表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/29

第四話「囮作戦」



 小惑星帯を縫うように飛ぶ巡察艇。その周囲を、三隻のブラックネビュラの高速艇が、執拗に追い回していた。


「燃料残量、三十パーセントを、切りました」


 ボルトの報告に、ラエルザの顔が青ざめる。このままでは、あと二時間も持たない。


「くそっ、しつこい連中っすね」


 巨大な岩塊の影に滑り込みながら、ラエルザは歯噛みした。彼女の操縦技術は確かに優秀だが、燃料切れでは意味がない。

 梅子は、武器管制システムの前で、じっと画面を睨んでいた。敵は明らかに手加減している。生け捕りにして、押収品の在り処を吐かせるつもりなのだ。


「このままじゃ、ジリ貧だな」


 クウラが、ヘッドホンを外して呟いた。激しいドラムの音が、一瞬漏れる。


 その時、ケルケンが口を開いた。


「僕に、考えがあります」


 全員の視線が、粘土体の上等兵に集まる。彼はいつものイケメン風の顔を少し歪めて、真剣な表情を作った。


「エネルギー結晶の箱を一つ、宇宙空間に投棄します。敵は必ず、それを回収するでしょう」


「それで?」


「その隙に、僕が回収作業員に変装して、敵船に潜入します」


 梅子が、息を呑んだ。確かに粘土体なら、形を自在に変えられる。しかし、それは極めて危険な作戦だった。


「潜入して、どうするっすか?」


 ラエルザの問いに、ケルケンは自信を持って答えた。


「船の推進システムを破壊して、小惑星に不時着させます。他の船も当然降りてくるでしょうから、同じように機能を故障させる。その後、僕を回収してもらえれば、相手を置き去りにして、脱出できます」


 クウラが、口笛を吹いた。


「クキキキ……理論上は、可能だな。ただし、お前が失敗したら」


「失敗は、しません」


 ケルケンの断言に、梅子は不安を覚えた。彼とはまだ一年の付き合いだが、すでに大切な仲間だ。失いたくない。


「危険すぎます」


 梅子の反対に、ケルケンは微笑んだ。


「梅子、なんてことないさ、何、僕はほとんど不死身だから大丈夫さ!」


 その言葉に、梅子は何も言えなくなった。

 ラエルザが深呼吸をして、決断を下す。


「分かったっす。やりましょう」


 *


 準備は、素早く進められた。

 エネルギー結晶の入った小さな箱を、エアロックから放出する。予想通り、敵の一隻が回収に向かった。

 ケルケンは自分の体を、宇宙服を着た作業員の形に変化させていく。粘土の表面が水のように動き、皺の一本までも本物の作業員と見分けがつかなくなる。その様子を見守りながら、彼は振り返った。


「僕を、置いていかないでくださいよ」


 クウラが、不気味に笑った。


「当たり前だぜ。俺の辞書に、仲間を見捨てるなんて言葉は、存在しねえー。クキキキ」


 ラエルザが苦笑した。


「この笑い方さえなければ、熱いセリフなんすけどねー」


 梅子も頷きながら、ケルケンの肩を叩いた。


「必ず迎えに行きます。約束です」


 ケルケンは頷くと、エアロックから宇宙空間へ飛び出していった。小さな推進装置を使い、敵船へと接近していく。

 巡察艇のクルーたちは、息を詰めてモニターを見守った。ケルケンは見事に作業員のふりをして、敵船に乗り込むことに成功した。


「よし、第一段階クリア」


 クウラが呟いた瞬間、通信機から、ケルケンの小声が聞こえてきた。


『潜入、成功。これから機関室に、向かいます』


 十分後――。

 最初の敵船が、不自然な動きを始めた。エンジンから黒煙を吐きながら、近くの小惑星へと、不時着していく。


「やった!」


 梅子が、小さく歓声を上げた。計画通りだ。他の二隻も、仲間を助けるために、小惑星に降下していく。


『二隻目も、成功。あと、一隻です』


 ケルケンの報告に、全員が安堵の息をついた。このまま上手くいけば、脱出できる。


 しかし、その時だった。

 センサーが、新たな反応を捉えた。

 上空から、今までとは比べ物にならない大きさの船が、降下してくる。中型の戦闘艦だった。


「な、なんすかあれは!」


 ラエルザが叫んだ。ブラックネビュラの母艦だろうか。予想外の展開に、梅子たちは凍りついた。


 小惑星の地表で、母艦からエアロックが開く。そこから、威圧的な雰囲気を纏った大型のエイリアンが、姿を現した。爬虫類のような鱗に覆われた肌、鋭い牙を持つ口。明らかに、組織の幹部クラスだ。


 通信機から、怒号が響いてきた。ケルケンが傍受したものだった。


『貴様ら! あの荷物を渡せなかったら、俺たちは、終わりだぞ!』


 幹部らしきエイリアンが、部下たちを怒鳴りつけている。


『あれはアンナムに卸す予定の、特別な品だ! お前ら、死ぬ気で探し出せ!』


 梅子とクウラが、顔を見合わせた。アンナム。その名前に、聞き覚えがある。アマノガワ同盟の、中核企業の一つだ。


『申し訳ございません、ボス。必ず、取り返します』


 不時着した船の船長らしき声が、聞こえる。しかし、次の瞬間――プラズマ銃の発射音が、響いた。


『無能が。責任は、命で償え』


 ケルケンの息を呑む音が、聞こえてきた。


『た、大変なことに、なりました。船長が……撃ち殺されました』


 梅子たちは、言葉を失った。

 仲間の失敗を、その場で処刑する。これが、ブラックネビュラの掟なのか。


『見せしめ、です。他の部下たちも、震え上がっています。こちらは……どうしましょう』


 ケルケンの声に、初めて恐怖が混じっていた。


「すぐに、戻って来いっす!」


 ラエルザが叫んだが、状況は簡単ではない。母艦から、さらに多くの兵士が降りてきている。小惑星は、完全に包囲されつつあった。


 梅子は、拳を握りしめた。

 ケルケンを助けなければ。でも、どうやって? 相手は武装した犯罪組織。こちらは、軽武装の巡察艇が一隻。


「クウラ、何か策は」


「クキキキ……正直、これは想定外だ」


 クウラも、珍しく焦っている。計画は完璧だったはずなのに、母艦の出現で、全てが狂ってしまった。


 通信機から、ボスと呼ばれたエイリアンの声が、再び響く。


『巡察艇は、まだこの近くにいるはずだ。見つけ次第、生け捕りにしろ。荷物の在り処を吐かせてから、全員、始末する』


 梅子の中で、何かが熱く、脈打った。

 仲間が、危険にさらされている。このままでは、全員殺される。

 守らなければ。この場所を、この仲間たちを。


 でも――どうやって?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ