに来ました。急いで」
しかし、廊下から足音が近づいてきた。複数の敵だ。
「見つかった!」
梅子は、奪ったプラズマ銃を構えた。
廊下から飛び出してきた海賊たちに向けて、早撃ちで応戦する。ビーム光が飛び交う中、梅子は素早く動いて敵の攻撃をかわしながら、正確に撃ち返していく。
「うおおおお!」
弾切れになると、梅子は銃を投げ捨てて格闘戦に持ち込んだ。
拳一発で海賊を吹き飛ばし、回し蹴りで別の敵を壁に叩きつける。動きには、迷いがなかった。考える前に、体が反応している。子供の頃の「お稽古」が、無意識のうちに、戦闘の型として体に刻まれていた。
「す、すげえ……」
クウラが、呆然と呟いた。
「さすが、バーサーカー地球人!」
ケルケンの言葉に、梅子は戦いながら嫌な顔をした。
「あなたたち、地球人を、なんだと思ってるのよ!」
敵の海賊たちも、梅子の戦いぶりを見て、震え上がっていた。
「地球人だ! アマノガワの、地球人だ!」
「やばい、パニッシャーの、同類か!?」
「逃げろ! バケモンだ!」
海賊たちが、慌てて逃げ出し始めた。地球人という言葉だけで、これほど恐怖を与えるとは。
梅子は、複雑な表情で仲間たちを振り返った。
パニッシャー。あの名前が、また出た。海賊たちの逃げ方は、明らかに本気だった。地球人=バーサーカーという認識が、銀河の裏社会では常識になっているらしい。
「早く! 船を奪って、逃げるわよ!」
ラエルザが、我に返って叫んだ。
「みんな、梅子が暴れてる間に、飛空艇に乗り込むっす! 急いで!」
仲間たちは、慌てて走り出した。梅子は殿を務めながら、追ってくる海賊たちを次々と倒していく。
移動しながら、ケルケンが梅子に話しかけた。
「梅子、君の家族も、こんなに強いの?」
梅子は、苦笑した。
そういえば、父親も、よく重いものを軽々と持ち上げていた。一度、故障した小型宇宙船を一人で持ち上げて移動させているのを見たことがある。
「父は売れない小説家だし、祖母も、普通の人だったけど……確かに、私より力持ちだったわ」
その言葉に、クルー全員が、震え上がった。
「そ、それ以上の、怪力!?」
「地球人って、みんなそうなの!?」
梅子は、首を傾げた。
小さい頃から祖母のニーナに受けていた「お稽古」のおかげだと思っていた。あれは一般的な地球の教育方針だと、ずっと信じていたのだが。
「多分、地球の教育がいいんだと思う。祖母が、毎日鍛えてくれたから」
「毎日!?」
仲間たちの恐怖は、最高潮に達していた。
格納庫にたどり着くと、手頃な小型艇があった。
全員が乗り込み、クウラが慌てて操縦システムを起動させる。
「クキキキ……よし、エンジン起動!」
しかし、格納庫の扉が、閉まり始めた。敵が気づいたのだ。
「まずいっす!」
ラエルザが叫んだ瞬間、梅子が船から飛び降りた。
「梅子!?」
梅子は全速力で、扉の制御パネルに走り、渾身の力で殴りつけた。パネルが火花を散らして壊れ、扉が再び開き始める。
「今よ!」
小型艇が梅子を回収しながら、格納庫から飛び出していく。後方から、母艦の武器が火を噴いた。
「回避!」
ラエルザの操縦で、小型艇は攻撃をかわしながら、加速していく。
その時、前方に、銀河防衛隊第七艦隊の姿が見えた。
「援軍だ!」
歓声が上がる中、梅子はへたり込んだ。
「梅子……」
ラエルザが、振り返った。
「ありがとう、っす。本当に」
他の仲間たちも、感謝と畏怖の入り混じった視線を向けてくる。
梅子は、照れくさそうに笑った。
地球人がバーサーカーだなんて、とんでもない誤解だ。でも、今はそれを説明する気力もなかった。




