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第七話「逆襲」



 援軍への連絡は、成功した。

 しかし――梅子は、新たな問題に直面していた。

 交換したばかりの酸素ボンベの残量表示を見て、血の気が引く。


「え? なんで、二分しかないの!?」


 予備ボンベも、長期間の放置で劣化していたのか、ほとんど残量がなかった。このままでは、援軍が到着する前に、窒息してしまう。

 梅子は、必死に考えた。

 酸素が、必要だ。どこかに……そうだ、敵の船だ。

 動けなくした敵の小型艇。あの中なら、酸素が充満しているはずだ。

 でも、中には、海賊たちがいる。


 残り、一分三十秒。

 迷っている時間は、ない。


 梅子は意を決して、最初に破壊工作をした小型艇に走った。

 ハッチは壊れて、半開きになっている。そこから中を覗くと、二人の海賊が、修理に夢中になっていた。


「くそ! なんでこんなことに!」


「早く直さないと、ボスに殺されるぞ!」


 今しかない。

 梅子は素早く、船内に滑り込んだ。エアロックを通過し、内部の気圧が安定していることを確認する。酸素補給装置の場所を、必死に探す。

 あった。

 壁に設置された、緊急用の酸素補給ステーション。梅子は急いで、そこに向かった。

 しかし――運悪く、角を曲がったところで、海賊の一人と鉢合わせしてしまった。


「なんだお前は!?」


 爬虫類型の海賊が、プラズマ銃を抜こうとする。

 梅子は、反射的に動いた。

 全力の、右ストレート。

 海賊の顎に、梅子の拳がめり込んだ。ゴキッ、という鈍い音と共に、海賊は白目を剥いて倒れた。


「ご、ごめん……」


 思わず謝ってしまう梅子。生まれて初めて、人を殴り倒した。それより、相手の顎の骨を砕いた感触が、まだ拳に残っていた。

 でも――今は、感傷に浸っている場合ではない。

 倒れた海賊から無線機を奪い、イヤホンを耳に当てる。


『修理状況はどうだ?』


『まだ、時間がかかる。ハッチの金具が、完全に外されている』


『母艦への輸送は、完了したか?』


『ああ、防衛隊の連中は、全員収容した。後は、奴隷市場に売り飛ばすだけだ』


 梅子は、歯を食いしばった。

 仲間たちは、母艦に連れて行かれてしまったのか。


 酸素の警告音が、最高潮に達した。

 慌てて、補給装置にスーツを接続する。新鮮な酸素が流れ込んできて、ようやく一息つけた。

 通信から、さらに情報が入ってくる。


『見張りは、最小限でいい。どうせ援軍が来る頃には、俺たちはとっくに逃げている』


 つまり、壊れた船には、操縦者と修理担当者しか残っていないということか。梅子の頭に、ある計画が浮かんだ。


 もう一人の海賊が、倒れた仲間を探しに来る前に、行動しなければ。

 梅子は、船内を素早く移動し、操縦室に向かった。


「おい、どうし……」


 操縦席にいた熊型の海賊が、振り返った瞬間に、梅子の拳を受けた。

 今度は、手加減なしの一撃。

 海賊は操縦パネルに顔面から突っ込んで、気絶した。


「よし、これで……」


 梅子は気絶した海賊を引きずり起こし、頬を軽く叩いた。


「起きて。起きなさい」


 海賊が、うっすらと目を開ける。

 梅子は、奪ったプラズマ銃を、突きつけた。


「言うことを聞いて。母艦に、向かうの」


「な、なんだと……」


「聞こえなかった? 飛ばして。今すぐ」


 梅子は、銃を海賊の額に押し当てた。本当は撃つつもりなんてないが、相手にはそれが分からない。声を低く、平坦に保つ。怒りも恐怖も見せない。父譲りの何かが、自然と表に出ていた。


「わ、分かった! 分かったから、撃つな!」


 海賊は震える手で、操縦桿を握った。しかし、ハッチが壊れている問題がある。


「ハッチが、閉まらないと、飛べない」


「私が、何とかする」


 梅子はエアロックに向かった。外れた金具の部分を確認する。完全に壊れているわけではない。強引に押し込めば、一時的には閉まるはずだ。

 梅子は、全身の力を込めて、ハッチを引き寄せた。金属が軋む音を立てながら、少しずつ閉まっていく。


「うおおおお!」


 叫び声を上げながら、梅子は渾身の力で、ハッチを押し込んだ。歪んだ金属同士が噛み合い、なんとか密閉状態を作り出す。

 冷や汗が、額を伝う。それでも、間に合った。


「今よ! 飛んで!」


 海賊が慌てて、エンジンを起動する。小型艇が震動し、ゆっくりと浮上を始めた。


「母艦に、通信を」


 梅子が命令すると、海賊は震え声で、母艦を呼び出した。


『こちら、二号艇。ハッチの応急修理、完了。帰還する』


『了解した。三号艇はどうした?』


 梅子が銃を向けると、海賊は慌てて答えた。


『まだ、修理中だ。先に戻る』


『分かった。ドッキングベイ三に、入れ』


 小型艇は、母艦に向かって加速していく。

 梅子は操縦席の後ろに立ち、銃を構えたまま、海賊を監視した。


「変なことしたら、撃つから」


「し、しない! 何もしない!」


 母艦が、近づいてくる。

 巨大な船体に、梅子は圧倒されそうになった。一隻で、街一つ分はあるかもしれない。あの中に、仲間たちがいる。助け出さなければ。

 でも――どうやって?

 相手は、武装した犯罪組織の母艦だ。一人で乗り込んで、何ができるというのか。

 それでも、やるしかない。仲間を見捨てることは、できない。


 通信機から、防衛隊第七艦隊の声が、聞こえてきた。


『GDF-七七二九、現在位置を確認。五分で、到着する』


 五分。

 その間、持ちこたえられるだろうか。


 母艦のドッキングベイが、開いた。

 小型艇は、ゆっくりと中に入っていく。

 梅子は、深呼吸をした。

 ここからが、本当の勝負だ。


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