第四十話「姉妹喧嘩」
控室の中は、一瞬で戦場と化した。
虎顔のボディガードが梅子を掴もうとした瞬間――梅子の拳が、炸裂した。
バキッ!
「あっ……」
巨体が、崩れ落ちる。
梅子は、自分の拳を見た。
(思った以上に、弱い……)
「姉さん、もっと強い人、雇った方がいいわよ……」
シオンの顔が、真っ赤になった。
倒れたボディガードを、蹴り飛ばす。二百キロの巨体が、軽々と転がった。
「だったら、私が直接やるわ!」
ドゴォォォン!!
シオンの拳が、壁にめり込み、コンクリートが砕け散る。鉄筋が、露出した。
「また逃げるの!?」
天井への一撃。照明が、落下してきた。
昔からこうだった。
姉妹喧嘩といえば、この怪力での殴り合い。父の竹彦がいつも止めていたが、今日は止める人が、いない。
梅子は、拳を握りしめた。
「いくわよ、姉さん!」
バゴォン!
梅子の拳が、シオンの顔面に直撃した。
容赦ない一撃。シオンの体が宙を舞い、壁に激突する。
ドガァン!
人型の凹みができ、シオンは、気絶した。
「みたか!」
梅子は、ガッツポーズを取った。
「またやっちゃった……でも、スッキリした!」
他のボディガードたちが、襲いかかってきた。
バキッ! ドカッ! ボコッ!
全員、ワンパンで沈んだ。
「やばい! ずらかろう!」
でも、待てよ、と梅子は思い直した。
このまま逃げるのも、味気ない。
「…そうだ!」
化粧道具を手に取り、色紙を、拾った。
シオンの唇に、口紅を塗りたくる。
「うーん、ちょっと色が、弱いかな」
鼻血が、出ている。
それを唇に、重ね塗りした。
「よーし!」
色紙に唇を、押し当てる。
キスマークが、転写された。
「三枚できた! 完璧!」
さらに、思いついた。
ファンデーションやアイシャドウを、片っ端からシオンの手に、塗りたくる。ピンク、青、緑、金色。虹色の手に、なった。
「えいっ!」
色紙にベタッと、押し付ける。
カラフルな手形が、完成した。
「手形もゲット! これは超レアものね!」
やりたい放題した後、梅子は、満足そうに頷いた。
*
控室のドアを、そっと開ける。
廊下で待っていたクルーたちが、振り返った。
「お、終わった?」
クウラが、尋ねた。
「うん! 特別サービス!」
梅子は、戦利品を差し出した。
「キスマーク入りサインと、手形もらってきた!」
「マジで!? 手形まで!?」
クウラの目が、輝いた。ラエルザも、驚いている。
「シオンさん、そんなサービスしてくれたんすか?」
「まあね! でも急いで、出よう!」
「なんで?」
「えっと、次の準備があるみたいだから!」
四人は、足早にホールを後にした。
*
控室では、シオンがゆっくりと、意識を取り戻していた。
「う……梅子……」
周りを見回すと、ボディガードたち全員が、気絶している。
壁には大穴、天井からは配線が、ぶら下がっている。
そして自分の唇を触ると、べっとりと、赤いものが。
手を見ると、虹色に、染まっていた。
「あの、クソアマアアアア!」
シオンの絶叫が、防音扉を突き破って、廊下に響き渡った。
その頃、梅子たちは既にホールの外に、出ていた。
「なんか今、すごい声が、聞こえたような」
ケルケンが、振り返った。
「…気のせいでしょ!」
梅子は必死に、歩調を速めた。
キスマーク入りサインと虹色の手形を見て喜んでいるクウラを見ながら、内心で、ニヤリと笑った。




