第三十三話「中佐の死」
母艦に戻ると、異様な雰囲気が、漂っていた。
廊下を歩く船員たちの顔が、青ざめている。誰もが小声で、何かを囁き合っていた。
「梅子!」
ラエルザが、駆け寄ってきた。顔色が、悪い。
かなり心配していたらしく、疲れ切った様子だった。
「無事で、よかったっす……本当に……」
「何があったんですか?」
ラエルザが、声を潜めた。
「中佐が……死んだっす」
梅子の背筋が、凍った。
「え?」
「小型船での移動中に、大事故が起きたって。エンジンの爆発事故で……」
事故。
本当に、そうだろうか。
キヨシの言葉が、蘇る。『疲れたから、休暇を取るって』。
*
医療ベイの方から、騒ぎ声が聞こえてきた。
レンツ少佐が、戻ってきたらしい。
梅子たちも向かうと、そこには凄惨な光景が、広がっていた。
手足を失った突入部隊の隊員たちが、ベッドに並んでいる。
そして、冷蔵保存された手足を詰めたケースが、山積みになっていた。まるで、肉屋の倉庫のようだ。
「これを繋げってことか…?」
医療班の一人が、震え声で言った。
「どうかしてるぜ…こんな切断面、見たことがない。まるでレーザーで切ったみたいに、綺麗だ」
船員たちの顔に、恐怖が浮かんでいる。
あの得体の知れない集団。刀だけで最新装備の部隊を壊滅させ、そして中佐を「事故死」させた。
ラエルザが、梅子の腕を掴んだ。
「こんなところにいたら、何が起きるか分からないっす。すぐに本部の星に、帰りましょう」
クウラとケルケンも、頷いた。全員が、恐怖に震えている。
「船の修理も終わったし、すぐに出発しよう」
彼らは急いで、自分たちの小型船に乗り込んだ。
エンジンを始動させ、母艦から、離れていく。
*
宇宙空間に出てしばらくすると、梅子の端末が、震えた。
メールが届いている。
見覚えのないアドレスだが、もう誰からか、分かっていた。
『中佐の訃報を聞きました。とっても残念です。今回はいろいろなことがあったから梅子さんのことがとても心配です。よかったら私たちの星、地球に遊びに来ませんか? お返事待ってます(^^)』
背筋が、寒くなった。
これは脅迫なのか、本当の心配なのか。
ラエルザが隣から覗き込んで、顔を青ざめさせた。
「これ……まずいっす」
すでにラエルザは、新しい端末を用意していた。
「私たちはもう、切り替えてます。梅子も今すぐ、その端末を捨てて、これに変えて」
梅子は、頷いた。
古い端末からデータを移すこともせず、そのまま気密室へ、向かった。
エアロックを開け、端末を宇宙空間に、放り投げる。
小さな機械は、すぐに闇に飲み込まれて、見えなくなった。
新しい端末を受け取り、起動させる。まっさらな画面。連絡先も、何もない。
「これで追跡は、されないはず」
クウラが、言った。
「でも、向こうはどこまで俺たちのことを、知ってるか……」
船のブリッジに戻ると、ケルケンが震え声で、言った。
「地球への、招待……冗談じゃ、ないですよね」
「行くわけ、ないっす」
梅子は、黙っていた。
地球。
自分の母の故郷。そして今、サムライたちの本拠地。
窓の外を見ると、母艦が小さくなっていく。
あの中で、手足を失った隊員たちが、治療を受けている。中佐の遺体も、きっとどこかに安置されているのだろう。
「ブリオンの、使徒……」
梅子は、小さく呟いた。
「何っすか?」
ラエルザが、振り返った。
「いえ、なんでもないです」
キヨシが言っていた言葉。
中佐はその団体の一員だったという。それが彼の死と、関係があるのだろうか。
船は本部の星へ向かって、加速していく。
でも梅子には、分かっていた。
もう安全な場所なんて、ないのだと。
新しい端末を握りしめながら、梅子は、思った。
父の本が、読みたくなった。でも、それも母艦に置いてきてしまった。




