第十二話「超高濃度結晶の謎」
銀河防衛隊第七艦隊の研究室では、白衣を着た科学者たちが、押収されたエネルギー結晶を分析していた。
「これは……異常だ」
分析装置のデータを見ていた主任研究員が、信じられないという顔で振り返った。
「通常の五十倍の濃度? そんなことが、可能なのか?」
若い研究員が、首を振った。
「理論上、あり得ません。エネルギー結晶は、そもそも限界まで濃縮されているから、結晶化するんです。それが五十倍なんて……」
「新しい技術、か?」
「それとも、我々の知らない製法が、あるのか」
議論が白熱する中、艦隊司令官が研究室に入ってきた。
「分析結果は、どうだ」
「異常です、司令。このエネルギー結晶は、既知のどの製法でも、作れない代物です」
司令官は、眉をひそめた。
「ブラックネビュラから、聞き出す必要があるな」
*
拘留エリアでは、捕らえられたブラックネビュラのメンバーが、尋問を受けていた。
爬虫類型のエイリアンは、必死に口を閉ざしていた。鱗の隙間から、汗が滲んでいる。
「喋るものか! 喋ったら、殺される!」
尋問官が、冷静に問いかける。
「誰に、殺される?」
「パ、パニッシャーだ! 奴は、裏切り者を必ず殺す!」
その名前に、尋問官たちは顔を見合わせた。
都市伝説だと思われていたパニッシャーの名前が、ここでも、出てきた。
「仕方ない。自白剤を、使用する」
医療スタッフが、注射器を持って入室した。
エイリアンは必死に抵抗したが、拘束されているため、逃げることはできなかった。
薬剤が体内に入ると、エイリアンの目が、うつろになっていく。
「エネルギー結晶の、出所を言え」
「アマノガワ同盟……各地の星から……少しずつ、集めた……」
「最終的な、輸送先は?」
「地球……全部、地球に、送る……」
尋問官たちが、息を呑んだ。
やはり、アマノガワ同盟が関わっていた。
「我々が押収したのは、全体のどれくらいだ?」
「一部……ほんの、一部……もっと、たくさん……」
エイリアンの言葉が、途切れ始めた。瞳孔が開き、よだれを垂らし始める。
「まずい、副作用が」
医療スタッフが慌てて処置を始めたが、手遅れだった。自白剤の副作用で、エイリアンの脳機能は、深刻な損傷を受けていた。もはや、廃人同然だった。
部屋に、不快な静寂が落ちた。
尋問の現場で、こうなることは、珍しくはない。それでも、慣れるものではなかった。
司令官は、重い表情で命令を下した。
「この結晶を、本部に送る。さらに詳しい分析が、必要だ」
「しかし、輸送中に狙われる可能性が」
「この艦隊で護送する。第七艦隊は、銀河でも屈指の武装を誇る。問題ないだろう」
研究員たちは、エネルギー結晶を厳重に封印し、艦の最深部にある特別保管庫に収めた。何重もの防護壁とセキュリティシステムに守られた、最も安全な場所だ。
「本部到着まで、あと数日」
司令官が、呟いた。
「それまで、この件は、極秘扱いとする。情報漏洩は、許されない」
*
一方、梅子たちのクルーは、艦内の一般居住区で休息を取っていた。
上層部で何が起きているか、彼らは知る由もなかった。
「なんか艦内が、ピリピリしてるっすね」
ラエルザが、首を傾げた。
「俺たちが押収した結晶、何か特別なものだったのかな」
クウラが推測すると、ケルケンが肩をすくめた。
「まあ、俺たちには、関係ないだろ」
梅子も、同意した。自分たちは、末端の巡察隊員。上の決定に従うだけだ。
でも――なぜか、胸騒ぎがしていた。
あのエネルギー結晶が、ただの密輸品ではないような気がして。
窓の外を見ると、宇宙の闇が広がっている。本部星系まで、あと数日。何事もなく到着できればいいのだが。
*
研究室では、封印された結晶の分析データが、暗号化されて本部へ送信されていた。
その内容は、想像を超える、異常値を示していた。
このエネルギー結晶の正体は、何なのか。
なぜアマノガワ同盟は、これほど高濃度の結晶を、地球に集めているのか。




