第十三話「狐面の襲撃者」
銀河防衛隊第七艦隊は、本部星系へ向けて、順調に航行していた。
出発から数時間後――通信士が、緊急報告を上げた。
「司令、前方に救難信号を感知。自由主義連盟の民間輸送船のようです」
司令官は、眉をひそめた。
「この航路で?」
「はい。燃料切れのようです。乗員からの通信も、入っています」
スピーカーから、弱々しい声が聞こえてきた。
『こちら、輸送船マーキュリー。エンジントラブルで、漂流中。至急、救助を求む』
「内部スキャンの結果は?」
「生命反応、一つ。約百キログラムの質量。爆発物の反応、なし。燃料残量、わずか」
副官が進言した。
「民間船の救助は、我々の義務です。回収しましょう」
司令官は少し迷ったが、頷いた。
「よろしい。ただし、警戒は、怠るな」
巨大な戦艦のドッキングベイが開き、小型輸送船が収容された。整備班と警備兵が、船に近づく。
「中を、確認しろ」
エアロックが開かれ、兵士たちが船内に入っていく。しかし、すぐに困惑の声が、上がった。
「司令、船内は……もぬけの殻です」
「何だと?」
その瞬間――艦内のあちこちで、警報が鳴り響いた。
「侵入者! 第三区画に、侵入者!」
「第五区画にも!」
「何者だ!?」
混乱が広がる中、監視カメラが、異様な姿を捉えた。
白い狐の面を被った、身長二メートルはある人物。
黒い戦闘服に、腕には奇妙な甲冑のような装備を身に着けている。
その甲冑は、生きているかのように、表面で微細な金属片が常に動いていた。
「発砲、許可!」
兵士たちがプラズマ銃を乱射するが、弾丸は全て、弾かれた。腕の装備が細かく分離し、盾のように展開して攻撃を防いでいる。
「効かない!」
狐面の人物は、素早い動きで兵士たちの間を、駆け抜ける。
拳の一撃で兵士を吹き飛ばし、蹴りで壁に叩きつける。怪物の登場する映画のような、まるで白昼夢を見せられているような光景だ。
「くそ、化け物か!」
逃げようとする兵士たちを、狐面は容赦なく追い詰める。腕の装備が変形し、鞭のようにしなって、兵士の足を絡め取る。
研究室では、科学者たちが、恐怖に震えていた。
「あいつ、こっちに向かってくる!」
厳重にロックされた扉の前で、狐面は腕をかざした。
電子ロックが、次々と解除されていく。何の操作もしていない。ただ、腕をかざしただけで。
「最高レベルのセキュリティが!」
扉が開き、狐面がゆっくりと入ってきた。
科学者たちは、悲鳴を上げて逃げ惑う。
狐面は迷いなく、エネルギー結晶が保管されている金庫へと、向かった。ここも同じように、手をかざすだけで、開いてしまう。
「や、やめろ!」
警備主任が立ちはだかったが、狐面は軽く手を振っただけで、主任を壁まで吹き飛ばした。
続いて、狐面は拘留エリアへ向かった。自白剤で廃人となったブラックネビュラのメンバーが収容されている場所だ。
「何のつもりだ!」
看守が銃を向けるが、狐面は、気にも留めない。
廃人を肩に担ぎ上げ、エネルギー結晶の入った箱を抱えて、悠々と歩き去っていく。
艦橋では、司令官が、歯噛みしていた。
「機関部は、どうなっている!」
「ダメです! 全システム、ダウン!」
「武器システムも、反応しません!」
まるで船全体が、狐面の意のままに操られているかのようだった。
狐面は収容した輸送船に戻ると、エンジンを起動させた。ドッキングベイのゲートが、勝手に開いていく。
「止めろ!」
しかし、誰も動けない。システムが完全に、乗っ取られている。
輸送船が艦を離れ、少し距離を取ったところで、空間が歪み始めた。ハイパージャンプの準備だ。
「くそ!」
司令官の叫びも虚しく、輸送船は、虚空に消えた。
その瞬間――艦のシステムが、復活した。
「機関部、正常!」
「武器システム、オンライン!」
しかし、もう、手遅れだった。
狐面は、まんまとエネルギー結晶と証人を、奪い去ったのだ。
医務室は、負傷者で溢れかえっていた。骨折、打撲、裂傷。
しかし、奇妙なことに、死者は一人もいなかった。
「あいつ、手加減していたのか」
副官が、呟いた。
その事実が、かえって不気味だった。これだけの戦力を一人で制圧しながら、誰一人として殺さなかった。それは、力量を見せつけるためか、あるいは――別の理由があるのか。
司令官は、拳を震わせた。
「ま、まさかあれが…」
*
その頃――。
歓楽街の星でのんびりしていた梅子たちは、この騒動を知る由もなかった。
「なんか、美味しいもの食べたいっすね」
ラエルザが提案すると、クウラが頷いた。
「昨日の地球料理は、ちょっと……」
梅子は、むっとしたが、何も言わなかった。




