真紅の招待状
王宮の晩餐会は、聖セントアルティミア女学院の学園祭とは比較にならないほど、煌びやかで毒気に満ちた場所だった。
招待客は王国の枢機卿、軍の将軍、そして現在の王――「先代王朝」を滅ぼした冷酷な独裁者だ。
フィリップは公爵令嬢として、エリザと共にその巨大な大広間へと足を踏み入れた。ドレスは深紅。カインドが特別にあつらえた、魔力探知を無効化する最高級の儀礼服だ。
「フィリア、落ち着いて。あなたの心拍数が、少しだけ早すぎるわ」
エリザが扇子で顔を隠しながら囁く。
「……ええ。ですが、この先に俺の……父を殺した犯人がいると思うと」
フィリップの視線の先には、玉座に座る王の姿があった。彼は笑みを浮かべているが、その瞳には慈悲など欠片もない。フィリップの存在を「ただの公爵家の令嬢」としか認識していない。
(今夜、この晩餐会で、俺が『王』を演じてみせる)
カインドは会場の隅でワイングラスを片手に、静かにフィリップを見守っている。彼もまた、この「舞台」の共犯者だ。
「さあ、フィリア様。一曲踊っていただけませんか?」
近づいてきたのは、王の側近である宰相だった。彼はフィリップの指先を執り、強制的に中央のダンスフロアへと引きずり出す。
ワルツが始まる。音楽の旋律に合わせ、フィリップは令嬢の優雅なステップを踏む。だが、その足運びは常に宰相の背後――王の懐へと近づくための軌道を描いていた。
「おや、フィリア様。ダンスの足並みに、少し戦士のような鋭さを感じますな」
宰相が耳元で冷たく笑う。
「……お褒めにあずかり光栄ですわ。踊りとは、相手を支配するためにあるものですから」
フィリップは微笑みを返しながら、ドレスの袖に隠した「特殊魔石」を宰相の服の裏に貼り付けた。
これはカインドと共同開発した、「広域音声増幅&映像転送魔術」の起点となるものだ。
ダンスが終わる。フィリップは王の玉座の前で、深々と膝を折った。
「国王陛下。本日は、この国が守り抜いてきた『歴史』について、一つお話ししたいことがございますわ」
会場が静まり返る。
フィリップは、自分が公爵令嬢フィリアではなく、かつて滅ぼされた王家の血筋であること、そしてこの国の真実を暴くための最初の一歩を、世界中の貴族たちに見せつける準備を整えた。
「……面白い。申してみよ、公爵令嬢」
王が興味深げに身を乗り出した瞬間。
フィリップは、自身の偽装魔法を極限まで解き放った。令嬢の可憐な魔力の中に、かつて王家が持っていた「天を統べる高貴な魔力」が混ざり合う。
会場のシャンデリアが一斉に激しく揺れ、悲鳴が上がる。
フィリップは立ち上がり、令嬢の微笑みを消し去った。そこにいるのは、令嬢でも少年でもない――この国の真の継承者の威厳を纏った「革命の旗手」だった。




