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第五話「捕虜」



 梅子は小惑星の岩陰から、巡察艇の周囲を偵察していた。船の外装に小さな修理が必要な箇所を見つけたので、確認に出ていたのが、幸いした。

 通信機から、突然、騒がしい音が響いてきた。


「見つけたぞ! 巡察艇だ!」


 敵の声だ。梅子は慌てて、岩陰に身を潜めた。宇宙服のヘルメット越しに、ブラックネビュラの兵士たちが、巡察艇を包囲する様子が見える。


「出てこい! 抵抗しても、無駄だぞ!」


 しばらくして、エアロックが開き、ラエルザたちが両手を上げて出てきた。プラズマ銃を向けられ、一列に並ばされる。


「他に仲間は、いるか?」


 爬虫類型のボスが、威圧的に問いかけた。ラエルザが震え声で答える。


「お前らの銃撃で、一人死んだっす!」


 梅子は、息を呑んだ。

 自分のことを、死んだことにしてくれている。賢明な判断だった。

 ボスが部下に合図すると、ボルトが引きずり出されてきた。メカニックロボの彼は、すでに片腕がもぎ取られている。


「このガラクタから、情報を引き出せ」


「やめてくれ! 仲間なんだ!」


 クウラが叫んだが、ボスは冷笑を浮かべた。


「じゃあ、お前らを締め上げて、聞き出してやる」


 その瞬間――クウラの態度が、豹変した。


「あ、いや、そいつから壊してください! 所詮、ロボットですから! 直せばいいし!」


「そうっす! 所詮、消耗品っすよ!」


 ラエルザも慌てて、同調する。ケルケンも、粘土の体を震わせながら頷いた。


「俺をやる前に、このロボットからデータを取り出した方がいいぞ! 効率的だろ?」


 梅子は、岩陰で呆れた。


「だ、ダサい……」


 思わず呟いてしまう。仲間たちの手のひら返しの速さに、脱力感を覚えた。

 でも、責められない。生きるためには、仕方ない。問題は、このままでは全員が殺されるか、奴隷として売られてしまうことだ。


「実は、ブラックネビュラって、かっこいいと思ってたんだよね」


 クウラが、媚びるような声を出した。


「クキキキ……俺、技術者として腕はいいんだぜ? 仲間に入れてくれないか?」


 ボスは、鼻で笑った。


「使えない奴は、要らん。お前らは荷物の在り処を吐いたら、奴隷船行きだ」


 梅子は、焦った。呼吸装置の残量を確認すると、あと三十分しかない。どうすればいい?

 相手は十人以上いる。全員が武装している。熊のような巨体の傭兵、爬虫類型のボス、その他にも屈強そうな海賊たち。とても一人で立ち向かえる相手ではない。

 自分は、丸腰だ。怪力といっても、銃には勝てない。


「どうしよう……どうしよう……」


 小声で呟きながら、梅子は必死に考えた。このままでは、仲間が連れ去られ、自分はこの小惑星に置き去りになる。酸素が切れれば、死ぬしかない。

 ボルトが解体されていく音が、聞こえてきた。機械的な悲鳴のような電子音が、真空の宇宙には響かないが、通信機を通じて伝わってくる。

 ボルト。文句一つ言わずに任務を遂行してきた、寡黙な相棒。彼の体が、敵の手で、無造作に解かれていく。


「データストレージを、発見。解析を、開始する」


 敵の技術者らしき声が、聞こえた。


 梅子は、歯を食いしばった。

 こんなことになるなら、田舎から出てくるんじゃなかった。父の言うことを聞いて、おとなしく瞑想の星で暮らしていれば、良かった。

 でも――もう、後の祭りだ。


 母艦のエアロックが開き、さらに増援が降りてきた。状況は、悪化する一方だ。


「荷物は、どこだ!」


 ボスがラエルザの襟を掴んで、持ち上げた。小柄な彼女の体が、宙に浮く。


「ほ、本部に送ったっす! 本当っす!」


「嘘を、つくな!」


 ラエルザが、地面に叩きつけられる。宇宙服があるとはいえ、相当な衝撃だったろう。

 梅子は、拳を握りしめた。助けたい。でも、どうやって?

 岩陰から、必死に何か武器になるものを探した。小さな岩のかけら、壊れた金属片。どれも、銃を持った相手には無力だ。


 その時、母艦から、新たな通信が入った。


「ボス、本部から至急の連絡です。例の件で、すぐに戻れと」


 ボスが、舌打ちした。


「面倒な……こいつらを船に放り込んでおけ。後で、処分する」


 梅子は、チャンスだと思った。母艦が離れれば、見張りの数も減る。何とかして、仲間を助け出せるかもしれない。

 しかし、呼吸装置の警告音が鳴り始めた。残り、十五分。時間との勝負だった。


 仲間たちが、縄で縛られて母艦に連行されていく。ラエルザが最後に巡察艇を振り返った時、その視線が一瞬、梅子の隠れている方向を、向いた。

 気づいているのだろうか。梅子がまだ生きていることを。

 でも、ラエルザは何も言わず、大人しく連行されていった。最後まで、自分の正体を、敵に悟らせなかった。それが、小柄な指揮官の、最後の意地だった。


 梅子は、一人、小惑星の上に取り残された。

 見上げると、母艦がゆっくりと上昇していく。しかし、まだ小型艇が二隻、見張りとして残っていた。


 どうする? どうすれば、いい?


 父の顔が、脳裏に浮かんだ。母の優しい笑顔も。兄と姉の、才能豊かな姿も。

 全部、振り切って飛び出してきたのに――こんな終わり方なのか。


「くそ……くそ……」


 梅子は、悔し涙を流した。

 ヘルメットの中で、涙が頬を伝う。拭うこともできない。

 でも、泣いている場合じゃない。

 残り時間は、あと――十分。

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