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第十八話「境界の商人」



 自由主義連盟とアマノガワ同盟の境界に位置する中立星系、ネビュラ・マーケット。

 ここは両陣営の商人たちが集まる、銀河でも有数の交易拠点だった。


「すごい、活気っすね」


 ラエルザが、市場を見回しながら言った。

 様々な種族の商人たちが、威勢よく商品を売り込んでいる。多様な言語が飛び交い、合成的な香辛料の匂いと、本物の食料品の匂いが入り混じっている。

 梅子たちは小型の貨物船で到着し、シヴァの大型船からは独立して行動することになっていた。表向きは下請けの運送業者として、細かい配送を担当する。


「工業製品の納品先は、第三ブロックの倉庫だ」


 クウラが、端末を確認しながら言った。


「クキキキ、普通の商売って、退屈だな」


「でも、怪しまれないためには、必要っす」


 ラエルザが、荷物を確認しながら答えた。

 商人の娘として育った彼女は、こういう仕事には慣れている。荷物の積み方ひとつにも、年季の入った手際があった。

 梅子は、周囲を観察していた。

 市場にはアマノガワ同盟の商人も多い。彼らの服装や言葉遣いが、故郷を思い出させる。

 ふいに耳に入った会話の抑揚が、母のものとよく似ていた。梅子は、無意識に立ち止まりかけた。


「おい、そこの、運送屋」


 突然、声をかけられた。振り返ると、爬虫類型のエイリアンが立っていた。アマノガワ同盟の腕章を、つけている。


「荷物を、運んでくれ」


「もちろんっす!」


 ラエルザが、営業スマイルで応じた。


「どちらまで?」


「第七ブロックの、精製工場だ。エネルギー関連の部品でな」


 梅子たちは、顔を見合わせた。

 エネルギー関連。もしかしたら、手がかりになるかもしれない。


 荷物を積み込み、指定された工場へ向かう。建物は厳重に警備されていたが、運送業者として中に入ることは、できた。


「ここに、置いてくれ」


 工場の責任者らしき人物が、指示する。

 梅子が荷物を降ろしながら、さりげなく、周囲を観察した。

 機械の一つに、見覚えのあるマークが、ある。

 瞑想の星で見たことがある、紋章だ。

 でも――なぜ、ここに?

 あれは、ニーナおばあちゃんの工房や、家の壁にも刻まれていたものだった。子供の頃は、ただの装飾だと思っていた。


「何、見てるんだ?」


 責任者が、鋭い声を出した。


「あ、いえ、珍しい機械だなと、思って」


 梅子が慌てて答えると、責任者は警戒を緩めた。


「ああ、最新型の濃縮装置だ。といっても、普通のエネルギー結晶用、だがな」


 普通の、という言葉が、引っかかった。

 つまり、特殊なものもある、ということか。


 工場を出て、次の配送先へ向かう途中、ケルケンが言った。


「何か、掴めた?」


「よく、分からない」


 梅子は、首を振った。

 瞑想の星の紋章のことは、言えない。あれが家族と何らかの関係があるという推測も、絶対に口に出せなかった。


 *


 市場の一角で、シヴァと合流した。彼女は高級レストランで商談を終えたところだった。


「どう? 何か、分かった?」


 シヴァが、聞いてきた。


「まだ、特に」


 ラエルザが答えると、シヴァは、肩をすくめた。


「私の方も、同じ。普通の取引ばかりで、特殊な結晶の話は、出てこない」


 夕方になり、一日の仕事を終えて宿に戻る。安宿の狭い部屋で、クルーたちは情報を整理した。


「濃縮結晶の手がかりは、掴めなかったっすね」


 ラエルザが、ため息をついた。


「もっと奥に、入り込まないと、ダメかも」


 クウラが提案したが、それは危険すぎる。

 梅子は、窓の外を見た。

 市場の灯りが、まだ輝いている。あの中のどこかに、答えがあるはずだ。でも、見つけたいような、見つけたくないような、複雑な気持ちだった。


 端末を見る。

 ブギーマンからの、新しいメッセージは、ない。でも、いつ来るか分からない恐怖は、消えない。


「明日は、別の区画を回ろう」


 ラエルザが、言った。


「アマノガワ側の商人と、もっと接触しないと」


 梅子は頷いたが、内心では、不安だった。

 アマノガワの人間と深く関わるほど、自分の正体がバレる危険が、高まる。


 *


 その夜、梅子は、夢を見た。

 瞑想の星の夢。

 家族みんなで、聖火祭を祝っている夢。

 父も母も、兄も姉も、祖母も、みんな、笑っている。


 そして突然、狐面の人物が現れて、梅子だけを、連れ去っていく。

 家族は、助けてくれない。

 見ているだけ。


「悪い子は、罰を受けなきゃ」


 狐面の声が、響く。


 梅子は、汗だくで、目を覚ました。

 まだ夜明け前だった。

 隣のベッドでは、ラエルザが寝言を言っている。


「もっと、安く……ダメっす……」


 商売の夢でも見ているのだろう。平和な寝顔が、羨ましかった。

 梅子は起き上がり、窓辺に立った。

 境界の星の空には、両陣営の船が行き交っている。

 白を基調とした自由主義連盟の輸送艦と、深い藍色を纏ったアマノガワ同盟の貨物船。それらが、星の引力圏で、不思議な紋様を描きながらすれ違っていく。

 どちらにも属せない自分。

 どちらからも追われる立場。

 この境界の星が、今の自分を象徴しているような気がした。



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