第三十八話「姉妹の再会」
屋根の上に上がってきた警備員たちが、あっという間に梅子たちを、包囲した。
「はい、武器を捨てて、手を上げなさい」
梅子は、がっくりと肩を、落とした。
「うん、まあ、そうなるよね……」
自由主義連盟とアマノガワ同盟肝いりの文化交流コンサートで、こんなに派手に大暴れしたら、捕まるに決まっている。
「お前たちも、共犯者か!」
警備隊長が、クウラたちにも銃口を、向けた。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
クウラが、慌てた。
「俺たちは、観客で――」
「黙れ! 全員、連行だ!」
手錠をかけられそうになった、その時――息を切らせた男が、駆け上がってきた。
「待って! 待ってください!」
梅子には、見覚えがあった。
姉の後ろをいつもついて回っていた、マネージャーだ。
確か、姉に顎で使われていて、なんだか可哀想だなと思った記憶がある。
「その人たちは、演出の人たちです! 捕まえないで!」
マネージャーは、必死に説明した。
「シオン様の特別演出なんです! ほら、許可証もあります!」
適当な書類を見せながら、必死に弁明する。
警備隊長は半信半疑だったが、シオンの名前を出されて、渋々銃を下ろした。
「本当だろうな?」
「本当です! さあ、皆さん、控室へどうぞ!」
マネージャーに導かれて、梅子たちは控室へと、向かった。
*
控室は、思った以上に広かった。
ステージ衣装が何着もハンガーにかけられ、化粧品が散乱し、軽食やドリンクが、置かれている。
「すっげえ〜!」
クウラが、目を輝かせた。
特にファンである彼は、まるで聖地に来たかのような、表情だ。
「これ、さっき着てた衣装っすよね!?」
ラエルザも、興味深そうに部屋を見回している。
ケルケンは鏡の前で、自分の顔を、確認していた。
その時、ドアが勢いよく、開いた。
「梅子、おおおお!!」
シオンが怒り狂いながら、入ってきた。
完璧に整えられていた金髪は乱れ、顔は、真っ赤だ。
梅子は、苦い顔をした。
「げぇっ……」
「あなた、一年間、何してたの!? 今すぐに家に、戻――」
シオンが言いかけて、クルーたちの存在に、気づいた。
一瞬、表情が、凍りつく。
「やっべ…」
小さく呟いてから、シオンは一転して、天使のような笑顔を浮かべた。
「皆さん、ありがとう♡」
声まで、変わった。
さっきまでの怒声はどこへやら、アイドルの営業スマイルだ。
「危ない人から守ってくれて、助かりました♡ おかげでコンサートを、続けられます♡」
クウラが、照れながら頭を掻いた。
「いやあ、なに、これしきのこと。僕たち軍関係者ですから」
「梅子が飛び出して、迷惑じゃなかったか心配だったんですけど」
ラエルザが、付け加えた。
「あの男、指名手配犯だったみたいですし」
ケルケンも、説明した。
シオンは笑顔を保ちながら、梅子にアイコンタクトを、送った。
その目は、明らかに『こいつらを出て行かせろ』と、言っている。
「あの、ちょっとこの人と」
シオンが、梅子を指さした。
「お話ししたいの。いいでしょうか?」
笑顔だが、絶対に反論は許さないという威圧感が、あった。
マネージャーが慌てて動き、ボディガードたちが、わらわらと入ってきた。
顔が虎のようなエイリアン、腕が四本ある巨漢、目が三つある戦闘種族。彼らがドアの前に、立ちはだかる。
「あ、じゃあ俺たち、外で待ってるよ」
クウラが、空気を読んだ。
「サイン、もらってきて!」
梅子が、慌てて言った。
マネージャーが気を利かせて、グッズと手書きサインを、渡した。
「これ、非売品のポスターも、つけますね!」
「マジすか!?」
クウラが、大興奮だ。
クルーたちがご満悦で出て行き、ドアが閉まった、瞬間――。
「梅子、おおおおお!!!」
シオンの怒りが、爆発した。
「お、お前、ええええ! 今の今まで、どこ行ってやがったああああ!」
圧倒的な声量から放たれる叫び声に、梅子は耳を、押さえた。
歌手としての肺活量は、伊達じゃない。
廊下では、防音扉からも漏れ出す叫び声が、聞こえていた。
「なんだ?」
「さあ?」
クルーたちが、顔を見合わせている。
*
シオンは息を整えながら、まくし立てた。
「あのね! 家では今、大ごとになってるのよ!」
梅子は、黙って聞いていた。
まあ、さっきの歌で大体察しはついていたが。
「お父さんはね、あなたを探すのと、何か重要な仕事があるとか言って、家出直後からすぐに出て行っちゃったの!」
シオンの声が、震えた。
「おばあちゃんのニーナは、カーカラシカまで行って、あなたを探すために色んな人に頼んで回ってるのよ!」
カーカラシカ。
祖母の故郷だ。そこまでして、探しているのか。
「お母さんは毎日泣いてるし、私も仕事どころじゃないし、ソーマも研究が手につかないって!」
シオンが、梅子の肩を掴んだ。
「今すぐに、戻ってきなさい、この放蕩娘!」
梅子は、そっぽを向いた。
「私は、見ての通り元気にしてるから。みんなに、ろしく言っておいて」
「そんなわけ、いくか!」
シオンが、壁のボタンを押した。
ピンポーンと音が鳴り、ボディガードたちが、入ってくる。
「この子を、実家まで護送して」
「ちょっと、待てよ!」
梅子が、立ち上がった。
「私にだって、自由があるでしょ!」
「未成年が、何言ってるの!」
「もう、十八歳よ!」
「家族に心配かけといて、何が自由よ!」
姉妹の言い争いは、続いた。
まるで一年前の続きのように。
でも梅子の心のどこかで、姉の声を聞けて少しだけ安心している自分が、いた。
家族。うるさくて、面倒で、でも――。
「とにかく」
シオンが、宣言した。
「あなたは今日、私と一緒に、帰るの! 縄でくくってでも連れて行くわ!」




