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第三十二話「意外な会話」



 指定された場所は、普通の貸しオフィスビル、だった。

 三人が到着すると、入口にサムライが、四人立っていた。

 刀を腰に差した姿は威圧的だが、表情は、意外に穏やかだ。


「ようこそ」


 一人が、軽く頭を下げた。

 三人が来ることは、最初から分かっていたらしい。

 梅子が中に入ろうとすると、若いサムライが、彼女を止めた。


「あなたは、こちらの部屋で」


 中佐とレンツ少佐は奥へ連れて行かれ、梅子は手前の小さな応接室に、通された。


 *


 部屋にはもう一人、二十代前半くらいの青年サムライが、いた。

 緊張した様子で、立ち上がる。


「あ、どうぞ、お座りください」


 梅子が座ると、青年も向かいに、腰を下ろした。妙に、そわそわしている。


「えっと……どこの、出身ですか?」


 青年が、緊張した声で尋ねた。

 梅子は、内心で呆れた。


(いや、緊張する立場、逆でしょ……)


 こっちは捕虜みたいなものなのに、なぜか接待される側に、なっている。

 青年は必死に、話題を探しているようだった。


「お仕事は、大変ですか?」


「まあ、それなりに」


「そうですよね、防衛軍って、激務って聞きます」


 青年は、続けた。


「あ、自己紹介が遅れました。僕はタケシと、いいます。キヨシさんの、弟子の一人です」


「梅子、です」


 タケシの目が、少し輝いた。


「日本の名前ですね! 僕も、日本系なんです」


 話が、弾み始めた。

 梅子は瞑想の星の出身であること、父が小説家であること、田舎の葡萄畑で働いていたことなどを、話した。


「葡萄畑!」


 タケシの目が、さらに輝いた。


「自然に囲まれた生活って、してみたいと思ってたんです」


「そうですか? 結構、退屈ですよ」


「でも、毎日土に触れて、季節を感じて……都市じゃ味わえないですよね」


 二人が話していると、ドアが開いて、キヨシが入ってきた。


「お、盛り上がってるね」


 梅子は、すぐに尋ねた。


「中佐はもう、帰られましたか?」


 キヨシが、頭を掻きながら座った。


「あー、あの人から話は聞いたし、疲れたから休暇を取るって」


 その言葉の裏側を考えると、梅子の背中が、冷たくなった。

 休暇……本当にそれだけだろうか。


「少佐は、怪我人連れて船に戻ったよ」


 キヨシが、付け加えた。


「後で送ってあげるから、心配しないで」


 キヨシは、飴を取り出した。


「今回のことはごめんねえ。怖かったでしょー」


 梅子は、首を振った。流石に受け取る気分には、なれない。


「いいです」


 キヨシは肩をすくめ、自分の口に、飴を放り込んだ。


「名前はなんだっけ?」


「梅子、です」


「へー、日本人な名前だなあ」


(どうせ最初から、知ってるくせに)


 梅子は内心でそう思ったが、顔には出さなかった。

 キヨシが、急に真剣な表情になった。


「ところで梅子ちゃんは、ブリオンの使徒って、聞いたことある?」


 梅子は、首を傾げた。


「ブリオンの、シト?」


 聞いたことがない言葉、だった。

 ブリオンは十八年前に倒された怪物の名前、だというのは知っているが。

 キヨシは、その様子を見て、納得したように頷いた。


「知らないかー……」


 どこか、安心した様子だった。


「実はね、中佐はその団体に入っててね。もしかしたら梅子ちゃんもそうかと思って、聞いてみたんだけど、違ったかぁ」


 梅子は、驚いた。

 中佐が、何かの団体に?

 キヨシは、話題を変えた。


「お仕事、楽しい?」


「まあ、それなりには」


 梅子は、少し考えてから、正直に話した。


「実は田舎から出てきて、自分の可能性を試したかったんです。兄と姉の出来が良くて、家でじっとしてろって言われて……我慢できなくなって」


 キヨシは「ふぅん」と、相槌を打った。


「世の中悪い人も多いし、家で暮らせるならそっちの方がいい気もするけど……まあ、若い血潮ってやつなのかな」


 ぼんやりとした口調だったが、どこか、優しさがあった。

 まるで、自分の身内のことを、心配しているような。


「じゃあ、名刺のこと、覚えといて」


 キヨシが、立ち上がった。


「何か困ったら、おじさんの会社で、働いてみるといいよ」


 タケシに向かって、言った。


「送ってあげて」


「はい!」


 タケシが、元気よく返事をした。


 梅子は立ち上がりながら、複雑な気持ち、だった。

 脅迫してきた相手なのに、なぜか悪い人には見えない。

 でも、中佐は「休暇」を取ることになった。それが何を意味するのか。

 部屋を出る時、キヨシが、言った。


「あ、そうそう。家族がいないって登録だったけど、本当?」


 梅子は一瞬固まったが、頷いた。


「はい」


「そっか。まあ、いろいろ、あるよね」


 それ以上は、聞かれなかった。

 その「いろいろあるよね」の言い方が、まるで、こちらの事情を全部知っているかのような響きに聞こえなくもなかったが、考え過ぎだと自分の考えを否定することにした。


 *


 タケシに連れられて外に出ると、送迎の車が、待っていた。


「また会えると、いいですね」


 タケシが、笑顔で言った。

 梅子は、曖昧に頷いた。

 車に乗り込みながら、梅子は、考えた。


 ブリオンの使徒。中佐がその一員。そして、キヨシたちはそれと、敵対している?

 話が大きくなりすぎて、頭が追いつかない。

 自分はただの田舎娘のはずなのに、なぜ、こんなことに巻き込まれているのだろう。


 車窓から見える景色を眺めながら、梅子は、父の本のことを思い出した。


 父はいったい何を見たんだろう?


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