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第二十九話「刀の真実」



 母艦のレクリエーションルーム。

 梅子は、シヴァと向かい合って、座っていた。


「これはね、手毬唄っていうの」


 梅子が小さなボールを弾ませながら、リズムに合わせて、歌を口ずさむ。

 シヴァは、目を輝かせて見つめている。


「すごい! 地球には、こんな遊びがあるんだ」


「他にも、駒を使うゲームとか……」


 梅子は祖母や母と遊んだ記憶を辿りながら、シヴァに教えていた。

 チェスに似た、将棋のようなゲーム。駒を動かしながら、ふと、時計を見る。

 午前六時過ぎ。

 今頃、強襲チームが、作戦の真っ最中だろう。


「どうしたの?」


 シヴァが、首を傾げた。


「ううん、なんでもない」


 梅子は、笑顔を作った。

 でも心の中では、あのサムライたちのことを、考えていた。

 キヨシという人、どうなったのかな。死んじゃったのかな。

 申し訳ない気持ちが、込み上げてくる。

 あんな重装備のチームに襲われたら、刀しか持たない彼らは、ひとたまりもないだろう。


「梅子の、番よ」


「あ、ごめん」


 駒を動かしながら、梅子は複雑な気持ち、だった。

 自分は警告できたかもしれない。でも、しなかった。


 端末が、振動した。

 ラエルザからのメッセージ。


『すぐに、ブリーフィングルームに、来て』


「ごめん、シヴァ。呼ばれちゃった」


「えー、もうちょっと、遊びたかったのに」


 シヴァが別れを惜しむが、梅子は急いで、立ち上がった。

 何かあったのだろうか。


 *


 ブリーフィングルームに入ると、異様な雰囲気が、漂っていた。

 ウォルター中佐を含む上官たちが、全員呆然とした表情で、モニターを見つめている。

 ラエルザ、クウラ、ケルケンも、壁際に立っていた。

 モニターには、突入部隊のヘルメットカメラの映像が、流れていた。

 繰り返し、再生されている。録画だろうか。

 梅子が、画面を見て――息を、呑んだ。

 ホラー映画のような光景が、映し出されていた。


 暗視カメラの、緑がかった映像。

 倉庫に突入する部隊。不意打ちの、はずだった。

 しかし――。


「うわっ!」


 隊員の悲鳴。

 サムライたちが、信じられない速度で、動いている。

 銃撃が始まる。プラズマ弾が、光の筋を描いて、飛び交う。

 だが、サムライたちは、まるで弾道が見えているかのように、身をかわす。

 そして――。


 刀が、閃いた。


 隊員の首が、飛ぶ。

 血飛沫が暗視カメラに付着して、画面が、赤く染まる。


「ひっ……」


 誰かが、小さく悲鳴を上げた。

 画面の中で、キヨシの声が、響く。軽い、抜けた感じの声だ。


『あー、殺さないように、してくれる?』


 次の瞬間――戦い方が、変わった。

 刀が、正確に腕や脚を、切断していく。悲鳴が響き渡る。

 パワードスーツごと、まるで紙を切るように、簡単に。

 数分で、三十人の強襲部隊が、手足を失い、床に転がっていた。まるで、ダルマのように。


「うげっ」


 ケルケンが、口を押さえた。

 画面の中のキヨシが、カメラに近づいてくる。サングラスの奥から、つまらなそうな目が、覗いている。


『あれー? これ、自由主義連盟の連中じゃん? なんで、襲ってきたんだ?』


 振り返って、仲間に聞く。


『どうしましょうか?』


『いやー、どうしようかな……』


 キヨシが、頭を掻いた。

 まるで買い物で何を選ぶか迷っているような、軽さだ。


『おい、みんな。切った手足、持っていくか? 繋げて返せば、許してくれねえかなぁ』


 別のサムライが、尋ねた。


『殺さないんですか?』


『かわいそうだろ。それに、絶対、映像向こうに送られてるよ』


 キヨシが、カメラを見つめた。


『あー……』


 手が伸びてきて、映像が、途切れた。

 そして、また最初から、再生が始まる。

 室内は、沈黙に包まれていた。


 *


 クウラが、梅子を見た。


「地球人から見て、どうだ?」


 全員の視線が、梅子に集中した。

 梅子は、言葉を選んだ。


「さ、さあ……すごい、よく切れる刃物だなとは……」


 ラエルザが、身を乗り出した。


「連中、この後どういう行動に出ると、思う?」


 梅子は、考えた。

 父のこと、祖母のこと。そして瞑想の星で教わった、あの土地の人々の考え方。

 恩は返す。義理は通す。だが、舐められたら、必ず仕返す。それが、あの土地の掟だった。


「たぶん……理由を聞きに来るはず。そして、今後こういうことが起きないように、しようとするはず」


 クウラが肩をすくめ、端末を操作した。

 キヨシの情報が、モニターに表示される。


「こいつはサムライの幹部の一人で、アンナムのボス、マリアの夫だ」


 梅子は、驚いた。

 あの人、そんな重要人物だったのか。


「お前ら、やべえのに、手を出したな」


 クウラが、苦笑いを浮かべた。


「奴らの文化では『お礼参り』っていうらしい。必ず、やってくる」


 中佐が、拳でテーブルを叩いた。


「馬鹿な! 原始的な刀で、最新装備の部隊を!」


「原始的じゃなかった、ってことっすね」


 ラエルザが、小さく呟いた。


 梅子は、黙っていた。

 父の本の言葉が、蘇る。


『刀は、魂の延長』


 今、その意味が、少しだけ分かった気がした。

 あの刀は、ただの鉄の塊じゃ、ない。もっと、恐ろしい何かだ。

 そして――お礼参りが、来る。

 梅子は、身震いした。


 

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