仮面の崩落、断罪の響き
王宮の大広間が、重苦しい静寂に包まれる。フィリップから放たれる圧倒的な魔力の奔流に、貴族たちは息を呑み、逃げ惑う者さえいた。
「……その魔力、まさか。先代王朝の血筋か?」
王は玉座から立ち上がり、顔色を変えた。彼は護衛の近衛兵たちに目配せをする。だが、その近衛兵たちは一歩も動かなかった。なぜなら、彼らの背後にはいつの間にかカインド・ピースフルが立ち、冷ややかな瞳で彼らを制圧していたからだ。
「陛下。……『英雄』という名の亡霊が、貴様の座を終わらせに来たぞ」
カインドの言葉と共に、会場中にフィリップの仕込んだ魔石から、先代賢王の末路と現王家の汚職、暗殺の記録が鮮明に投影された。煌びやかな晩餐会は一瞬にして、王家の罪を告発する「断罪の法廷」へと変貌した。
「黙れ! こんなものは捏造だ!」
王は自らの聖剣を抜き、フィリップへと飛びかかる。その一撃は、魔術的な防御を粉砕するほどの威力だった。
しかし、フィリップは避けない。
彼は公爵令嬢としてのドレスを片手で大きく引き裂き、その下に隠していた「亡国の王冠」のレプリカ――それはただの装飾品ではなく、先代王家が継承してきた魔力増幅器だった――を掲げた。
「偽りの歴史よ、ここで途絶えろ!」
フィリップが指先で空中に複雑な魔法陣を描く。それは今の王家が禁忌としている、かつての「聖なる浄化魔法」だった。
王の聖剣がフィリップの喉元に届く寸前、激しい光が二人を包み込んだ。
「ぐあぁぁっ!」
王の身体から黒い闇が噴き出す。それは王家が支配を強めるために契約していた「異界の魔物」の力だった。
光が収まると、玉座は崩れ去り、王は膝をついていた。
会場の全員が、その醜悪な真実を目の当たりにした。フィリップは肩で息をしながらも、毅然とした態度で玉座に背を向け、会場を見渡した。
「民よ、聞け! この男は神の代理人ではない。ただの道化だ!」
フィリップの声が、魔法によって国中の広場へと響き渡る。
王都の街角では、抑圧されていた孤児たちが、そして心ある市民たちが、フィリップの言葉に呼応するように立ち上がり始めていた。
「フィリア……いや、フィリップ」
エリザが駆け寄り、ボロボロになったフィリップの手を強く握る。
二人の背後には、かつての罪を背負った聖人カインドが、静かに剣を下ろして立っていた。
「……私の役目はここまでだ。後の変革は、貴様らの時代で作り上げろ」
王都の空に、夜明けの光が差し込む。
フィリップの長い潜入生活は終わった。しかし、それ以上に過酷な「新しい国を作る」という戦いが、今ここから始まろうとしていた。




