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第三十話「脅迫」



 梅子の端末が、震えた。

 まだブリーフィングルームにいる全員が、ホラー映像の衝撃から、立ち直れずにいる時だった。

 画面を見ると、見覚えのないアドレスから、メールが届いていた。


『件名:倉庫で名刺渡したおじさんより(^_^)』


 梅子の血が、凍った。

 なんでこのアドレスが、分かったの?

 震える指で開くと、絵文字付きの文面が、表示された。


『こんにちは〜 私のこと覚えてるかな? 倉庫で名刺渡したおじさんです 俺たちのこと何か他の人に話した? いや話しても構わないんだけど 君本当は防衛軍みたいだね 多分君の船にいる中佐のウォルターっていうおじさんに電話番号教えていいから電話かけてって言ってくれる?(^_^;)』


 ラエルザが横から覗き込み、顔を、青ざめさせた。


「これ……」


 メールは、続いていた。


『名刺渡したこと黙ってたなら船の名前だけ教えて^_^』


 恐ろしすぎる内容、だった。

 きっと、あのダルマにされた隊員から、聞き出したのだろう。

 拷問? いや、キヨシなら、笑顔で世間話のように聞き出しそうだ。

 梅子は震える手で、返信した。名刺のことは、言えない。


『フリーダム三四四二二』


 送信ボタンを押すと、すぐに、反応があった。


「非常回線に、連絡が入りました!」


 情報士官が、叫んだ。

 中佐が、振り返る。


「なんだと? 非常回線の番号を知っているのは――」


 クウラが、梅子のそばで小声で呟いた。


「なんで、回線の番号が、分かるんだ……?」


 スピーカーがオンになり、少し歪んだ声が、響いた。

 キヨシ、だ。


『やあ、ウォルター中佐? 初めまして。さっきは楽しかったよ』


 中佐の顔が、真っ赤になった。


「貴様――」


『あー、怒らない、怒らない。話を聞きたいんだ。なんで、こういうことしたの?』


 軽い口調だが、底に、冷たいものを感じる。


『あなた一人で来て。この件で他の誰かに相談しないように。見ての通り、回線番号が分かっちゃったから』


 中佐が、唾を飲み込む音が、聞こえた。


『話聞く限りだと、あなたの判断だけでしたことみたいだし……』


 背後から、呻き声のようなものが、聞こえた。

 まだ生きている隊員の声、だろうか。


『あぁ大丈夫、すぐに家に帰れるからなぁ』


 キヨシが誰かに、話しかけているようだ。

 そして再び、中佐に向かって言った。


『今後こういうことが、ないようにしたいんだ。こっちは怪我人もいないし、ええっと頭落とした人も生命装置につなげたから…サイボーグ化は必要なんだけどね…大事にしたくないんだよ。言ってること、わかる?』


 中佐が何か言おうとしたが、キヨシが、続けた。


『あと、このことで新人の女の子とかを、いじめないようにな』


 梅子は、ハッとした。

 自分のことだ。名前は伏せてくれているが。

 その配慮の意味が、よく分からなかった。なぜキヨシは、自分を庇うように振る舞うのだろう。

 まさか、何か気づいているのだろうか。

 いや――気づいているなら、もっと違うアプローチをしてくるはずだ。

 梅子は、そう自分に言い聞かせた。


 中佐がすぐに、端末で誰かに連絡を始めた。

 増援を呼ぼうとしているのだろう。

 クウラが、頭を掻いた。


「だから、通信バレてるんだって……」


 案の定、すぐにまた、非常回線に連絡が、入った。


『おいおいおい』


 今度のキヨシの声には、明確な苛立ちが、あった。


『頭の中、メロンパン入れか?。一人で来いって、言ったよな? 相談なしって、言ったのに』


 中佐が、青ざめた。


『そいつ以外に、話通じるやつ、いねえの?』


 中佐の副官、レンツ少佐が、前に出た。


「私が代わりに――」


『あんたか。じゃあ、要約するよ。二度と、こういうことをしないように。次は、ない』


 一呼吸置いて、キヨシが、続けた。


『その頭メロンパンを連れて来なけりゃ、お前の実家の四歳の娘の誕生日プレゼントが、買えないことになる』


 室内が、凍りついた。


 次の瞬間――全員の端末に、同時に、メールが届いた。

 梅子も、開いた。

 家族情報が、表示されている。

 レンツ少佐の娘の写真、住所、幼稚園の名前まで。

 他の人たちも、自分の家族情報を見て、顔を青ざめさせている。


 梅子の画面には――。


『家族なし』


 たった三文字が、表示されていた。


 梅子は、複雑な気持ちになった。

 家族がいないと思われているのは、寂しい。

 でも、同時に、安堵もあった。父や母、祖母たちの情報が、ここにないのは、良かった。

 いや――それ以上に、不思議だった。

 偽造した身分証で隠していたとはいえ、サムライの情報網は、こんなにあっさり突破されるはずだ。それなのに、なぜ自分のところだけ「家族なし」と表示されたのか。

 まるで――誰かが、意図的に、消したかのように。

 梅子は、その考えを、また頭の隅に、押しやった。


『一時間後、座標を送る。二人だけで来い』


 キヨシの声が、締めくくった。


『警察とか軍とか連れてきたら、まあ、分かるよな?』


 通信が、切れた。

 室内は、墓場のような静寂に、包まれた。

 中佐が震える手で、額の汗を、拭った。

 レンツ少佐は娘の写真を見つめて、立ち尽くしている。

 室内の誰もが、自分の端末に表示された家族の情報を、見つめていた。

 恐怖と怒りと無力感が入り混じった空気が、漂っている。


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