第二十八話「強襲作戦」
防衛軍本部の作戦会議室。
円形のテーブルを囲んで、新たな調査チームが、集まっていた。
梅子たちは壁際に立って、その様子を、見守っている。
テーブルの中央には、ホログラムで表示された倉庫の立体図面が、浮かび上がっていた。
「これが、ターゲットの拠点だ」
新チームのリーダー、レイナード大尉が、図面を指さした。
筋骨隆々の熊型エイリアンで、全身に戦闘用の強化スーツを、着込んでいる。
「サムライどもの隠れ家を、突き止めた。明後日の零四〇〇時、強襲を、かける」
梅子は、息を呑んだ。
強襲? そんな話は、聞いていない。
クウラが、前に出た。
「ちょっと待てよ。連中が商売敵なのは分かるが、やってることに、違法性はねえぞ。これは、やりすぎだ」
レイナードが振り返り、クウラを、見下ろした。
「元中尉、お前は、今は曹長だ。昔のくせが、抜けないな」
クウラが、舌打ちする。
レイナードは、続けた。
「襲撃の理由なんざ、いくらでも用意できる。密輸の疑い、脱税、なんでもな」
ラエルザが、小声で梅子に囁いた。
「私たち、人相確認のために呼ばれただけ、みたいっすね……」
会議は、続いた。
レイナードが、梅子たちに向き直る。
「お前たちが接触した、サムライどもの装備を、教えろ」
「腰に、ブレードを差してました」
ラエルザが、答えた。
「ブレード? どんなブレードだ?」
「ニホントウという、鉄製のブレードです」
強襲チームの一人が、端末で検索し、画像を表示させた。
湾曲した細身の刀が、映し出される。
「はっ!」
別の隊員が、笑い出した。
「こりゃすごい、原始の武器じゃねえか」
「未開の、原始人って感じだな」
レイナードも、鼻で笑った。
「こっちが、心配になってくるぜ」
梅子は、複雑な気持ちで聞いていた。
確かにあの時、キヨシたちも『トレードマーク』と言って、笑っていた。
ビームサーベルでもない、ピストルですらない。普通に考えれば、戦える装備じゃ、ない。
でも――なぜか、ジャルの手下たちは、あの刀を、本気で恐れていた。
「他に、武装は?」
レイナードが、続けた。
「見た限りでは、それだけです」
ケルケンが、答えた。
「機械化された腕を持つ男が、いました」
梅子が、付け加えた。
「左腕が、人工筋肉で覆われてます」
「ふん、サイボーグか。まあ、こちらの火力の前では、大した脅威じゃない」
レイナードは、自信満々だった。
強襲チームは全員が最新式のパワードスーツを着用し、プラズマライフルで武装している。数も、三十人。確かに、圧倒的な戦力差だ。
*
会議が終わり、梅子たちは廊下に出た。
「巻き込まれたら、まずいっすね」
ラエルザが、ため息をついた。
「しばらく母艦で、大人しくしてましょう」
「賛成だ」
クウラも、頷いた。
「クキキキ……俺たちには、関係ねえ話だ」
「シヴァさんの遊び相手でもしてれば、怒られないでしょう」
ケルケンが、提案した。
梅子は、黙っていた。
なぜか、胸騒ぎがする。
あの自信満々の強襲チームと、刀しか持たないサムライたち。
普通に考えれば、勝負は明らかだ。
でも――キヨシの余裕に満ちた笑顔が、忘れられない。
武装の少なさを笑っていた、あの態度。あれは、虚勢ではなかった。武装した集団をどこか気の毒そうな目で見ていた。そんなことがあり得るのだろうか?
母艦に戻る途中、梅子は、父の本のことを、思い出した。
サムライについて、父はどう書いていただろうか。
『彼らの刀は、ただの武器ではない。それは魂の延長であり、誇りの象徴だ。私は初めて、本当の意味での強さを見た』
意味が分からない記述、だった。
刀が、魂の延長? 誇りの象徴?
「梅子、どうしたっす?」
ラエルザの声で、我に返った。
「いえ、なんでもないです」
でも、不安は消えなかった。
明後日の朝、何かが起きる。それも――とんでもないことが。
*
母艦の自室に戻ると、梅子は窓から、宇宙を眺めた。
漆黒の闇に浮かぶ、星々。その中のどこかで、サムライたちは普通に商売をしているのだろう。まさか強襲されるとは、夢にも思わずに。
「警告した方が、いいのかな……」
梅子は、呟いた。
でも、どうやって?
キヨシの名刺はあるけど、連絡したら、自分の立場が危うくなる。それに、向こうは自分を、覚えているだろうか。
ポケットから名刺を取り出し、じっと、見つめる。
黒地に金文字。アンナム・ブロードバンド。
父の本には、アンナムという名前も、出てきた。大きな組織らしい。でも、詳しくは、書かれていなかった。
梅子は、名刺を握ったまま、長い間、動けなかった。
通報すれば、自分が裏切り者になる。
しなければ、明後日の朝、誰かが死ぬかもしれない。




